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まだ空が暗かった午前2時過ぎ。
借りてきたDVD数本の返却日が明日(2時な時点で今日ということになる)までだったことを思い出して、借りたまま机の上に投げられていた映画数本をお風呂に入った後(ちなみに20時)から2時過ぎまでずっと鑑賞していたまではいいが、おかげで今朝は最悪だった。寝坊するしお弁当は作れなかったし、急いで玄関を出ればかたっぽの靴が後ろへ飛んで危うくこけるところだった。レベルでいうと、もうなんなのレベルだった。急いだおかげでいつも通りの時間に校門を通ることができたのでさっきまでのアレやコレは忘れることにした。今朝のことを頭の中から追い出して、昨日(0時を過ぎてからは今日だが)観た映画の印象的だった場面を脳内リピートする。

「あ、菊崎さんおはよう」

始まりはよく理解できなかったけど、終わり方はすっきりしててよかったなあ…輝的評価は星4つかな。藤城君にもおすすめしよう。
ふあ、ひとつ欠伸をもらしながら1歩2歩進むと3歩目で何かに躓き本日2度目のスライディングをしそうになった(さっきもギリギリでスライディングを回避したのだ)

「おおわっと!」

くん、と後ろから腕を引かれ、なんとか体制をたてなおす。

「大丈夫?」

支えられた腕の先でにこにこしている、キラキラの背景を背負ったキラキラ頭をここまで殴りたいと思ったのは今日この時が初めてだ。私には無害な人物だと思っていたのに。なんだこの絶望というかいらつきは。つうかいらつくだろ普通に。何が大丈夫だっての?

「足引っ掛けた本人が言わないでください」

そのへんの女の子ならよだれをたらしそうな笑顔の主を睨みつけながら腕を払いのける。周りから痛い視線を感じた。なんていうか、お前何様なの?的な。お前ら私が悪いみたいに勘違いしやがってこの金髪が私に何したのか見てたか? 頭(顔)にばっか目がいきやがって。キラキラしたもんばっかじゃなくて足元的な意味でジメジメしたものもちゃんと見ろ。
足元は常に注意しましょうね! 私なりの最大級の優しさを詰めてみた。

「だって挨拶したのに無視するんだもん」

だってじゃねえよ、だってじゃ。しかも、だもんって何だ。王子に似合ってないことはないけどなんかやだ! 似合ってるけど可愛くない!ていうか皆さん今ご覧になりまして? ニッコリと一瞬だけ微笑んで一瞬で無表情になられましたわよ。何この温度差。さっきのキラキラ営業スマイルどこいったの。ていうか挨拶なんていつしたんですか。してないでしょ。

「挨拶なんてされてないんですけど」
「しましたー」
「聞こえませんでしたー」
「生徒会長権限で裏庭の花壇掃除させるよ?」
「うざーい! 藤城君がいたら王子今頃ぼっこぼこですよ」
「残念ですが蓮はまだきてませんー」
「もっと残念なのは王子の中身です」

一見フレンドリーな会話に思えるだろうが(そうでもないか)、今の王子の顔には表情という感情が存在していない。藤城君も似たようなものだが、無表情で声だけテンション高いというかリズミカルなのは目の前にしてみると大変奇妙なものだと思う。とっても奇妙な気持ちです私今。出来ればさっきの営業スマイルで話しててほしい。

「ていうか王子なんでこんなとこに突っ立てるんですか?」
「突っ立ってるわけじゃありませんー。立ちながらみんなに挨拶してるんですー」
「へー」
「挨拶ついでに校則もチェックしてるんだ」
「わぁー、素敵な営業スマイルですねっ!」
「一、スカート短い・二、髪の毛茶色い・三、態度悪すぎ・四、生徒会長バカにしました」
「なんなんですか」
「校則4つも破ってますよ菊崎さん。スカートは膝から5センチ、髪の毛は黒く染めてください、その三そんなんだと社会から弾かれますよ。四は生徒会長室連行決定」

「死ねよ」


今のは断じて私が言ったんじゃない、断じて。目を見開き(あ、表情変わった)この子こんなこと言う子だったかしら!?とでも言いたげに口をあけてまじまじと人の顔を凝視する王子はとりあえず無視しておく。解説してしまった時点で無視できていないけど、あえてリアクションやつっこみはいれないでおく。

「藤城君おはよう」
「んー…」

不機嫌そうに眉間に皺を寄せている藤城君に挨拶する。死ね発言したのは私ではなく彼である。王子のリアクションは一々ツッコミが面倒だなあと思い始めた今日この頃。

「朝から生徒会長様なんぞ拝みたくねーんだよ。引っ込め」
「朝から見事なマシンガントークですな蓮君」
「黙れハゲ」
「藤城君って王子の前だと口悪いよね、毒舌なのは元からだけど」
「大丈夫、こいつ鋼のハートだから俺の言動なんてかすり傷にもならないよ」
「ガラスのハートなんですけど?!」
「ていうかさぁ、王子に頭のことは絶対いわれたくないんだけど。生徒会長のくせに金髪とかなんなの? なめてるの? 金髪とか…しかも腰パンだし」
「日本人の腰パンは似合わない奴が多い」
「あー…無理してる感じはあるよね」
「足短いやつのファッションなのに長いやつのが似合うって間違ってるよな。なんて理不尽な世の中だ」
「割と似合ってる王子は足短いってこと?」
「しかも豚足です」
「あっはー、そんな情報いらないです」
「お前らは何か、どこぞの不良か。いじめっ子か」
「あぁー、ねみ…」
「1時間目なんだったかなぁ」
「体育だろ」
「それ昨日の時間割だよ」
「そーだっけ」
「そういえば数学の宿題があったようななかったような…」

「そして俺放置っていう……」


10m離れたところで振り返ってみると、私たちの前では見せないような、満面の笑みを生徒(とくに女子)たちに振りまきながら挨拶している生徒会長様がいらっしゃった。

「あれがアイツの愛想笑いだから」
「女の子が騙されるわけですねー」
「紳士ぶってなー、変人のくせに」
「知らぬが仏っていうんだっけ?」
「別になんでもいいわ」



人格


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