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カフェテリアの窓からたまたま見えた日吉がマネージャーの子と話している。そんな風景をなんとなく眺めていた私なんだけれど、盗みみているようで気が引けるなと思いここへ来た目的を果たすべく、友達が待っているテーブルへと座ってお弁当を開く。 あの日吉が、笑った。私の前では絶対に笑ったりしない日吉がマネージャーのあの子に笑った。笑顔だった。マネージャーと彼女だったら一体どっちが有利なんだろう。お弁当のおかずを口にはこびながら考えてみた。 けど、なんか悔しくなって、そんな考えを捨てるようにおかずをごくんと噛まずに飲み込んだ。イライラした。日吉が私の前で笑うとき、あんな笑い方しない。あの子に見せた笑顔が離れない。自分の思考が気持ち悪くなってきて、考えるのをやめた…い のに、やめられなかった。ちくしょう。友達の声も耳に入ってこない。ちくしょう日吉ちくしょうマネージャー! ちくしょう私ちくしょう! 「ひーよしくん」 「何ですか」 昼休みが終わる前に、日吉を捕まえちょっと気になった事を訊いて見る事にした。なんだかうんざりしてるような顔だった。おいさっきの子と私への態度ちがくないか。180度くらい違う気がする。あの子に向けた顔はそんなんじゃなかった。私に向いている顔じゃなかった。どういうことだ。ていうか私もなんで一々気にしてんのかなりバカじゃん。そうだよバカだ。バカ、だから日吉呆れてるんだよ 「あのさあ日吉くんさあ」 「なんなんですか」 くどい、そういいたげに細められた瞳に、またしてもあの子との差というものを見せ付けられたような気がした。拗ねちゃうぞ。ていうかもう既に拗ねているのかもしれないけど。わざわざ2年の教室まできて迷惑だったかな。迷惑だよねえ。日吉って注目されるの好まないタイプだし。跡部とは逆だなあ。 「や、ごめん。機嫌悪いならいいんだ、大したことじゃないから。ごめんね」 一体私何しに来たんだよ!イメージだけど、自分を思い切り殴ってやった。イメージだけど。 「え、別に機嫌悪くないですけど」 目を軽く見開いて否定する日吉に、あ、やばい、と後悔する。今さっきの発言かなり失礼だったんじゃないの? いや失礼だったろ。自分から呼び出しといて顔見るなり不機嫌とか。お前空気読めマジで。 「いやあー、えと…ごめんなさい」 「先輩何しに来たんですか」 「いや、ちょっと日吉君の笑顔を見に」 「は?」 「急に日吉の笑った顔が見たくなったのだよ。いかんせん本当は私が不機嫌なのだ」 「意味が判らないんですけど」 「わかるように説明するとだね、私は君の笑った顔を見た事がないんだよ」 「口調変わってますよ」 「ていうかね、うん。私以外には結構よく笑うんだねえと思いまして」 「…………」 「自分で今気付いたんだけどさ、私今めっちゃウザイよね」 「本当に今更ですね」 グサっとささりました。今更とか言われちゃいましたよ。しかも“本当に”ってついてるよ。え、私って今までそんなウザがられてたのか。うわやば、涙でてきそう。だけどここで泣いたりなんかしたら、それこそウザイから必死におさえ込む。 「笑うのが好きかと問われればあまり好きじゃないし、笑うのが苦手なのかもしれません」 しょんぼりしていると日吉が小さく溜息をついた。なんだか、仕方ない、という感じだった。あまり言いたくない内容なのかもしれない。声も、なんだか観念したような声音だ。彼にとって言い出しにくいことなのだろう、それでも私のためにと話してくれるんだ。自分が特別な気がして嬉しくなった。同時に、“言わせてる”ことを申し訳なく思う。最低だ、人が言いたくない事を言わせようなんて。だけどここで、やっぱいいや、なんて言うのは無神経すぎる。とりあえず私は好かれてるんだなあ、と思うことにして誤魔化しておこう。我ながらいかがな物かと思ったけどキュンと来てしまった物はしょうがない。起こったことを無しにする理由もない。私がすべきことは日吉が続ける言葉を聞き逃さないように細心の注意を払う事だけ。 「あんまり、自分の笑った顔、好きじゃないんですよ」 「え、」 「へらへら笑って、アホな顔晒すみたいで…」 「(アホな、って…)」 「だから、そんなアホ面先輩に見られたくなくて、必死に頬の筋肉おさえてるんですよ」 若干頬が赤く染まった日吉が、それを隠すように手で口元を覆った。目を逸らされてしまった。言いたくないな、ぼそっと呟いた一言を私の耳が拾ってしまったのはこの際黙っておく事にした。 「別に先輩が嫌いだから笑わないんじゃなくて、先輩が好きだから笑えないんです」 「………!」 「これで、満足ですか?」 「…怒ってる…?」 「若干。一々言わせないでください」 「日吉の笑顔可愛かったよ?」 「嫌味ですか」 「いやほんとだって」 「ていうか先輩、顔がおかしいことになってます」 「頬の筋肉を以下省略」 「…満足したなら帰ってくださいよ」 「日吉君顔真っ赤ですよ」 「俺の笑顔以上にほっといてほしいですね」 「納得いかないけど可愛いから許しちゃおうかな」 「許される覚えもないですけど。やきもちやいてたいならいくらでもどうぞ」 「日吉君、実は私に帰ってほしくないんでしょ。引き止めたいんでしょ、もう」 ニヤニヤした顔でからかえば日吉はムスっと顔を顰めた。そんなバカなとでも言いたげな目だった。おいおい私を好きって言ったのはどこのどいつだ。ここはもうちょっとデレを出すところじゃないのか。寧ろそれ希望なんですけど! 「このままグダグダ喋っててもらちあかないんで、部活行ってきます」 「あっ!あんま他の子にへらへら笑わないでよね!」 「その言葉そっくりそのまま先輩にお返ししますよ」 トマトベースの恋模様 (俺、先輩のへらへら笑ったアホ面は好きですよ) (へらへらとかアホとか言うなっ!) /nichola |