ちまちま | ナノ
×
何、なになになに?!何が起こったの?仕事の帰りに出くわしたあの化け物はなに?
怖くなって、夢でも見てるんじゃないかって錯覚するくらいテンパってた頭をフル活用して家まで逃げた。ガクガク、震えが止まらない。イノ、

「イノセンスって…なにっ」

アイツは言っていた。持っていると。私が持っていると、言っていた。だけどそんなの、皆目見当も付かない。イノセンスなんて品物私は持っていないし。ましてや命を狙われる理由もない。

「なに、何なの…」

誰か。怖い。何ですかあれは。この世の生き物じゃないよ…!殺される、私、アイツに。思えばあまりいい人生とは言えなかったな…このままアイツに殺されちゃったらほんと私笑いものかも。恐怖と自分への同情で涙が出てくる。こんな時、誰かを思い浮かべられたなら、きっと私は幸せだと思えたのに…誰も浮かんでこないの。役立たず。その言葉を何度言われた事か。クズ。何度その言葉を聞いただろうか。私、不幸な女でしたか?そうかもしれない。これが夢であれ現実であれ私の運命は変えられないのかもしれない。誰か、誰でもいい、私を救って。救世主をもう待つことすら許されないの?
ズドン、大きな音がした。壁が崩れて吹き飛んだような。砂煙が舞う。私の足元に残骸がゴロゴロと転がってきた。キッチンからだった。私がいる、リビングのすぐ‥後ろ。反射的に振り返ってリビングのすみへ移動する。私を襲ってきた化け物と、オレンジ色の髪の男の人。オレンジの髪をなびかせたその人は、大きなハンマーのようなもので化け物を退治した。何、あの人…。震える足に鞭を打ってキッチンへと走った。彼が、私を捉える。

「ここ、あんたン家?」

探るような目で私を睨む。私はというと小さく何度か首を縦に振っただけだった。彼は表情を微かに緩めて手に持っていたハンマーらしき物に視線を移した。あんなに大きかったハンマーが彼の手の中で小さい、だいたいサイズ的にテレビのリモコンくらいに縮んだ。なんですかこの人。宇宙人 未来人 異世界人 ドラえもん?思わずポカーン。有り得ない。何このマジック。

「あんたさ、」
「っ…」

彼が言葉を言い終わる前にそばにあった包丁を手に取る。

「え、ちょ、え、何?!」

彼はさっきまでの緊迫した表情から一変して慌てたように目を見開いて顔を崩した。強張っていた空気が彼によって打ち砕かれた。私の思い込みかもしれないけど。

「わ、私、自分の身を護ることに関しては手段を選びませんから」
「マジで?!ちょいと待つさ!話し聞けって!」
「私はあなたと話すことなんて何も、ないです…!」
「何この子、ガードかたッ!!」

包丁を向ける手が震える。だって目の前の人は私を助けてくれた、でもこの人だって私が持っているらしいイノセンスとやらを奪いにきたに違いない。まだ、死にたくない!

「これでも、相手の急所ははずしたことないんですよ」
「ほんとマジで頼むから落ち着いてください!めっちゃ怖い!」
「わわわ私は落ち着いて…あ」

カラン、手元から包丁が滑り落ちる。床に包丁が突き刺さるのと、私の脚がさっきよりも震えが酷くなったのはほとんど同時だった。しまった。目の前の彼が笑う。もう、だめ…!そう思って目を閉じても目の前の彼が私に近づいてくる気配はなかった。おそるおそる目を開いて眼帯の彼を見ると何故かパンツ一枚の姿でばんざいをしていた。彼が着ていた服は全て私のすぐそばで乱れている。

「きゃぁあぁぁ! 変態ぃいぃ!」
「ち、ちがっ! よく見ろって!」
「見れません! パンツ一丁いやぁぁぁ!」
「あの、っなぁ! よく見ろって!今の俺はマルチンさ!」
「きぃもぉぃぃいぃい!」
「間違えちゃったじゃんか!丸腰さ!」
「まるご、…し…え?」

彼はまたばんざいをした。頬が少し赤い。水色ストライプのトランクスが、半壊した壁から吹き抜ける風で揺れている。実に寒そうだ。壁も塞ぎたいけど、何より目の前の光景を塞ぎたい。なんなのこの人!

「ほら、武器も何も持ってない。ちなみにこれ俺の勝負パンツ」
「(しょ、しょしょ、勝負パンツ…ッ?!)」

安心させるように笑って一歩私に近づいた。傍から見ればこの光景はいかがな物か。

「俺が何かしたら大声で叫んで、蹴り飛ばしてくれたって構わないさ」

だから、話をきいて。ふわりと笑う。まるで子供をあやすように。いつの間にか彼が私の目の前まで来ていて、私を見下ろしている。引き締まった筋肉に不謹慎ながらぞくりとした。(でもパンツ一枚。しかも勝負パンツらしい)あ、鳥肌。 彼は私の近くに落ちていた彼の黒い上着を拾いながら私の肩にかける。そのまま彼は傅いて見せた。眼帯をしてない方の眼が私を真っ直ぐ捉える。エメラルドに引き込まれそうだ。そして、真剣な眼差しを向けて言ったのでした。




重なって包まれた手が暖かくって涙が零れた。あなたはきっと、私の救世主なのでしょう。


「ラビー!何処まで行ったんですかー…」
「あ」
「ラ、ビ…」
「アアアアアレン!これは違うさ!誤解だから!俺何もしてねーし」
「な、何、してんですか!新しいエクソシストかもしれない人に!節操なし!」
「だからまだ何もしてないって…!」
「まだって何ですか!そんなパンツ一丁で!節操なし!変態!」
「あ、あの…」
「ここは危険です。直ちに避難しましょう」
「あなたは…?」
「あれなんでアレンには警戒心剥き出しにしないんさ!」
「当たり前です。そんな格好で怯えない女性が居るとでも思ってるんですか!節操なし!ヤリチン!変質者!変態!」
「いや俺ってこうみえて実は硬派!」
「自分の格好を見てから言ってください」