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HR後の、教室。なんとなく帰らずにそのまま席についていれば何故か周りの連中も帰るそぶりを見せずに教室でぺちゃくちゃ喋り続けていた。なんか先に教室出るのも癪な気がして外に出るに出れない。気紛れに残ってた自分に後悔。いつもみたいにさっさと帰ればよかったな。
菊崎の顔色は数日前よりもだいぶよくなっていた。今の教室内は騒がしくはあってもいつもより幾分静かで穏やかささえ兼ね備えていた。未だにニュー鈴木は蚊帳の外状態で一人でいるものの、イジメっぽいイジメは行われていなかった(シカトもイジメっちゃあイジメだけど)。菊崎が何を思ってるのかわからないけど、落ち着いているってことはなんとなくわかる。

「女子ってホント気紛れだよね」
「女の子ってみんな自己中なんだよ」
「そりゃ男子もだろ」
「得に藤城くんがね」
「うるさいよ」

俺はいつものように片膝を椅子に立てながらヘッドフォンを装着して、昨日落としたばかりの曲に集中する。隣で菊崎は、最近はまってるらしい推理小説を読み始めた。
目を瞑れば聞こえてくるのは流れてる曲のサビの部分で、今の俺の中にはそれ以外の音が存在しなかった。歌詞が自然と浮かんでくる。そんなに聞いたわけでもないのに。これは珍しくヒットだ、なんて自己満足に浸っていると、つんつんと腕を(位置的に)菊崎に突付かれた。目を開いて菊崎を見ると、こっちを見ながら目配せして見せた。その視線の先を辿れば鈴木サンが(…菊崎に頼んで新しい名称考えてもらおうかなあ。鈴木増えすぎ)、気持ち悪いくらいの輝かしい笑顔があった。例えるならまるであの金髪を彷彿させるような胡散臭い顔。心の中で舌打ちをして、音楽を一時停止する。そっけなく「何か用」と問えば鈴木サンが手作りっぽいチラシを胸の前で持ちながら嬉しそうに笑った。俺この顔知ってる、計算で作る笑顔っていうんだぜ。金髪のアイツの得意技。
というわけで残念ながら俺には効かなかったりする。

「今日、クラスの皆でカラオケ行くんだけど藤城君も来ない?」
「……は?」
「ほら、なんか藤城君ってクラスから孤立してるし…みんなと仲良くなってもらいたいし」
「…………」
「それに…あたしも藤城君と仲よくなりたい」

ふーんそうなんだ、と言いそうになって止めた。なんかそれだけでも肯定したと思われかねない。つか、あれ? なんかこの前と話し方ちがくね? 前もっと感じ悪い喋り方だったぞコイツ。何があった、オラクルでも受けてきたか? 鈴木サンまじ怖いわー。手足れやなー怖いわー。
ちらりと菊崎の方を見ると推理小説を夢中で読んでる振りしながら俺の様子を伺っていた。そんな菊崎に小さく笑いかける。睨まれた。何故だ。

「つーかクラスの皆って誰?」
「え?」
「一人でもかけてたら皆って言わねーんじゃねぇの?」
「だ、だから藤城君を誘ってるんだけど」
「(それって菊崎も誘ったってことか?)」

菊崎が鞄を引っつかんで立ち上がる。菊崎の顔を盗み見ようとしたら目を逸らされた。何故だ。菊崎さんのご機嫌が斜めのようなので俺も実に今すぐに帰りたい。鈴木邪魔だどけよ。
菊崎が、持っていた推理小説の角で机をトントントンと3回叩く。なんとなくその音が“はやく”、と奏でたような気がした。

多分そういう意味なんだろうけど。


それから、こっちには一瞥もくれずに教室を出て行く彼女の背を見送る。す、と左手の人差し指をニュー鈴木に向ける。その先を鈴木サンが追って、彼女を視界にいれた途端に露骨に嫌そうな表情を見せた。俺が鈴木サンの方を見てると気付いてすぐに引っ込めたけど。ボロ出まくりじゃん。

「まずは、あっちで一人孤独に座ってる鈴木さんでも誘ってやれば?」
「は?…すず、」
「俺は別に誘ってくれなくて構わないし」

疑問符を頭上に浮かべる鈴木サンの話しを無理矢理打ち切って、それ以上鈴木サンが何も言ってこれないように首にかけたヘッドフォンを耳に当てる。ついでに一時停止したままの曲を再生し直して、鞄を引っつかんで教室を出る。やっぱり聞こえるのは昨日落としたばかりの俺的にヒットが来そうなこの曲のサビ部分だった。
いつだったか、菊崎にも似たようなことがあった気がする。そうだ、そのときも背後で「鈴木って誰」の声が出ていたんだ。なんか地味にうけるんですけど。

教室を出てすぐ、金髪のチャラ男に捕まっている菊崎がいた。

「何でお前はそう行く先々に出没するかな。ストーカーですか」
「いやいや蓮君に用はなくて、」
「菊崎さんにってか」
「まあ今回はほんとたまたま会っただけなんだけどね」
「これから生徒会らしいですよ」
「へー、どうでもいいや。俺帰るからそこどいて」
「え、あ、うん。…蓮のやつめっちゃ不機嫌?」
「私だって不機嫌です」
「え、そうなの? 二人して何かあった?」
「気紛れなのはいいけど、そういうの厄介!」
「……は?」
「個人的意見だけど、迷惑だと思う! でもそれを言う権利が私にはないこともわかってるんです。気紛れでも責任は持ってほしいんだよね」
「相変わらず菊崎さんてよくわかんない人だよね」

「あーなんか気分乗んねえな。菊崎、しゃぶしゃぶ食い放題の店行こう」
「え、マジで」
「俺も俺も!」
「お前はいいよ。誘ってないし」
「俺も行きたい!」
「生徒会あるんだろ。無理すんな、来んなよ」
「絶対行く!」
「…………」
「別に来てもいいんじゃないですか? 生徒会の後なら…」
「菊崎さんんん!!」
「じゃあ、来てもいいけどさ」
「いよっしゃ!」
「お前のおごりな」
「マジすか」
「本気と書いてマジと読む」
「まーいいよ」
「金持ちってこういうとこ寛容だよね。うぜぇぜ」
「王子ってお金持ちなんですか?」
「こう見えてコイツお坊ちゃまなんだよ」
「へー! じゃあ本物の王子様なんだね。漫画とかによくこういうキャラいるよね」
「ありきたりなね。でも絶対メインキャラになれないタイプ」
「蓮君失礼だからそれ」
「あとで場所送るから生徒会終わったらメールして」
「了解っ。俺っちめっちゃ頑張るし! ちゃちゃっと終わらせるから先に始めないでね」
「えー……?」

藤城君て携帯持ってたんだ


知らんかった。



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