ちまちま | ナノ
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「…お前、青学にいた時もこうだったのか?」

怒りを通り越して呆れながら、跡部会長は自身の手元にあるものを睨みながら言った。青筋が立っているのを私は見てしまった。声もいつもの数段低くて、セクシーも通りこしてドスのきいた声になっていた。ひいぃぃッ!

「や、前は、もっと…マシだったんですよ?」

あはは、と笑って誤魔化そうと試みたものの、会長の睨みに口を噤んだ。

「だったら、何だこのテストの結果は」

ピラリと目の前に突きつけられたのは今日返ってきたばかりのテストだ。ちなみにもうお分かりだろうが私のだ。そして点数は…涙涙です、みたいな感じ。2桁のどちらも四捨五入したら0に近い数字だった。

「……………」

うっ、と言葉を詰まらせた私に、跡部会長は盛大に、これでもかというほど大きな溜息を何の遠慮もなしに吐き出した。ちょ、本人目の前にそりゃないんじゃないの!と苦情を出したいところだけど、ここで口を挟もうなら地獄を見ること間違いなしだろう。会長の手からプリントを奪いとってそれで口元を隠した。

「氷帝の授業にはついてけねーってか?」
「いや、まあ、そんなことはないですよ…」

目を明後日の方に向けて、人差し指を付けたり離したりしながらごもごも言えば、またはあ、という今度はさっきよりも短めの溜息が吐かれた。気まずいっていうか悔しいっていうか、情けないというか、とりあえず会長から開放されたい、今すぐに。自然と首が下がる。そもそも何で私は生徒会室なんかにいるんだろう。それにどうして跡部会長にテスト結果のことでとやかく言われなくちゃいけないんだ。とやかく文句言われる筋合いないですけど。

「おはずかしながらー」
「あん?」
「いや、そんなあからさまに睨まないでください、怖いです」
「睨んでねえ」
「(じゃあその眉間皺どうにかしてくださいよー!) 前は、ですね。お、お兄ちゃんに教えてもらってたんです。あれでも勉強出来る方だし…」
「…………」
「氷帝に来てまで兄に頼るの、いやなんです」

言いたくなかったんだけど、言うっきゃねーな、ねーよ。と思って言ったのに、会長は長い沈黙の後「そうか」とただ一言返した。えええ、それだけ?! や、いや、別に、別にね、こうもっとhigh!なリアクションを期待してたわけじゃないけど、なんかこうもうちょっと上手い返しがあるんじゃない…かなぁ。

「てっ、ていうか、何で 跡部会長がそんなこと気にするのか、」
「おい」
「、からな…はい?」

言葉の後半で遮るように声をかけられる。軽く むっ ときたけどここは抑えて用件をきくことにした、おとなしく。

「俺が、勉強見てやってもいいぜ?」
「は?」
「何だその面」
「会長なに言ってんですか」
「アーン? 俺が不二よりも勉強出来そうにねーってか」
「いやいやいや! そんなことはないです! 寧ろお兄ちゃんよりも勉強出来そうです!」

両手を胸の前でぶんぶん振って否定する。否定ついでに、跡部先輩の申し出も丁重にお断りさせてもらった。跡部先輩が普段から(生徒会長だし部長だし先輩だし坊ちゃまだし!)多忙なのは知ってるし、私のせいで迷惑をかけたくない。今回のテストの結果は、私の責任だし、それで部に迷惑をかけてるかもしれないけど、次はこんなことにならないように頑張るし、頑張れる。
それに、―――


「嫌? 何が嫌なのか言ってみな。ただし20文字以内にだ」
「に…っ!?(数えられねー!)」

フン、と無駄にえらっそーに私を見下す会長に何処にえばれる要素があるのか問いただしたい。問いただしたところで私よりもご立派な会長のことだから、全部見下してますと言われてお終いだろう。全てに対してえばれますよね!アナタ様は! 皮肉を頭の中で並べても決して口に出さないのは出した後に待ちうける地獄が見えるからだ(私は学んだね!岳人先輩たちと一緒に!)

――それに、

「跡部先輩を、お兄ちゃんの代わりにしたくないです」
「………ほう」
「だから、私がもっと頑張ります」

サボるのもほどほどにします。ていうかせめてもう少し暇がある人でそこそこ勉強出来そうな人にでも頼みます。例えば忍足先輩とか。あの人女の子の脚ばっか見てるからどうせ暇だろうし(これはちょっと言い過ぎだけど…)。

「ったく、」

ペシ、軽く頭をはたかれる。

「あでっ!」
「変な気を使うな。別にお前の兄貴になりたいわけじゃない」

わしゃわしゃと乱暴に頭を撫でられる。なんか最近こんなんばっかだな、たまにはもっと優しく撫でられてみたいなー、なーんて!
するり、跡部会長の指が髪を梳くように流れて、ふんぞり返りながら、

「お前の兄貴と俺様、比べてみな」

不適に笑う。それは安易に、俺の方が教えんのうめーに決まってんじゃねーかふざけんなよこのクソガキが、って事なんでしょうかね。無駄に自信たっぷりでむかつくんですけどかっこいいです。だから余計にむかつくんだよね。でも一番むかつくのはこんな私だ。跡部会長は上手く飴と鞭を使い分けるけど。私は飴と鞭なんて使いこなせないし、素直にありがとうの一言も言えないんだもん。


Help me out
(あまんずる? 何それわかんない!)

このとき、跡部先輩が嬉しそうに目を細めて笑ってたなんて知らなかった。


/日常番外編