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とりあえずちゃんとやっとかないと後で色々言われそうなので、真面目にね、ちゃんとね、花達に水をあげてるわけだったんですけどね。花壇の脇に忘れられたように置かれていたじょうろは使わずにホースから直接水をやっていると水が強すぎたのか泥があちこちに跳ねた。うぜー! 仕方ないので水を弱めるために蛇口を捻ったらあらなんとまあ、逆方向に捻ってしまったらしくホースは暴れ馬のように私の手から離れてあちらこちらに水をばらまいた。ぎゃああああ! やっべ、やっべ、と思いながら水道の水を止める。ふう、息を一つ吐いて遠くに投げ出されたホースを拾いに行く。 ホースの先に、びしょぬれの男性が居た。 「あ、」 オレンジの髪に、目つきの悪いあの男は…! 不良と名高い黒崎さんじゃあないですか! 血統書つきのスーパーヤンキーがびしょぬれになりながらこっちを睨んでいるよう! ひいいいいい! この前も大島を停学にしちゃったって話しだし、これ私も殺されるんじゃないかな! 私停学じゃなくて退学にされちゃったらどうしよう…! ぽたぽたと髪から水とたらしながら黒崎さんがこちらに向かって歩いてくる。逃げたい、逃げたいんだけど、私の良心が許してくれない。 「おい」 「ひゃい! はい! はい!」 「うおっ?! いや、お前…」 「はい私ですごめんなさいいいいいい!」 勢いよく土下座しようとした私に黒崎さんの腕が伸びて静止した。てか私どんだけ腰低いんだ! 「お前、こんなとこ座ったら泥まみれんなるぞ」 「……は?」 何してんだよ、とでも言いたげな黒崎さんの顔に拍子抜けする。なんかもっとこう、「何すんじゃこのアマー! いてこますぞわれー!」みたいな感じにすごまれて胸倉掴まれて殴られちゃったりなんかしちゃうかと思ってた。案外黒崎さんってまともな人? 本人を目の前に失礼な思考をめぐらせていると、それよりさと黒崎さんが掴んでいた手を離して額にかかった水滴を拭いながら声をかけた。 「そこのタオルお前のか?」 「え、……はい! あ、どうぞ」 「ありがとな。つーかお前、もっと気をつけろよ」 鞄の上にかけてあったタオルを黒崎さんに渡す。え、なんか、黒崎さんっていい人? 頭を乱暴に拭きながら注意する黒崎さんに以後気を付けますと必死でペコペコ頭を下げて謝った。ほんとにすみませんでしたあああ! 「あっれー、一護じゃん」 「うわー、びしょぬれだね」 「うるせーよ」 私の背後から声がする。そのまま3人は私を挟んで会話を始めてしまった。 「あれ、おなまえ?」 「浅野じゃん、」 「何してんだよ、水やり?」 「うん」 正しくは黒崎さんに水をかけただけですけど。つーか浅野!! なに、浅野って黒崎さんの友達だったの?! 嘘だろ、一護って名前呼びじゃん。なんで気安く呼んでんの? 仲良さ気じゃん! 黒崎さんにまつわる数限りなしの黒い噂を私にいいきかせてたのは他でもない浅野なのに! お前何仲良くなってんだよ! 話についていけない…。ちらりと見た黒崎さんは浅野の友達と楽しそうに喋ってるし。話てる子も全然いかつくないし、不良っぽくないし、寧ろ優等生みたいな子だし。どうなってんのこれ? ぼーっとしながら二人のやりとりを眺めていると、私の前にいた黒崎さんを再び水が襲い掛かった。ばしゃあ、そんな音が近くで響いた。ええええ、私水出してな…ってあれ、いつの間にか手に持ってたホースがなくなってる! 横を見るとゲラゲラと大笑いしている浅野がいる。あわわわわ、お前浅野なんてことしてんだああああああ! あたふたしながら目の前にいる二人に視線を戻す。黒崎さんがわなわなと震えながら浅野を見ていた。目だけで人を殺せるよこの人ぉぉぉぉぉ! 黒崎くんと話していた子にも水がかかってしまったらしく、無駄に笑顔で浅野を見ていた。え、笑顔…! 本日晴天でございます 回し蹴り、お見事でした。 うたちゃん/空想アリア |