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それほど信じているわけでもない、神様という存在に願い続けてきたことがある。信じていないくせに、都合のいいように、願うだけ願ってきたことがある。私のそばにいてくれて、離れていかなくて、置いていかない友達をください、と何度も何度も繰り返し祈っていた。友達という存在を物のように考えながら、都合よく神という存在を引っ張り出して願ってきた。祈るだけで叶うわけなんてないのに。神様なんて何にもしてくれるわけないのに。存在してるかどうかなんてわからないし、目に見えないものを本気で信じられるような人間でもないくせに、祈るときだけお願いするときだけ、神様を信じたふりして祈って祈って…何か嫌なことがあれば神という目に見えないもののせいにしてきた。

神様が本当にいるのかどうかはわからない。だけどいてくれたらいいと思う。いてくれたら、救われると思う。だって、実在しているならそれを理由に神を恨み呪うことだって出来るから。誰にもぶつけられない思いを、存在している神にだったらぶつけられた。今、それが出来ないのはその神様という存在が実在しているかわからないから本気で怨んでやることが出来ないからだった。…とにかく、私がいいたいのは神とかいう存在のことじゃなくて。

私に誰か友達をください、という願いのことだ。その願いが叶ったかというと、実の所不明。

藤城君は友達といえば友達なんだろうけど、私が理想としていたものなのだろうか? 理想は、私を置いていかない人。先へ行っても待っててくれる人…だったはず。じゃあ彼はどうだろう。待っててくれるかと言えば先へずんずん進んでしまいそうな感じがする。私から離れて行かないかと言えば、寄り添っているのかどうかも怪しい。つまりもともと離れているのかもしれない。理想とはほとんどが逆の存在が彼だった。それでも、私は藤城蓮という人物がそばにいてくれることが何よりも嬉しいし、これ以上何を望めばいいのだろうと思ってしまうくらい満足している。欲を言えばもう少し彼を知りたい。

とりあえず自分の考えをまとめてみたのだが、何故こんなことを考えだしたのかという理由を忘れてしまった。ふと思い立って昔を思い出したくなったのかもしれない。彼と出会う前の自分の思いを、それから出会ってからの自分の考えと比べてみたかったのかもしれない。
そんなことを悶々と考えていれば、いつの間にか学校の玄関へと足を踏み入れていた。いやあ考え事しながら歩いてると頭は疲れるけど足は全然疲れないや。しかも時間を忘れられるから、早かったと感じることが出来てなんだか得した気分。

靴を履き替えて、教室へ向かう間、誰ともすれ違うことがなかった。これまた不思議な気分だ。誰もいない世界に来てしまったと錯覚するくらい。錯覚だけどなんだかドキドキして変な気持ちになって、わくわくした。でも実際そんなことありえるわけなくて教室へ近づくにつれ教室からは人の声が聞こえてくる。賑やかだ。これは良い言い方をしただけで実際私が口にしたのは 「今日も騒がしいな」 という不機嫌丸出しの一言だった。

教室のドアを開けると、一際騒がしかった(他のクラスと比べて)教室が一瞬静かになった。それからまた騒がしくなったけど。なんか自分が期待はずれの存在だと言われているみたいで、複雑だ。別にそれが悲しいとか寂しいとか思うわけじゃないけど(そりゃ少しくらいは思うけどね)、失礼じゃないか。まったく人の顔を見て残念がってんじゃねーっての。私だってこのクラスの全員が残念だと思っている。対抗してみた。ちなみに藤城君はクラスの全員、というカテゴリには属していない。藤城蓮というカテゴリに属している。なお、このカテゴリに入れるのは藤城君のみだ。なんか自分がバカみたいだ、笑える。ていうか私なに? 藤城君信者みたいな。笑える。こえーよ、とりあえず笑えた…自分の依存具合に。

ぼーっとしながら教室の真ん中を眺めていると、人だかりの隙間から、鈴木さんが見えた。彼女の前には鈴木3がいる。鈴木3の背後にはこのクラスのほとんどの女子。そのさらに背後には男子が円を作るようにして立っていた。なんだこの図。きもちわるっ! 文化祭で一致団結するクラスですかここは。テンション文化祭並上昇中!ってやつですか。

ん、なんだ?


教室に入ったまま立っている私だけど、なんかあそこから目が離せない。なんで鈴木さん笑ってるんだろう。ああ、仲直り? ばっかじゃないの。また友情ごっこの繰り返しかい。暴言に近い悪態を吐きながら自分の席へ行こうとすると、鈴木さんが走りよってきた。はいはいおめでとうよかったねさようなら〜。そんなことは口にせずに会釈だけしておいた。出来れば話しかけてくんな、って言いたい。でも言わない。私にだって常識くらいある。ありがとうごめんなさいおはようございますさようなら、完璧にマスターしている。小学生レベルじゃん。藤城君がいないので自らツッコミにまわってみた。

「あ、あの、昨日、は…ありがとう…!」
「は?」

引きつった笑顔を見せながら精一杯お礼を言う鈴木さんを思わず凝視。は? この方頭大丈夫ですか?
私が何をしたっていうんだろう。昨日彼女に伝えたこと理解してくれなかったのかな。友達は募集してませんって言ったはずなんだけど…彼女からして私はいまだに偽りの友達カテゴリーに入れられているのだろうか。入った覚えもないけどさ。

「…よかったね」
「うん! 菊崎さんのお陰だよー」

だからなんの話だっての。それきり無視を決め込んで、いつもの自分の席へ向かう、と。

「あら…?」

あらららら? 机が私のだけ見あたらないんですけど。何故だ。どこ行ったマイデスク。
無表情で自分の机があった場所を見つめていると、先ほど無視を決め込んだ鈴木さんが態度を180度変えて上から目線で、「どうしたのぉ?」ときいてきた。まあ理解した。うん。
ほんと、この人たちって

「…暇人…」

小さく吐き出した声は静まり返った教室には充分すぎるくらい響き、それを聞いた鈴木さん3コンビがしゃしゃり出てきた。おい、お前ら昨日まで険悪だっただろ、なに24時間もたたない内に仲良くなってコンビ君でんだよ。いいよね、そういうの、バカすぎて何も言えなくなる。

「その暇人にアンタは振り回されるんでーす」


そう言ったのは、昨日までへこへことしていた鈴木さんで。ずいぶん色んなお顔をお持ちなのね、と皮肉を言ってやりたくなった。

「昨日掃除当番だったんだけどぉ…掃除当番って掃除が仕事なわけでしょ?」
「だからゴミは片付けなくちゃ、ね?」

鈴木3の取り巻き連中が参加してくる。あ、そう。今度のターゲットは私ってわけ。とんだとばっちりだ。私が的になる代わりに鈴木さんは前のように友達の輪の中に入れるってわけ。って、それでいいわけ? それで納得できるわけ? プライドってもんがないのかな。なくていいけど、自分自身の価値をそんなに下げてしまっていいのだろうか。私なら絶対、前のような関係に戻れないし戻りたいとも思えなかっただろう。本当に、単純な頭してらっしゃるわー。
さて、これからどう切り抜けようかな。わざわざ的になって鈴木さんの二の舞になんてなりたくない。

「菊崎さんクラス間違えたんじゃないのぉ?」
「あはは! そうかもね、机ないしさー」
「自分のクラス間違えるって、小学生かよ」

「私の机どこか知らない? 勉強は真面目にしときたいからさ、ないと困るんだよね…授業受けにくくて」

きわめて平常を保って、真面目キャラを演じながら声をかける。
真面目キャラを演じると言っておいてなんだけど、これでも実際真面目なんだよ私って。授業をサボるとき以外はちゃんと授業受けてるし。隣で居眠りしちゃう藤城君と違ってちゃんと黒板睨んでるしノートもとってるしすごく偉いよ私って。うんうん。でもなんで授業中でも普通に寝てたりDSしてたりする藤城君の方が頭いいんだろう。



無痛


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