隣を盗み見る。ヘッドフォン装備の彼は無表情に冷たい目をしながら前を向いていた。あの目は、イライラしているかつまらない時にするもので、きっと今回は後者なんだろうとなんとなく思った。私も、両腕を机に置いてその上に顎を預けながら藤城君と同じ方へ目を向けた。 先日会長が言っていた視察はなんだったのかと疑うくらいに、それは存在していた。鈴木さんのポジションは別の人へ受け継がれたようだ。嫌な受け継ぎだなあ、なんて他人事のように考えるが一歩違っていればあの鈴木さんのポジションには私が就いていたかもしれないのだ。藤城君と私の持ち前のマイペースというか他人に興味を示さない性格が役に立ったのか、あちら側からも興味をなくされ、私を相手にしたところであっち側に何の面白みもないと判断したのか先日の一件以来私への嫌がらせはない。その代わりに新しい人が私と鈴木さんの代わりを担うことになってしまったわけだけど。ちょっと同情する。そしてまた今回のターゲットも鈴木3と仲のよかった子。 鈴木3は一体何がしたいんだか。ああいう人の考えは理解できない。したいとも思わないけど。理解できたら何か私に得はあるのだろうか…ありはしそうだけど別に損も得もあったって関係ないか。 「暇」 「やることワンパターンだもんねえ」 「今回は机に落書きから入りましたな」 「マンガうけうりー、みたいな」 ヘッドフォンを首にかけた藤城君は先ほどの冷たい目から、完全に興味失せましたという目(半目)でクラスメイト達を見る。生徒達の真ん中に、鈴木3の笑顔があった。 「男の子ってなんでああいう子が好きなの?」 「鈴木3って結構人気らしいよねぇ」 「藤城君は?」 「俺ああいうタイプだめかな。連絡とかマメにしないとすぐキレそうじゃん」 「あー……」 そうかも、と喉まで出て、止めた。キレはしないけど、連絡はマメにほしいと私も思うのだった。うわー鈴木3と共通点見つけちゃったよ。なんだか微妙。内側と言葉遣いがもっと素敵だったら素直に共感してもよかったかもしれない。私なんだか上から目線だな。 「生徒会長は何してんのかねえ、こんな派手にイジメが発生してるってのに。マジで適当なこと上に報告してんだな」 「自分が不利になるようなことをわざわざ見せたり喋ったりするはずないし難しいのかも…」 笑い声で溢れていた教室が静かになる。クラスが一時静かになる理由っていったら先生が来た時くらいだ。億劫だったけどとりあえず勉強道具を机の上へ用意する、と。ダァン、と耳に痛い音が目の前でした。机に置かれた2つの手の先を見ると無気力全開な顔をした金髪生徒会長が立っていた。ああ、クラスが静かになったのはそのせいなの。さっきより女子の声が大きくなった。いきなりの生徒会長の登場に女子がきゃーですよ(確かに綺麗な顔立ちはしてるけどさ…すごく無気力だったり、言動が…あれですよ?) え、ていうか、なんでこの人このクラスにいんの、ていうかなんで私の机叩くの、そんでもってなんでプリンが握られてんの、美味しそうじゃないのよ。 「あ、あの…? なに?」 「うっざ」 「その通りさ」 「うざいの認めたよ」 「違う。俺だって真面目に職務をまっとうしているわけだと主張をしにきた」 「職務とか…普通に活動って言えば?」 「菊崎さんおはよう」 「お前って都合悪くなると話かえるよな」 「今日は朝の挨拶と一緒にプリンをもらってもらおうと思ってね」 「え、これ私がもらっていいんですかー、ありがとうございますー。あー会長おはようございますぅーいただきますぅー」 「スプーンはここね」 「どもー」 「………」 生徒会長が握っていたプリンを机の真ん中に置き、どうぞと笑顔で差し出してくる。それからスプーンも手渡されてしまっては食べるしかないでしょう。先生が来ないうちにお腹に幸せになってもらおうと思う。今朝は時間がなくて朝食半分も食べれなかったんだよね、ラッキー。 教室内は徐々にさっきと同じように笑い声で溢れてくる。生徒会長の前だから当然だけど、先ほどのようなイジメは行われていなかった。鈴木さんの代わりにされていた子の周りにはクラスの大半の女子が群がって、まるで彼女を隠しているように見えた。 「生徒会長どういうつもりっすか」 「俺は決めました」 「何をだ、活動内容をか」 「活動と言っても生徒会の方じゃない」 「帰れ」 「菊崎さんと仲良くなりましょうキャンペーンを実施しようと思ってね」 「まずはイジメを積極的に対処していくべきだと思います」 「蓮がまともなこと言ってんじゃねーよ」 「お前はもっとまともなこと言った方がいいけどな」 「カスタードプリンうまー」 「昨日の理不尽な2人の態度に俺はカチンと来た」 「そういやお前って根に持つタイプだったっけ…誤算だ」 「だから、何がなんでもお友達カテゴリーにいれてもらおうと決めた」 「馬鹿だねー君」 「んんー? 会長はきっと時間が立てば入れるんじゃないですか? 私にお友達カテゴリーが存在してたなんて自分でも知らなかったですけど」 「お、マジで?」 「私今は藤城君に夢中なんだよ」 「俺も俺もー」 「え、何その関係」 「まだ藤城君のことよく知らないし…あ(本人いるじゃん)、藤城君ちょっとヘッドフォンしてて」 「うぃー」 「とにかく、藤城君のことまだあんま知らないんだよね。だから、今は藤城君と仲よくなりたいって思ってるんだ、だから会長は容量オーバーってことで後回しです」 「ふーん、なんとなく理解」 「会長に興味が出てきたのも事実ですよ。私他人に興味持ってないから結構レアだよ」 にやり、笑えば会長が苦笑いを見せる。「じゃ、今日はこの辺にして戻ろうかな」、そう言いながら背後を見る会長。その先を辿れば会長の目に映っているのは女子のかたまり。 「早く帰れし」 「言われなくても戻る」 しっしっ、と手で追い払いながら心底嫌そうな顔をする藤城君。さっきまでヘッドフォンしてたはずなんだけどいつ外したんだろう。まあ聞かれて困る話でもないから別にいいけどさ。 「見た? あいつの顔」 「後ろ向いてたからわかんなかったけど…?」 「すっげー愛想笑いしてた。これだから女たらしは嫌だよね」 「……はは、」 「会長って人気あるんだねぇー」 「ああいうのは鈴木3とでも付き合えばいいと思う」 「人気者同士で?」 「アホ同士で」 「あ、そっち」 ← 18 → |