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「菊崎、昼行かない?」
「行くー」

がさがさと、手に持ったコンビニ袋(in クリームパン2個)を掲げながらドアの横に立つ藤城君の所まで、(買ってもらった)おにぎりを両手に早足で並ぶ。

「今日さ、屋上行かね? 天気いいし」
「うん、いいよ」
「なーんか、さ…」
「うん?」
「めっちゃ拍子抜けした」
「んー?」
「何か仕掛けてくるの期待してたんだけど、あの人たちこそこそ話してばっかで平和だ」
「や、こそこそって時点でもう怪しいと私は思うよ。作戦会議的な意味で」
「俺の期待は空回りでしたー」
「はいおめでとー」
「お前最近むかつくな」
「なんか藤城君のマイペースさが移っちゃったみたい」
「俺がむかつく奴だって言いたいの」
「んー…他人から見ればすかした男、みたいな」
「うわ、最低じゃん…菊崎が」
「私?!」

階段に続く長い廊下を冗談を言い合いながら歩く。前よりも近くなった関係。距離が、一日過ぎるたびに1センチくらい近くなるような感覚が足元を軽くしていく。つい先日までは言えなかったことが、今日言えてる。それから、その言葉を返してくれる、それが嬉しくてもっと近づきたいって思ってしまう。浮かれすぎて距離感を間違えないように気を付けなくちゃ。踏み込んでいい所の区別はやっぱり曖昧で、注意しないと嫌われちゃうかもっていう不安はまだ拭えない。明日、明後日、また一歩二歩進めたら境界線もわかるだろうか。わかったら、いつかその境界線を触れていい距離にまで近づけるだろうか。後ろめたさも何も感じないで素直に一番の友達だと胸をはれる距離に近づけるだろうか。私の願望なわけだけど、藤城君もそう感じてくれていたら嬉しいなあ。もっと今より仲良くなりたいって思ってくれてたら、いいのに。

「あっれ、蓮?」


「…………」
「…え…?」

隣で話していた(割と表情穏やか。内容が彼の好きなものだったから)藤城君の表情が固まる。効果音にすると、うげ、みたいな。え、今、藤城君の名前呼んだよね?
藤城君とちょっとだけ似てる雰囲気を出しながら、目の前に現れた金髪男子は藤城君の嫌そうな顔を無視して近づいてきた。あ、無表情なところが似てるんだ(雰囲気が無表情って……私ったら失礼だったよー)。ええええ、ていうか、藤城君と仲よさげ?(一方的っぽいけど) 友達? 友達いたんだ!(失礼すぎる)
また一つ彼を知れた。あれ、あの金髪男子…私どっかで見たことあるような。キンキンに輝く金髪で同学年っぽいからきっとすれ違ったことくらいあるんだろうなあ。確かにあの頭は目立つし…私でもぼんやりとくらいなら覚えるかもしれない。実際顔はぼんやり、すっごくぼんやり、覚えてた。

「よ、久しぶりじゃね? 元気ー」
「たった今お前に元気吸い取られたよ」
「まじかー、俺の元気あげようか?」
「いらねーよどけよ邪魔だよついでにジュース買ってこいよ」
「……(ぽかーん)」
「つーか蓮君が女の子連れてるなんて初めてじゃない?」
「俺のこと知ってるような口ぶりやめろ」
「いや知ってるから、何その初対面の人間を見るような目は」
「えっと、どちら様でしたっけ?」
「あ、言ったな、元気分けてやんねー」
「いらねーっての」

テンポよく進む会話に一つの違和感。すごくテンポのいい会話なんだけど、なんか、空気重いような感じがする…! 会話はとても楽しそう(?)なのに、二人とも声のトーン低い! テンション低い! 突如現れた藤城君の友人らしい(藤城君は否定的ですが)金髪男子の台詞はとても明るいのに…声が、テンションが…! 藤城君の無表情に負けず劣らずその声は全然楽しそうって感じじゃなくて、テンションが静かすぎる!と、思う! ていうか私放置プレイくらってるんですけどひどくないですか。二人の世界突入ですか、そうですか。ちょっと拗ねたくなりました(いつもの私達もあんな感じなんだろうか)

「つーか蓮さあ、その子誰?」
「別にお前に関係ないだろ。俺の友達」
「うっそ蓮友達いたんだ」
「(私と同じこと言ってるよこの人)」
「黙れよ。ちなみにお前は俺の友達カテゴリーに入ってないから」
「そんなカテゴリーあったのかよ」
「ねーよ」
「今自分で言っ、」
「菊崎、コイツ知ってる?」
「おい遮んな」
「顔は…ぼんやりと…んー?」
「え、俺のこと知らないの?」
「すみません、どこかで見たような気はするんですけど…(他人に興味なくて)」
「自意識過剰おつー」
「んー、っと…あ、ああ、なんか知ってる!」
「まじすか」
「お前さっきから何かうぜーんだけど」
「何で君はそんな俺に冷たいの」
「いつものことだろ」
「まあそうだけどよ」
「うんうん、女の子たちに人気のあの人だ」
「あの人って…」

目の前の二人が顔を揃えて呆れたような表情を作る。藤城君はいつもとして、金髪男子は初対面なんだからちょっと失礼な気がする。私も人のこと言えないけどさ。

「これ、俺の知り合いでこの学校の生徒会長の、」

藤城君が金髪男子を指しながら紹介してくれる。あー、生徒会長…って、ええええ! 生徒会長キンキンだよ! ど派手な金髪だよ、校則違反だと思うんだけど…よく当選したなぁ。見た目こんなに風紀乱しまくってるのに。目の前の金髪生徒会長はにこり、と一つ笑みを零した。藤城君に比べたら表情豊かな人だなあとは思う。彼もあまり表情を変える人じゃあなさそうだけど…(声のテンションの低さといい、無表情といい…藤城君のキャラに似てる気がするなあ)

「……えー、…名前なんだっけお前」
「蓮 それ、ギャグか?」
「わり、菊崎と鈴木さんくらいしか名前覚えてねーんだわ」
「嘘でしょ、冗談だろ。鈴木さん誰」
「どうでもいいよお前のことなんて。菊崎もコイツのことは適当に生徒会長とか金髪とか呼べばいいから」
「あ、うん、はーい」
「はーいじゃねえって、何でそんな普通に了承しちゃってんですか…えっと、菊崎サン?」
「菊崎 輝です(うちの生徒会長初めて知ったよ)」
「よろしくねー、輝ちゃん」
「あ?」
「ん、何?」
「なんでもねえよ」
「気になるじゃん」
「うるせーな、後で菊崎に話すからお前はいいんだよ」
「仲間はずれ?」
「仲間面すんな、てーか誰だよてめー」
「知り合いでしょ!」
「俺はこんな頭盛ってそうな不良知りません」
「お前だって不良っぽいじゃねーか」
「あ、菊崎こいつ女たらしで二重人格だから気を付けろよ」
「いきなり本性ばらすな」
「(この二人なにげにキャラ濃いなあ。生徒会長は女たらし、っと)」

そろそろお腹すいたなあ。両手のおにぎり早く食べたい…お腹が泣いてるよー。あと10分したら号泣に変わるでしょう。

「お前なんでこんなトコいんの? 珍しい」
「おう、そうだった。君達のクラスに用があってね」
「は? 何でだし」
「んー、噂で君達のクラスにイジメがあるって聞いてさー、視察?調査?」
「はっ、この学校バカばっかだし俺らンとこだけじゃねーだろ」
「いや、蓮のクラス目立ちすぎなんだって…仕事増やされて困ってんだわ」
「そんなこと言ってお前視察とかする気ねえだろ」
「んー、てきとーに覗いてはみるけど」
「何でもいいや、菊崎待たせて悪い。行こ」
「うぁー、うん。じゃあ生徒会長さん失礼します」
「ああ、うん。じゃあね輝ちゃん」
「これ女用の顔だから注意な」
「はーい」
「いきなり株下げか」
「ま、お仕事頑張んなよ」
「蓮君ツンデレー」
「菊崎先行ってて、俺ちょっとこいつ埋めてから行くから」
「いやいやいやいや、一緒に行こう、今すぐ!」

目がこの人、本気だよ! 藤城君ならほんとにやりかねない…! ひらひら左手を振りながら私達の横をすり抜けていく生徒会長の背中を見送る。あれ?

「さっきとなんか違う…」
「ああ、アイツ俺の前以外では結構ちゃんとしてんだよ」
「さっきまで猫背だったのに、背筋のびてる。ぴーん!」
「二重人格ですからー、ぴーん」
「はあぁー、ぴーん」
「なんか気持ち悪いねこの、語尾?」
「語尾、かね」
「くだらねー」
「…確かに…」


屋上につくまでの間に、先ほど知り合った(名前は結局聞けなかった)彼との関係を訊いてみた。嫌そうな顔を作りながら「一応知り合い以上」とだけ答えてくれた。取り合えず友人らしい。誰かとあんな風に喋ってる藤城君は初めてで、新鮮で…。藤城君には私以外の誰かがいたんだと思うとちょっとだけ切なくて、ほんの少しだけ悔しいって思った。私と藤城君は同じじゃないのに。私には私の、彼には彼の都合や事情があるんだってこと、ちゃんとわかってるのにね。

   でも、


「へへへ、」
「何」
「ちょっと、嬉しかったなあ」
「何が」
「社交辞令だったかもしれないけど、藤城君が友達って言ってくれたこと」
「……、…」

ありがと、そう言って藤城君の方を見れば、きょとんとしたびっくりしたような表情をしながら「あー、そう」とだけ呟いて
「嫌がられてねーか心配だったから、よかった」と続けた。

ほら、また一歩進んだ。



温度


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