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「#幼馴染」のBL小説を読む
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藤城くんのところに戻ろうか迷ったけど、なんとなく一人になりたくて足は自然と図書室の方へ向かっていた。もうちょっと機嫌直しとかないと藤城くんに八つ当たりしてしまいそうだ。ちなみに図書室はサボりスポットその3だったりする(1はプールで2が屋上)授業中はほとんど人も来ないし、来たとしても本棚の陰に隠れてしまえばいい。それに図書室は廊下側とは別にもう一つ(ほとんど使われてないみたいだけど)非常階段に続く扉が後ろにあるので簡単に逃げられる。
目立ってないし知ってる人って少ないんだろうなあ。私ってそういうの見つけるの得意なのかも。誰かとすれ違ったりしないかヒヤヒヤしたけど図書室に入ってしまえばこっちのものだ。ここで残りの20分やり過ごすことに決めた。

体育が終わってみんなが更衣室に戻ってくる前に着替えて、トイレにでも隠れていればいいや。あとは更衣室から出てきた子達に紛れ込んで教室に入っちゃえばいいかな。うん。一応計画を立て分単位で計算してみる(ここから更衣室まで5分で……) そうこうしている内に20分たってしまった。




教室に入ると既に着席している藤城くんが目に入った。教室内にはクスクス笑う声とヒソヒソ話す声が耳障りなほど聞こえてくる。鈴木さんは周りを気にしているように、身を縮めて座っていた。そりゃあ、怖いよねぇ…どうせ他人事とそれほど気にすることもなくそのまま自分の席に着いた。席に着けば藤城くんが若干めんどくさそうな目をしながら「おかえり」と声をかけてくれた。藤城くんは私を一瞥した後腕を枕代わりに机に突っ伏してしまった。
話相手もいないのでかなり暇というかイライラする。目障りだし耳障りだ。HR早く始まってくれないかなあ。そして光のはやさで終わってくれ。早くラーメン食べに行きたい。暇だ。頬杖を付きながら楽しそうにこそこそと何かを話合っているクラスメイト達を眺める。露骨に鈴木さんを仲間はずれにしているのが分かって見ていて幼稚だと思う、呆れるね。思わず溜息を吐きそうになったところで隣から「あのさ」、とくぐもった声が聞こえてきた。

「なに?」
「なんかあった?」

え?――小さく聞き返すと「やっぱり」と顔を上げた藤城くんが溜息混じりに呟く。あ、先に溜息吐かれちゃったよ。

「鈴木のやつ、さっきからお前のことちらちら見てるし」
「え、ほんと…?」
「うん。うっとーしーくらいにね。菊崎なにかしたの?」
「私が自分から何かすると思ってるんですか。されたんですよ!」
「なにを」

藤城くんと別れてから、図書室へ行く前までのことを話すと、やはり彼は呆れたように目を細めて「なにしてんだよ」と咎められた。

ほんと、何してるんだろ


もっと強気に出ればよかったなあ。後悔してもイライラしか沸いてこない。

「吃驚してされるがまま、って」
「されるがままってわけじゃなかった、っていうかその言い方なんだか卑猥」
「お前の頭が卑猥なだけだろ」
「失礼な!」
「別にいいけどさー、鈴木まだこっち見てるんだけど」
「うわあ、もうなんだろう…凹む」

「‥‥‥‥」
「…、どうしたの?」
「‥‥‥別に」
「今の間は…」
「……15回、鈴木がお前を見た回数」
「数えなくていいよ!」
「‥‥‥はぁ」
「‥‥‥?」

それっきり喋ることをやめ、再び腕を枕に頭を下げた藤城くんをそのままにして、ちらりと鈴木さんの方に目をやる。鈴木さんがちょうどこっちに目を向けたのでとっさに藤城くんの頭に目を向けた。やややや、やっぱこっちっていうか私のこと見てるよぉぉぉ! またしても心の中で絶叫する。声に出せない分あまり意味はなかった。もう、なんか‥もう、すっごくもやもやする何この感じ!
だああああ、と心の中でうな垂れているとやっと担任が教室に入ってきてHRへと移った。
早く終われ早く終われ早く終われ早く終われ!

少しだけ長引いたHRの後、ラーメンラーメンと鼻歌を交えながら帰りの支度をしていると、またしても急に話かけられた。鈴木さんに。心の中でオーアールジー(orz)と呟いてみた。言葉にするとオーマイガッ!である。隣からあーあ、と小さく同情するような声がしてそこに目を向けるとやはり呆れたような目つきでこっちを見てる藤城くんが居た。じろりと横目で睨むと、彼は知らねーとでも言うように肩を竦め持っていたヘッドフォンを耳に装着しそのまま音楽の世界へ潜ってしまった。おいおい電池危ないんじゃなかったのか?
薄情者、心の中で呟いて若干放置気味だった鈴木さんにそっけなく「何か?」と返す。

「あ、あのさ…菊崎さん一緒に帰ろうよ、ね?」

顔色を伺うように、上目遣いに鈴木さんが訊いてきた。ぴくりと反応してしまったことに気付いただろうか。おかしくないか? 一緒に帰ろうよ、? 馴れ馴れしいの前に言葉が違うだろう。私と彼女は一緒に登下校を共にするような仲じゃない。一緒に帰らない? と訊くのならまだしも 一緒に帰ろうよ、って私に選択権を与えないような言い方だ。ね? じゃないですよ、ね?じゃ。
命令されてるような気がしてどうも素直に受け取れない。受け取るつもりもなかったけれど。これが藤城くんだったら私はさして気にすることもなく二つ返事で うん と答えていただろう。私の、人との壁というのはどうやら厚かったようだ。

「悪いけど、私用事あるんだ。じゃあね」
「…え?……」

なるべく感情を込めないまま断ると彼女は、信じられない・納得いかない、という顔で見てきた。なにそれ。自分の方が優勢だとでも勘違いしているのだろうか。藤城くんが(小バカにしたような)息を吐き出すように笑った。鈴木さんには聞こえていないらしく彼女はなおもこちらを凝視していた。言葉を探しているようにも見えたが、こちらとしては探す前に立ち去ってほしいというのが本音だった。

「で、でも、私たち友達でしょ? だったら、」
「ううん、友達は募集してないんだ。他を当たってくれる? ごめんね 鈴木さん」

形だけ謝って(感情は一切こもってなかった)、藤城くんの手を掴んでそそくさと教室を後にする。
終始藤城くんは口を閉ざしていた。

「…鈴木って、誰…?」


ポカンとした顔をして取り残された鈴木さんが呟いた一言など知る由もないのだった。


「あーあ、鈴木に目ぇ付けられてやんの」
「やだな、なんか…私そういう都合のいい友達になるくらいなら友達なんていらないよ」
「同感だね。つーか、菊崎偉いな」
「なにが?」
「ちゃんと鈴木に答えたじゃん。俺だったら無視してた」
「さっきは流されちゃったから今度はちゃんと断りたかったんだよ」
「…ふぅん」



言葉


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