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何事もなく迎えた放課後。私は拍子抜けしつつ、藤城君は退屈そうに欠伸をかみ殺しながら一緒に教室を出るとちょうど私達の教室の前を通りかかる金髪の生徒会長と出くわした。突如、藤城君の無表情が一気に崩れて心底嫌そうな顔を(うわ、珍しい!)生徒会長に向けた。一方、会長の方はちょうど出てきた私達に驚きはしたものの、すぐに無表情へと切り替わった。なんか、さっきと逆なような…さっき会った時は、生徒会長の方が表情豊かで、藤城君はまあいつものことだけど無表情だったのに…今はなんか入れ替わったみたいに逆だ。

「また蓮に会っちゃったんですけど…」
「嫌そうな声出すな。俺のが100倍以上嫌だ」
「別に嫌だなんて言ってないだろ、人の声にまでケチつけてんじゃねーよ。あ、輝ちゃんこんにちはー」
「こんにちはー」
「馴れ馴れしい奴だなお前、そういうのはその辺の馬鹿女だけにしとけ」
「蓮ってなんで俺と喋る時だけそんな口悪いのかなあ」
「(うーん、ついていけない! 付き合い長そう、だなぁ)」
「いや、ただ最近俺の機嫌が悪いだけ」
「は?」
「つまり八つ当たり」
「はあ!?」
「菊崎に八つ当たりするわけにいかないだろ、考えろバーカ」
「俺ならおっけーだとでも?!」
「無問題だ」
「んなっ…」
「藤城君、おなか空いたんですけど…」

二人の会話に割って入るのは抵抗があったけど…それと同時に勇気も必要だった。このままだと二人の世界に終わりが見えないので、意を決して藤城君に話しかけてみると、さも気にしないような顔(あ、無表情に戻ってる)で 「そーゆうことだから」と一言会長に向けてそのまま押し退けて先に進んで行ってしまった。な、なんか…なんかさあ…嫌ってるような態度っぽいんだけどさあ…藤城君のその行動って相手に安心してるってことじゃないのかな。八つ当たりってさっき言ってたけど、それって会長になら八つ当たりできるって相手を信じてるって、安心できるってことなんじゃないの…?

“菊崎に八つ当たりするわけにも”


私を気遣ってくれた一言なのか、それとも私へ対する境界線なのか…わからないよ。会長と藤城君の関係ってなんですかあああこの差は何?!

「ふむ、打倒会長だね」
「え、なにが?」
「盗み聞きとは趣味がよろしくないですね会長」
「いや目の前にいるのわかってたよね? つーか蓮のやつ先行っちゃったよ」
「まあ、焦らずじっくりだよ。藤城君待ってくださいよー!」

「……打倒俺って?」

玄関先で靴を履き替える藤城君の背中に声をかけて自分も靴を履き替える。

「奴は馴れ馴れしいと思う」
「奴って会長ですか」
「いいよね、外面いい奴って…鬱陶しいけど便利ではあると思う」
「うん?…、…?」
「菊崎さ、」

最近買ったばかりだというオニューのiPod(クラシック)をいじりながら藤城君が一歩踏み出す。それに倣って隣へ並べば彼は歩みを止めてiPodをしまってからこっちを見ずにまた一歩踏み出した。ヘッドフォンを装着しながら彼が言葉の続きを静かに吐き出す。小さく形にされる一つ一つの言葉を必死で耳で拾いながら藤崎君の微かな声の変化も聞き逃さないように、彼の声だけに集中する。 「あいつに名前呼ばせるの、やめて」 それだけ言って歩く足を少しだけ早めた藤城君に、慌てて自分も早足で隣まで行く。ぼーっとしてたら置いていかれちゃう。

「急に出てきたくせに俺より仲良さげって気に食わねー」
「え、」
「俺が、名前で呼んだらあいつにも呼ばせていいよ」
「う、ん…?(ちょっと理不尽な気もするけど…)」
「菊崎もさ、一緒なんじゃねーかなって思ったんだけど、今回はシンクロしなかったみたいだね」
「え、いや…シンクロっていうか…藤城君と会長さん前から知り合いみたいだし、私が入って行くのもなあって思ったんだよ! 藤崎君のことがどうでもいいとかって理由じゃないからね!」
「知り合いっつーか…まあ知り合いだけど…ただのクラスメイトなんだ、去年の。だから遠慮しないで入って来いって」
「元同級生…」
「そうそう、つーか菊崎の方が仲いいと思ってるけど」
「え、ほんとに!?」
「わー、超ご機嫌じゃん」
「藤城君は相変わらず不機嫌そうだね」

「うるさいよ」




「というわけで! 名前で呼ぶのは仲良くなってからにしましょう。私は会長とはまだまだ知り合いの域を出ません」
「はあ、そうですかって…は? というわけでとかわかんねえんだけど」
「私のお友達カテゴリーにも会長は入ってません。名前すら知りませんしね! 顔と生徒会長ってことくらいしかわかりませんしね!」
「蓮と同じこと言ってるし、っていうかアイツに何吹き込まれてきた。何気に俺傷つくんですけど」
「別に何も! 会長、ごめんなさい私とあなたじゃまだまだ分かりあえないと思うんです」
「なんだこの俺が振られてるみたいな空気」
「というわけで、私はクリームパンを2人分買ってこなくちゃなんで、さらばっす!」
「えぇー……」

翌日。たまたま見かけた会長をとっつかまえて、話頭に「というわけで、」を付けて昨日藤城君に言われた約束を果たしてきた。
うんうん、そういや私は会長の名前も知らないんだった! 知らない人から名前で呼ばれてるのも変だよね。うんうん、変だよね変変!
すっきりした気分で購買へ向かう私の背後に、無表情な彼がいることなど知る由もない菊崎輝なのでした。

「ふっはー振られてやんの」
「無表情でそれ言うのやめろ」
「人の顔にケチつけてんじゃねーよ、禿げろ」
「お前菊崎に何言ったわけ?」
「別になんも。つーか菊崎とか呼び捨てすんな。菊崎さんと呼べ。そして俺のことも名前で呼ぶな、呼ぶなら様付けしろ」
「様なんて付けるわけねーだろ。そんなに様付けされたいんなら生徒会長様って呼べよ」
「はっ、俺がお前に用があるとでも?」
「うわーうわー、何こいつうぜー」
「つーわけで、金髪のどきゅんには用がねーんで」
「なんか二人してすっげー一方的だと思うんだけど!」

「(知るかばーか)」



箱庭


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