ちまちま | ナノ
×
一見この2人はすれ違っているいるように思えて、実は案外そうでもなかったりする。よく2人を見ている人間あるいは、本人達でなければわからないものであって、傍から見ればだいぶすれ違っているように見えてしまうのだ。2人を理解し得ない者から見ればお互いを嫌っているとしか映らないかもしれない。実際お互いを好いているなんて知っている人間はごく僅かで、本人達でさえ互いがわからなくなる事もあるくらいだ。何が言いたいのかというと、それ程に表面上はすれ違っているのだ。

彼の誕生日にと何か用意しようと決めたのは、彼の誕生日が来るずっと前。前々から密かに考えていたのである。そして先日、プレゼントを用意した。そこまではいいとしよう。彼も一応は貰ってくれるだろう。だがその後が問題だ。貰われた後の保証はない。もしも捨てられでもしたら…。送った方も送った物も可哀想だ。例にあげると環君が一番の被害者といえよう。何処かに行ってはお土産を買ってきてくれる彼。勿論鏡夜はそれを受け取るし、部屋に飾ったりもする。それも“しばらくは”であって、暫くたてば捨てられてしまうのだ。(実は橘さんが自宅に持ち帰ってくれてるんだけれど)橘さんの自宅に渡っていくのなら捨てられたことにはならないが、私としては鏡夜に保管してもらいたいのだ。彼の性格からして私もただの使えるモノ…いわばメリットがあるなしでの付き合いなのかもしれない。そう考えると、どうしても渡す気になれなかった。ただ事実が怖くて、認めてしまうのが嫌なだけなんだけど。彼を好きだからこその躊躇いというものである。

時計なんてどうか、とか不安に思いつつも何にしようか考えるとわくわくしたし、楽しかった。彼を思い、考えることを嬉しく思った。そして決めたのは無難に本。鏡夜は読書家というほど本に没頭するタイプじゃないけど、本を好きなのは事実だ。
当日になって渡せないでいるわけですけども。因みにここは鏡夜の部屋(メインフロア)で、かれこれ3時間近く悩んでいたりする。ちょっとだけ、後悔している。本なんて、一度読んでしまえば彼は大体の内容を覚えてしまうし、飽きられてしまうかもしれない。なるべく彼の趣向を考えて選んだとはいえ、飽きられない自信はない。私がいつまでも好かれている自信がないのと…似てる。自信なんて、持てない。さて、どうしたものか。

「あー、そうだ」

読んで飽きられるなら、読まれなければいいんじゃないか。それも彼の部屋にずっと置いてある感じで。そうすれば捨てられる心配もないし。事実上鏡夜の所有物のままで済む。方向は違ってきているものの、一応形としては鏡夜が所持していることになる。すごい方向転換と同時にひらめきだ。自分の脳内ポジティブ変換には何度も助けられたなあ。これが長所というものなのか。ちょっと違うような気もするが。

ちょうど目の前には本棚。一番下の段なんてどうだろう。見つかりにくそうだ。買って来た本を手に取る。自然と頬が緩むのは鏡夜の事を思いながら選んだものだからだろうか?
いつか見つかって読まれるまでキミの安全は保証されたも同然だ。満足気に本を掲げてみる。なんだかキラキラ光っているように見えた。背表紙に『誕生日おめでとう』と一言残して、本棚の一番下の段、左側にそっと忍ばせる。
ワクワクした。いつ見つかるだろう? 見つかるだろうか? 入り混じる不安と期待からだった。一人ニヤニヤしていると、くしゃみが出た。別にニヤニヤしてたからくしゃみが出たわけじゃないけど。鼻をさするついでに腕もさする。我ながら乙女らしかぬくしゃみだったなあ。思い出してみると気恥ずかしくなった。冷房が効いているのか室内は少し肌寒かった。まだ冷房をつけるには早い時期だと思うんだけど。鏡夜って暑がりだったかな?

今頃パソコンと睨めっこしているであろう鏡夜でも見に行こうと思い立った所で、頭上でピッと機械音が静かな室内に響いた。暖かくなっていく室内の気温に、私の心の内も暖かくなっていくような気がした。
結論から言わせて頂きますと、多少のズレはあるものの互いを思い合っているのは確かだと思うのです。きっと彼なら私の予想よりも早く本棚に隠した本を見つけてくれるのでしょう。


「そういえば今日は俺の誕生日だったんだけど、知ってた?」
「…え、…あ、そう…あははは、は」


甘いだけのお菓子はいらない
嫌味たらしく笑顔を浮かべた鏡夜に、私の葛藤はなんだったんだろうと溜息を吐くしかなかった。



/ウィジー