ちまちま | ナノ
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縁側に2人して腰を落とし、夜風に当たりながら月を見ていた。満月だった。冬の月というのは乾燥してるせいかやけに綺麗で疲れた心を癒してくれた。落ち着く。夜風が優しくすり抜けた。始めのうちは心地よかった風も暫くすればそれはとても冷たくて。ぶるりと身体が震えた。両手で肩を抱くようにして身を縮めながら、隣でぼーっと夜空を仰ぐ総悟を見る。つまらなそうに、総悟がぼそり、呟く。

「肉眼で月を見るのは難しいや」
「どうして?」

月はあんなにも輝いているのに。綺麗に円を描いているのに。はっきりと輪郭を捉えている月を見るのが難しい?

「こっからじゃ、兎が餅つきしてるなんてわかんねェだろ」

子供のようなことを言い出す。面白いことを言う。くすりと笑うと軽く頭を小突かれた。兎が餅つきとか可愛いでしょう?

「星がきれいだねィ」

月の話はあきたのか今度は星に視点が移る。ああ、兎を見つけるのは諦めたのね。

「なー。見える星の数を数えてみねぇか?」
「今日は随分と可愛いこと言うのね」
「そーゆー気分なんで」

私から視線を外してじっと星を見詰める。おいおいマジで数えてんのかよ。無理だって。肉眼で見えてるだけでも結構あんだぞ。こんがらがるって。また風が頬を掠めた。寒い。だけど星を数えるのに夢中になる総語に部屋に戻ろうなんて切り出せない。そんな事言ったら不機嫌な彼に意地悪される事間違い無しだ。それくらいの学習能力はあるんだなぁー。それにしても寒い。身体が冷えた。寒い。寒いぞこのやろー。そっと、総悟の右手の上に自分の左手を置いてみた。冷めてるとは思ったが、その手は暖かかった。

「総悟って子供体温なんだね」
「‥‥‥‥」

星を見ていた総悟の目が細められながら私に向く。君の瞳に乾杯、なんて寒すぎるかしら。私の手をやんわりとほぐすと、その手は私の頬へと寄せられる。

「ほらね、あったかい」

とっても落ち着くの。人の体温ってどうしてこんなにも心を落ち着かせてくれるんだろう。総語だから?ふふ、ちょっとそれおもしろい。

「やっぱり子供体温だね。カイロー」

空いている総悟の左手を私の右手で持ち上げて、そのまま自分の頬まで持ってくる。

「‥‥‥」
「あ、怒った?」
「別に、」

子供という単語を不快に感じたのか不機嫌そうに眉をひそめる。左手を掴まれ、もう片方が高等部に押し当てられる。声を出すまもなく唇と唇が交わる。冷えた唇にその温度はすっごく心地よかった。すぐに唇が離れていく。閉じていた目をあけると視線が絡んだ。ニヤリと目の前の総語がいやらしく笑った。また唇に吸い付かれたかと思ったら強く吸われる。左手がいつの間にか絡まっていた。キュッと力が込められる。左手に意識が行った時と間髪いれずに舌が滑り込んできた。舌を絡ませては奥へと侵入してくるわ 歯列はなぞるわで大暴れだ。苦しくて、溶けそうで息が出来ない。
やっと開放された口からは暫く熱い息しかあがらない。満足げに総悟が笑った。

「ホラ、お前の方があったけェ」




(そんなトコ、子供でしょう?)
(キス一つで赤くなる奴も随分と子供だと思うけどな)