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私は困っている。誰が見たって普段と同じだと言われそうだけど、これでもかなり困っているのだ。あまり得意でないポーカーフェイスを決め込んでみる。困ってるし、焦っている。そういうのも、つい先ほどまで色々と見下してきた人物から今日初めて話しかけられたからだ。彼女のグループのことは今日までずっと、見てきた。見てきたといってもたまに、だけれど。鈴木さんがターゲットにされた瞬間も私は見ているし、今日までに受けたであろうイジメの数々も見てきた。

突然の出来事に思考が停止した。そして私はポーカーフェイスをなんとか保ちながらも内心かなり困っていたのだった。今日もなんら変わりはなく、体育の始めは2人一組になって準備体操をする、とのことだった。私はいつものように一人で行うつもりだったのだけれど、突如として鈴木さんに声をかけられたのだ 

「一緒に組んでほしい」、と


正直、困った。というより焦る。焦るだろう! 今まで何も言葉を交わしたこともなく、名前も知らないただのクラスメイトから話しかけられたら。ここではっきりさせておくが、鈴木さんとは私が付けた仮名称みたいなものなのだ。名前を知らないのでとりあえず鈴木さんと呼んでいるに過ぎない。そして、もう一つ困る理由がある。それは、藤城くんと出会ったあの日に私は答えを出してしまったということだ。私は、誓ったんだ。
この人たちと関わりたくない。偽りの友情とやらに振り回されるくらいなら一人を選ぶと。その答えに賛同してくれたのが藤城くんだった。だから、私は藤城くんが居るなら他に友人なんていらないとさえ思ったのだ。私に気付いてもらえたことは嬉しかったけれど、なんだか利用されているようで釈然としない。この子は未だに気付いていないのだろうか? 偽りの友情というもののでいで自分がされていることの意味を。わからないから、最後に残っていた私に気付き、声をかけたんだろうけど。
藤城くんの言うとおりだ。他人のことなんて考えて居ない、自分のことばかりを気にしている。一人がいやだから都合のいい人間とつるみたがる。ああ、バカらしい。

彼女はそんな私の思いなど知る由もないので、勝手に私が肯定を示したと思い込んで勝手に話を進めて行く。なんとかして断ろうかと考えていたが、教師がこちらを見ていたので行動を起こす前にその思いは断ち切られるはめになった。なんでこっちジロジロ見てるんだと悪態を心の中で吐く。どうやらまわりは既に言われたとおりに始めていたようで、私達2人だけが取り残されていた。仕方なしに、私も鈴木さんとの運動を始める。なるべく関わらないように、話さないように意識して。すごく疲れるし気まずいのだけれど、彼女はころころと話題をかえながら話かけてくる。正直つらいなあ。適当に相槌を打ち、早く終わってくれと願った。四方八方から浴びる周りの女子の貫くような視線が痛かった。ああ、もう、どうしてこんなことになるのかな!

藤城くんに出会うまでは、こういうものを望んでいたはずなのに。こういうものっていうか、友達っていうか。実際に訪れてみると案外居心地の悪いものだった。きっと相手にもよるんだろうけど。まあ責任は全部藤城くんに押し付けてしまおう。私がこうして自分の意思に気付いたのも、鈴木さんを含めたクラスのみんなと関わりたくないと思ったのも、鶴の一声…彼の魔法の言葉のせいなのだから。

「藤城くん…怒るかな」

何も知らない鈴木さんが私に向かってボールを投げる。そのボールが宙に弧を描くのを目で追いながらぼんやり藤城くんを思い浮かべた。
怒る…かな。多分呆れそうだなあ。

一緒に組んでからというもの彼女は私の迷惑もお構いなしに次々と話題を提供してくる。私は黙って聞いてるだけなのだが、彼女はオートで会話を繋げられるらしい。その辺については羨ましかった。(うっとうしいくらい)よく喋る子だとも思うけど。
話の内容まではよくわからないが、彼女自身が無理してるのは分かった。私に取り入ろうとしているのが丸分かりで、魂胆みえみえだ。こっちとしては相手の求めているものが解る分気分が悪い。無理するくらいなら一人でいいという選択肢は彼女の頭には入っていないのだろうか。入っていたとしても選ぶ答えが違ってたんじゃ話にならないか。ていうか自分の都合のいいように解釈しすぎだろ。私めっちゃ今居づらいんですけど。
私は無理するくらいなら一人の方がいい。まちがいなくその選択肢を選んだだろう。
藤城くんが現れる前とは少しだけ意見は違ってきたけれど、結果だけを見れば私はその選択を選び実行してきた。それにしても視線が痛い。じろじろ見られているようでイライラは更に増幅。コソコソ耳打ちしあってるのも気に入らない。目障りだ、目の前の現実全て。


「あっれー? 菊崎さんじゃーん!」
「えっ」

不意に背後から声をかけられた。しかも友好的に。振り向くとそこには、先日、カエルの屍骸入りの花瓶の水を鈴木さんの頭にぶっかけた人が笑顔で立っていた。私の机や藤城くんの机にもその水が付着してしまったことを思い出して密かに眉を顰めた。もっと他人を考慮してよって言ってやりたい。実際一言も口に出せていなくて、自分の表情から色が消えるのを感じた。それ以上に、鈴木さんの表情に恐怖の2文字が浮かび出る。

ポーン…鈴木さんの手の中にあったボールが落ちて地面を蹴って鈴木さんの足元に転がった。

目の前に居る……えっと、確か学年でもけっこう人気のある子…のような気がしたけど名前が出てこない。名前を頭に入れた記憶もないのだから思い出せなくて当然だ。とりあえず鈴木3だ。鈴木さんと鈴木サンをかけてみた。ちなみにアクセントが微妙に違う。その鈴木3はニコリとこちらを見ながら首を傾げた。ああいうのに男子って弱いのかなあ。今度藤城くんに聞いてみよう(まともな答えは返ってきそうにないな)

「菊崎さんって、そいつの友達だったのぉ?」
「や、…べつ、」

いきなり話しかけられて、鈴木さんの時と同じように動揺した。あらぬ方に向いていた意識を不意に呼び戻される。別にそんなんじゃない、と答えようとして言葉を吐き出した途中で被せるように鈴木さんの声が重なる。ちょ、おま、遮んな!

「そーよッ! アンタには関係ないでしょ、ほっといてよ。アンタに話なんてないんだよ!」

声を荒げてまくしたてる鈴木さんに呆然と立ちすくむ。鈴木3はその様子に一瞬キョトンと目を見開いたけど、次の瞬間には柔らかい笑みを浮かべて 「そうなの」と優しい口調で言った。それから、口角を吊り上げた。

「菊崎さんが困ってるんじゃないかって思っただけだから。違うならいいの。お邪魔しちゃったかしら?」

言って、目を細めて笑う。その表情が人を見下しているようで、癇に障った。感じ悪い笑い方する人だなあ。こういう人がモテるんだなあと思うと男子の趣味ってそんなによくないかもしれない。あとで藤城くんに訊いてみよ(まともな答えはやはり返ってきそうにないけど)

「ああ、それから」

彼女が酷く冷徹な目で鈴木さんを睨む。

「こっちもてめーみてぇなゴミに話すことなんてねーし。いきがってんじゃねえよバァーカ」

そう一気に切り捨てて、鈴木3は女子の集団の中に戻って行く。私が言えたことじゃないけど、言葉遣いかなり汚かった! 男子ってああいう喋り方の子が好きなのかな。これも藤城くんにあとできいとこう(まともな答えはやはり返ってきそうにない)
やっと我に返った私がやっと吐き出せたのは 「ざけんな」 という不穏な一言だった。

「だ、だよねっ!」

は?


ギョッと目を見開いて固まる私をよそに彼女たちがにらみ合ったのはほんの数秒前のこと。そこからやっと抜け出せたというのに再び硬直するはめになった。
え、今、この人なんて言ったの?なに、今なにが起こった? なんだったの?

彼女は私の発言を鈴木3へのものだと思ったらしく、「失礼しちゃうよね」 だの「ほんっとなんなのアイツ、むかつくんだけど」 などと暴言を吐いたり激しく同意するような発言を繰り返した。私は今どんな顔をしているのだろう。表情は自分でも分からなかったが、目だけは冷ややかに鈴木さんを見据えていた。
あの発言は、確かに鈴木3へ対してのものだけど、それと同時に鈴木さんへの言葉でもあったんだ。

ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけんなよ。

勝手にいいように解釈して、勝手に言葉遮りやがって、勝手に話進めてんじゃねーよふざけすぎ。なに勝手に味方につけよーとしてんだよ。私の味方は私が決めるし、お前らの判断で決めてんじゃねえよ。放心してた私も私だ…と思うとどうもやりきれない。仕方ないから心の中で絶叫しとく。

鈴木さんが同士というか仲間を見つけたような目をしてこちらを見てくるのに激しく不快感を覚えた。喜んでるみたいで、むかつく。こっちは全然喜んでねーし嬉しくもねーっての! 笑みを浮かべながらボールを宙に放つ鈴木さんを黙って睨む。そんな私の様子に何一つ気付かない鈴木さんは本当にお気楽な人だと思う。ホントにね、自分のことしか頭にないみたい。こう目の前で見てるとよくわかる。飛んできたボールを無言で手におさめて、これでもかってくらい(渾身の)力を込めて地面に叩きつけてやった。
この際物に当たるなとか言ってられない。唖然として、訳が分からないという顔をする鈴木さんを尻目に無言でその場を後にした。



愚鈍


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