ちまちま | ナノ
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毛布に包まって膝の中にはおなまえがいる。後ろも前もすっげーあったかい。
今日は久々に二人ともゆっくりする時間が出来たから映画みていたのだが、気が付けば時計の短針は一を過ぎていた。背中に体を預けて力を抜いたコイツが「まさはる」と眠たそうな声で呼ぶ。

「眠い?」
「…ん、おや すみ…」

限界が近いのか、目をこすってそれだけ口にすると、すぐにすうすうと寝息がきこえてきた。俺も眠かったけど、映画もクライマックスを迎えてエンディングまで10分くらいだろうとテレビ画面に目を向けた。最後までみないと続きが気になって眠気もさめてしまうかもしれない。暫くし、エンドロールが流れる。眠い。ありきたりな終わり方だったけど内容自体はよかったな、なんて個人的な感想を抱いていると、不意に俺の名前が呟かれた。途切れ途切れに。寝言だとわかってるけど 「なんじゃ?」 と出来るだけ優しく問いかけてみる。それっきりおなまえが言葉を発することはなかったけど、口元は嬉しそうに笑っていた。あー、だめだコイツ可愛すぎるんじゃけど。包まっていた毛布をどけて、おなまえを抱き上げる。そのままベッドに寝かせて、毛布をかぶせてやった。
「おやすみ」、嬉しそうに歪んだ唇に、つられて三日月のような形に歪んだ唇を落とした。





朝目がさめると目の前に雅治の顔があった。そういえば、映画の途中で寝ちゃったんだっけ。あれから主人公はどうなったんだろう? どこで寝ちゃったっけ。寝起きでぼんやりする頭で結末がどうだったか考える。雅治が起きたら教えてもらおうかな。目の前で眠る雅治がたぐり寄せるように私に腕を伸ばした。あ、と気付く。毛布、私が占領しちゃってる。慌てて自分にかけてあった毛布を雅治に被せた。風邪引いちゃう。毛布占領しちゃってごめんね、ありがとう。なんだか嬉しくなって、単純かもしれないけど大切にされてるなあって思えて、朝から幸せな気分に浸れた。もう一度、毛布を雅治の肩までかけてやる。それから、雅治の髪に手を伸ばした。相変わらず銀色のその髪は指を絡ませると透けちゃうんじゃないかってくらい綺麗だった。撫でていた指が頬にあたる。くすぐったそうに身をよじる雅治が可愛くて、そっとほっぺたにキスを落とした。
よし、ご飯でもつくりにいこっかな。時刻は既に9時半を過ぎていて、朝ご飯にしてはちょっと遅い時間になってしまう。何作ろうかなー、考えながらベッドの上から退くと雅治の声が私を呼んだ。あ、起きたんだ。それとも起こしちゃったかな?

「なぁに?」 
ベッドに片手を付いて雅治の顔を覗きこむ。相変わらず目は閉じられていて、長い睫が揺れることはなかった。

「…? 寝言かな」

何の夢みてるんだろう、私の夢? にやける口元をそのままにして、今度こそ私はベッドの上から立ち上がった。そういえば、私、なんの夢みてたんだろう。思い出せない。夢って、起きたら忘れちゃうってことがあるから幸せの夢の中では起きたくない。なんだかとても温かくて優しい夢をみていたような気がする。内容もどんなだったかも思い出せなかったけど、昨日(あ、もう今日だね)の夢を思い出すとなんだかすごく優しい気持ちになれた。思い出せたらもっと優しい気持ちになるんだろうなあ。結局思い出せなかったけれど。

「おなまえ」

私を呼ぶ声にまた寝言かと思って振り返ると、眠そうに目をこすりながら上半身を起こした雅治がいた。

「おはよ」
「ん、はよ」

いつもより低い声が耳に心地よく響く。

「今ご飯作っちゃうね」
「なあ、」

ぼふん、雅治が再び横になる。目を腕で覆いながら 「あとで、また映画借りにいかん?」雅治が言う。映画観るの好きだね、そう言って笑うと別にええじゃろと返された。雅治の言葉の意味に気が付くのはもうちょっと先になりそうだ。




風ちゃん/アクアマリンの恋