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「うざいんだけど」


4時間目の授業が終了したのと同時に吐き出された言葉だった。開口一番にまさかこんな一言をくらうとは……反射的に謝るとこだった。俺なんもしてないのに。

「何が。あいつがか」

そう言って指した我がクラスの担任を菊崎は一瞥してから「あんなんどうでもいいの」とまたまたキツイ一言で否定した。彼女の機嫌が悪い理由はおおよそわかるが、これは俺の責任ではなくあっち側のせいだということを主張したい。その意を込めつつ菊崎の方に視線を投げれば彼女はさっさと弁当を机の上へ広げていた。
今日は珍しく教室で食べる気らしい。俺も菊崎に合わせて弁当を、と思ったが自分は購買利用者だった。弁当はもちろん持ってきていない。

「藤城君」
「はい」
「座ってください」
「…はい」

いただきます、と箸を片手に持った彼女が俺を見ずに促す。とりあえず言われるまま座ってみる。

「今日さ、鈴木さん…鈴木サンたちと一緒にいないね」
「あのさ菊崎、ずっと言おうと思ってたんだけど…全員鈴木じゃもうわかんねぇ」
「一昨日までターゲットだった子を鈴木として、残りは田中でいいよ」
「(ほらやっぱ田中とかじゃん! 何も解決してないじゃん!)」
「そんでもって鈴木さんちらちらこっち見るしさ…」
「コメントし辛いんですけど」
「コメントしなくていいからこれ食べてて、聞いて」

これ、と言って菊崎が取り出したのはクリームパンだった。ナイス! 持ってたならもっと早くわたしてほしかった。

「これ俺に?」
「さっき買ってきた」
「気が利くじゃないか」
「黙って、食べてて」
「いつもと立場が…とにかくありがとう。お話を続けてください」
「………」

菊崎が言いたいこととか考えてることはなんとなくわかる。それが言葉にしづらいのもなんとなくわかる。以前、彼女は出来ればいじめはなくなってほしいと言っていたし、事実昨日からそういう行為は行われていない。彼女が望んだことが現実したわけだ。でも実際に訪れた現実に何故か違和感が残った。

「この世話焼き」


小さく呟かれた一言を必死で拾い上げて、噛み砕く。別に好きで世話焼いたわけじゃないし、世話を焼いたつもりもない。それはきっと菊崎だってわかってるが、他に言葉が見つからなかったのだろう。それを理解してるからいらつくとかはなかったけど、やっぱりちょっとこたえた。
他人に聞かれたらきっと自惚れだの自意識過剰だのなんだのと言われそうだが、鈴木さんも(先ほど命名された)田中軍団もちらちらと俺を見ているような気がしてならない。自惚れとかそんなレベルじゃないぞこれ。これだけだと俺がナルシストだと思われそうだが決して違う。ナルシはあの金髪の方だ。
見られたくて見られているわけでもないし、意識させたくて行動したわけじゃないし…意識されてる側としては多少気にかかる。なるべく気にされないように生きてきたのに。なんたる失態。菊崎の言うとおりだ…俺のばか。俺以上に、気分を害してる菊崎さんがほんと怖い。コイツ最近怒ってばっかだな。

「なにー妬いてんのー」
「はっ、何言ってんの」
「え、何今の。鼻で笑った? 今鼻で笑った?」
「私が、うざいのは」
「俺とか言わないでね凹むぞ」
「チラチラ藤城君が見られてるついでに私のことも見られてるってことだよ。男の嫉妬は醜いって言うけど女も大概だよ。おかしいよね、私なんも悪くないわ」
「それで怒ってんの」
「私マイナスな視線しか感じないんですけど!」
「それって元からじゃねーの」
「…う、とにかく見られるの気分いくない」
「それは俺もですが」
「なんとかしてくださいよ」
「俺にまた世話焼いてこいって言ってんのそれ」
「ごめんなさいなんでもないです」
「ですよね(立場いつも通りだな)」
「まあいいや、いじめないのはいいことだ」
「菊崎的完結」
「妥協してあげたんです」



望遠


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