藤城くんの半歩後ろを歩くだけの音が人通りのない大通りに静かに響いていた。時折すれ違う車のエンジンがやけに大きく耳に届く。ここまでに会話ゼロ。無言の空間なんてこれまでにも何度かあったし、それが普通で珍しいことでもないんだけど、(藤城くん普段は無口な方だし)今日はなんだかその無言の空間に居心地の悪さを感じる。昨日と今日とを結びつければ答えは出るのに、出てしまう答えを確認してしまうのが嫌だった。 「藤城くん」 「…なに」 「昨日、本当は…」 昨日、放課後ずっと考え事をしていたのは今朝の出来事を予測してのことだろうか。豚骨ラーメンよりもこっちが気になっていたのだろうか。いやでも餃子も麻婆豆腐も平らげてたし…や、それは関係ないけど。 藤城くんの足が止まり、それに倣って自分も歩くのをやめると半歩の差は埋まって対等に並ぶようになる。決して大した理由でも事態でもないのに、聞くのが出来ない。こんな私にだってちっぽけなプライドが藤城くんに対してもあって、喉に何かがつっかかっている時と似たような感覚が足元から脅かすように全身に伝う。 「意外」 「何が」 「言い忘れてたけど、今朝、助けてくれてありがと」 「いや、別に…で、何が意外」 「助けてくれたのが……?」 上から落とされる溜息に目を向けると、怪訝そうな顔をして氷のように冷たい瞳を向けられた。まあこれもいつものことなんだけど、今日に限っては責められているようにしか見えない、というか実際責められてるんだと思う。微妙な変化。きっと、不機嫌だ…さっきよりもずっと。 「菊崎って人の話聞けないタイプ?」 「…え、…わかんない…」 「わかんなくねーだろ」 質問の意味が、わからない。 「…………」 「嘘、ちゃんと聞けてるよ」 「……は?」 「前にさ。俺言ったじゃん。菊崎のことは考えてるって」 「…言ってたかも(冗談だと思ってたけど)」 「信用ないね、俺ってば」 「ご、…ごめっ、ん、なさっ、いっ!」 「うぜ」 「気持ちを最大級に込めてみました」 「むしろ最大級の嫌がらせに思える」 藤城くんの口元が小さく弧を描きながら歪んだのを見て、その場の空気まで一緒に歪んだように気まずかった空間が地面に解けていくように消えていった。 不安定な関係はまだまだ始まったばかりなのだ。 「あのさ、さっき名前で、呼んだよね…(苗字に戻っちゃったけど)」 「…ご存知の通り俺って性格悪いから、さ」 「………?」 ← 14 → |