お馴染みの昼休みの屋上。藤城君が持ってきてくれたを一枚一枚手にとって見てみる。積み上げられたCDケースは実に20枚以上あった。どんだけだ。 彼はこれでも厳選してきたんだけどやっぱレアなのは聴いてもらいたかったから、と言っていた。私に聴かせたいCDがこんなに…!嬉しいような、うーん、複雑だ。 「全部ロック!」 「パンクもある」 「一緒!」 一緒と主張した私に、藤城君の目が見開かれる。えええええいつもけだるそーに半目だったりするのに! 何で?! パンクとロックというのは微妙にちがくて、ロックはロックだけどうんたらかんたらと珍しく引き下がらない藤城君に今度は私が目を見開いた。何でロックのことに関してはこんな熱いんだこの人! とりあえず珍しく熱弁を振るう藤城君を放置して、昨日頭に入れたバンドの名前を探してみる。探すといっても大体のCDが同じバンドのものなので見つけるのは簡単だった。 「幅広く聴いてるんだと思ってた」 「俺は一途なんだよ」 「へー」 「それに比べて菊崎はずいぶんな浮気者だね」 「違うよ、私はみんな同じくらいリスペクトしてるんです」 「へー」 「一途っていうかさあ、藤城君のそれってただ世界狭いだけじゃない?」 「あ、言ったなこのやろ。藤城さんかっちーんと来ましたよ」 「やめて、無表情で王子みたいな口調やめて絡みづらい」 「はーい、呼んだ?」 「うっわ出たー」 「噂するところに王子ありですな」 「呼んでねえから戻って、どっか遠くの世界に」 藤城君の背後からひょっこり顔を覗かせた王子のいきなりの登場にはもう慣れたので、別段驚くこともなく普通に挨拶する。というか何でいつもどこにいるのかわかるんだろう。 「俺もお勧めのCD持ってきましたよー」 「お前音楽とか聴くの」 「そりゃ聴きますとも!」 「どうせクラシックだろ。圏外だ」 「クラシック…も聴くけど、違うの持ってきた」 「はい、誰も期待してない、興味もねーし。帰れ。」 「ひ、ひどい蓮君…!」 「藤城君、盗聴器でもつけられてるんじゃないですか?」 「いや案外菊崎の方かもよ。結構抜けてるから簡単につけられそうじゃん」 「失礼だけど、リアルだ…否定できない…!」 「つけてないから! そういう変質者を見るような目でこっち見ないで!」 「つうか変質者じゃん、お前」 「でも盗聴器の類はつけてないよ! 勘だよ、勘。むしろ愛!」 「藤城君愛されてるねー」 「いや案外菊崎の方かもよ」 「えぇー…ないない、ていうか無理」 「だよな、王子に愛されても…」 「でも、王子に愛されたら菊崎さんお姫様になれるよ!」 「何でお前そこ必死なの」 「私より藤城君がお姫様になればいいんじゃない?」 「俺が姫になってどーすんだよ」 「似合いそうだよ」 「似合ってどうする。つかそれなら菊崎のが似合うだろ」 「王子相手じゃお姫様になれないよね」 「外見以外どこも王子っぽくねーしな」 「顔以外は王子要素がねぇ…」 「……深く、傷ついた…」 「お前の場合オートで修復されんだろ」 「俺って何!?」 「え、王子」 「いやそうなんだけど、でも王子って呼ばれたくて囁かれてるわけじゃないから!」 「満更でもねーくせによく言うよ」 「ま、まあそういう時もあるけど…でもさ、菊崎さんと蓮は別の理由で王子なんだろ!?」 「でもさーサクラちゃんはそっちのが嬉しいんじゃねーの」 「またサクラちゃんて呼ぶ!てかどういう意味だっつの!」 「なんですか」 「アニソンやっぱあんじゃん」 「違う、アニソンじゃない!」 「はー…」 「ハードとパンクに違いがあると言うなら、それと同じくらい違います!」 「えー、どのへんが」 「アニソンはアニソン、キャラソンはキャラソンです」 「アニメはアニメじゃん」 「ロックはロックじゃん」 「俺メタルもいけるし」 「意味わかんないよ」 「菊崎さんはおたく、っと」 「いやいやいや、王子何言ってんの、ちがうし!」 「あー腐女子ってやつか」 「もっと違うよ!!」 「あ、ねえ、菊崎さん」 「んん?」 「メアド交換しましょー? 番号もついでにー」 「……ちょっと待ってて」 「え?」 「わかったよ菊崎、わかったからこいつのために泣かなくていいから」 「な、泣いてないよ、ちょっとあれだよ!」 「登録名はサクラちゃんでよろしく」 「サクラちゃんって呼ぶな!」 「じゃあサクちゃんって登録するね!」 ← 27 → |