奴は相手すんのたまに疲れるけど、気楽でいい奴だとは思う・でも奴をカテゴライズするなら疫病神がぴったりだと思った。そんなカテゴリー存在させていいものかとも思うが。 俺が奴と会って挨拶交わして廊下へ続く階段で立ち話なんてしていなくて、奴を無視してでも屋上へ駆け上がっていればきっとこんなことにならずに今頃菊崎と味噌田楽(こんにゃくを茹でるだけのインスタントだが)でわいわいやっていた気がする。もしくは、調理室でそのまま食べてくればよかった思う。被害妄想も入ってるけど、とりあえず奴は疫病神というポジションについてもらうことにしよう。今度何かいらつくことがあったら理不尽にこいつのせいにしてやる。 「ほんと勘弁しろよな、殺すぞ」 「いやーん蓮君こわぁーい」 「殺すだけじゃ済まねえな」 「というか俺のせいじゃないしな」 「お前が俺に話かけるとろくな目に遭わねえ。今度から俺を見かけても話しかけないでね」 「蓮君ちょっと被害妄想入りすぎじゃないの」 「解ってるよ」 「確信犯すか」 「黙れサクラちゃん」 「サクラちゃん!?」 奴、あだ名は王子。アホみたいな金髪の頭に握りこぶしを叩きこんでやった。もうホント、凹むんじゃないかってくらいの力で。王子の頭は見た目に違わずアホらしいので凹むことはなかった(根拠不明)。 「いって…!」 「どうしよう俺これから、なんかすごい、俺が…俺が……」 「いいじゃんそんな気にしなくても。役得だって」 「どこがだよ!」 「無表情でテンション上げんなって、こえーよ」 「やばい、…今すぐ豚骨ラーメン食わないと不安で生きてけないかも」 「キレてんのは解るけど何故にラーメン」 「キレてないけど不機嫌だから豚骨ラーメンが食いたいそんでお前は埋まってくればいい、墓に」 「蓮君 落ち着いて」 遡ること約5分。インスタントの味噌田楽のこんにゃくを茹でるために、生徒会長の馬鹿王子をそそのかして調理室の鍵をパクらせ、皿に盛り付けて菊崎が待ってる屋上への階段を上っている時に、置いてきたはずの馬鹿(王子)がちょっと話があるとか話しかけてきたからめんどくさかったけど話だけは聞いてやるかと耳を傾けたまではよかった。だったら調理室に居た時にでも話せばよかったじゃねーか。そういう些細な無駄は関心しねえぜ、なんてぼやきながら奴と向かいあったのが、ある出来事が起こる約3分前。まだ、百歩譲ってそこまではよかったんだ。何事もなく。話の内容は俺の家のことだったわけだけど、そんな悪い話でもねーし、普通に世間話だったわけでイラつかせる要因ってほどでもなかったわけだが。 「あのさー、俺腹減ったからもういい?」 「…ああ、うん。引きとめてごめんね。つーか一緒していい?」 「却下」 「そう言うと思ったけど、菊崎さんからすでに許可下りてるんだなー」 「なんでお前に許可が下りるのか不思議でたまらないよ」 「っと、つーわけだからちゃんと行けよ」 「はいはい。わーったよ」 がちゃり、屋上のドアがあき、上から数人の足音が聞こえてくる。反射して相手の顔が見えないけど、笑い声が聞こえて誰が来たかなんて目で確認せずともわかった。とりあえず菊崎じゃない。あれは…ニュー鈴木に鈴木サングループの奴らか。 馬鹿王子と二人して話すのをやめて彼女達が早く通り過ぎてくれるのを待った。生徒会長ー目の前でイジメ起こってますよー、なんて肘で奴を突付きながら促すと奴は苦笑いしながら溜息を吐き出した。いやお前何とかしろよ。溜息つきながら笑ってる場合じゃねえだろ。 静かな廊下に甲高い金切り声のような笑い声は、狭い階段の壁に反響して耳に痛かった。ふざけていたのだろうか、それとも 「……あ」 「………」 「へ?! あっ…」 各自各様で、疫病神はあちゃーって顔しながらどっか楽しそうに口元を歪めていてむかついたし、目の前にいた女はよくわっかんねえ反応見せるし、他もそれぞれで反応してて、当の俺は「…あ」と呟いたきりいつものように無表情を貫いていたし。なんで俺こんな時に無表情なんだよと思わず自分に突っ込んでしまったあたり結構内心では焦っていたのかもしれない。珍しくパニクっちまったじゃねーか。これも全部アホみたいな頭したアホな疫病神のせいだ。 それとも、‥‥ 背中押した張本人はマジで吃驚してるし(俺が助けたことに? それとも鈴木がマジで落ちるとか思ってなかったとか?)、他のやつらも吃驚してるし騒いでるし。なんかニュー鈴木はこっち見つめてるし。つうかお宅どなたですか。早く退いてくれませんか。やべ、声出てねえ。 味噌零れたんだけどマジねえわ…こんにゃくは大丈夫かな。 思わずこんにゃくと口にしそうになった俺をさえぎるように、王子が外面モードを発動する。 笑顔で 「大丈夫?」とニュー鈴木を気遣うような言葉をかけていた。いやいや、まず俺のこんにゃくを気遣え。俺の味噌が零れたんですけど。 しばし王子に見とれながら腕にもつれかかっていたニュー鈴木が慌てたように体勢を立て直す。その時に小さく腕が揺れてまた味噌が零れおちた。腕は軽くなったけど心の中は重いままだ。 「ごごごごめんなさい!」 「…………」 「うん、怪我がなくてよかったよ。蓮は平気?」 「平気なわ、」 「大丈夫みたいだね」 平気なわけねーだろ、と言ってやろうとしたところを途中で遮られる。こいつ誰の許可とって俺の言葉遮ってんだ。ほんっと一般生徒の前だと強気だよな。外面ポリシーすげぇ。俺には到底真似出来ないね。 ここで奴の本性を引きずり出すのも面倒なので、心中で嫌味やら皮肉やらをたっぷり浴びせてやった。下手な笑顔貼り付けやがって気持ちわりーな、なんでキラキラしてんだうざってぇ…。 「階段は転びやすくて危ないから、気を付けて」 「は、はいっ!」 「すみません…」 「こんなとこで遊んでると、怪我しちゃうし、ね?」 ニュー鈴木の上に立っている女子数人に外面モード全開の笑顔で注意してるこいつも大概、偽りの多い奴だ。俺の言う偽りの友情なんかよりずっといいとは思うけど。必要な奴にだけ、ってとこは納得するし、嫌いじゃない。 気持ち悪いくらいキラキラして見える笑顔にやられてんのか少し顔を赤らめた女子たちはパタパタと階段を忙しく駆け下りる。ニュー鈴木の腕を掴んで連れてくのも忘れずに。忘れたと言えばニュー鈴木の俺に対しての謝罪だけだ。何故あの馬鹿に謝って俺に何もないわけ。何かほしかったわけでもないけど、せめて一言なんかねーのか、とは思う。いやもう別にいいや。こんにゃくは無事みたいだし。 「…階段では気を付けてって言ってるのに、ね?」 「ね、じゃねーよ。気持ち悪い」 「あの子ら蓮のクラスのでしょ?」 「……まあ」 「よかったじゃん。クラスの女子華麗にキャッチで株も上がるぜ?」 「もういい、腹減った」 「俺も俺も」 「付いてくんな疫病神が」 「やくっ?! ひど!」 「サクラちゃんマジうぜー」 「サクラちゃんて呼ぶな!」 ← 23 → |