ちまちま | ナノ
×
ぐっと堪えていたはずの涙が頬を一筋の道になって流れていく。
どんどん圧迫されていって苦しくなる。苦しい、苦しいよ、誰か助けて…助けを求め伸ばしかけた腕は力無く落ちていった。もう、だめだ…


「う、ゲェェェェェ…!」
「うわをををを!吐いた!コイツ吐いたァァ!!テメッこのアマ何処にそんな汚ぇモンを吐いてっ…!」

昨日ちょっと飲み過ぎたかな。頭痛ぇわ。ガンガンする…いやもう既に通り越してズガンズガンって感じだよ。これも全て沖田隊長のせいだ。酒の弱い奴ァ真選組じゃあ下っ端なんですぜ、とか皮肉たっぷりにふざけた事ぬかすから。あんにゃろ沖田め剣だけじゃなく酒まで強ぇたぁ神様も不公平だ。私なんてまだまだ弱いし沖田相手に全敗だしからかわれるしいつも気付いたら隣にいるしなんかいつも私ばっか…って私何考えてるんだろ…何か悔しくなってきた。また涙出てきたし…。ん?あれ沖田が揺れてる。
隊長ちゃんと立ってください。みっともないですよ。…あれ、私が揺れてんの? あれあれ頭が…

「あっ、オイ!しっかりし」
「…沖田の、ハゲ…」
「……(何コイツ!)」



「…んぁ?」

あーあーあーったま痛てぇなぁ。今何時って、外暗いんだけど。何で夜になってんだ?

「あ」

そうだそうだ。昨日隊長と飲み比べして、飲み過ぎで…それで、それーでぇー隊長のズボンにウゲロォ!っと吐いちゃったんだっけ。サーと血の気が引いていく。やべぇ
ミ ン チ に さ れ る !

やっべやっべコレ頭痛いとか言ってる場合じゃねぇよコレやっべ! ハッキリしてきた意識と蒼白な顔を引き連れて沖田隊長の元へと走り出す。つーか私いつの間に寝巻きに着替えたんだろう? ……女中さんだよね。女中さんがやってくれたんだよね。決まってんじゃん女中さん達しかいないよ。何で隊長が浮かんでくるんだよ。止めろよ恐ろしいなぁ。いや、まさかね、無いよナイナイ。大丈夫、落ち着いて。私はまだ純潔だよ! 純粋無垢な可憐な乙女だよ!! そんな会話を頭の中で繰り広げながら廊下の角を曲がると、愛用の愛マスクを着けながら縁側に寝そべっている隊長を発見。(隊長マスクに名前まで付けてるなんて余程大切なアイマスクなんだなぁ。女からの贈り物か?)

「…たーいちょー、起きてますかー?」

(起こさないように)問いかければ返ってきたのは規制正しい寝息でほんのちょっぴり安堵した。今起こしたりしたら即冥界送りされちゃうね!……よし

「すんまっせんしたァァァ!」

アイマスク沖田の隣に膝を付き額を床に擦り付けながら頭を下げる。勢い余って額を床に打ち付けちゃったよ! 鈍い痛みに耐えながら無言で土下座すること約二分。三十秒過ぎに山崎君が「何してんの?沖田さん寝てるよ?」と頭大丈夫とでも言いたげな微笑を浮かべながら顔を覗き込んできたけど、明日の朝食に副長のマヨネーズを掛けまくってやろうと企てながら無視を決め込んだ。

一分を過ぎた辺りに土方さんが来て「新しい遊びか?」って言いながら顔を覗き込んできて頭大丈夫かって今度は声に出して言うもんだから、明日副長のマヨネーズをすべてエコナに変えてやろうともくろみながら睨んでやった。気が付けば空気読めない馬鹿ふたりが去ってから、五分が経っていた。土下座までしたしそろそろいいかな!
…本人見てませんけど! 寝てますけど! ぶっちゃけこれ予行練習ですけど!!

「ふー、」

お腹も減ってきたし、食堂でも行こっと。赤くなってるであろう瘤が出来てしまった額をさすりながら立ち上がると、隊長の手が足首を掴んだ。………えっ!
進むに進めなくなって、掴まれている足に気を付けながら隊長の隣にちょこんと座る

「もう行っちまうんですかィ」
「…起きてたんですね?」

アイマスクはしたまま小さな欠伸を一つすると「土方の胸クソ悪ィ声で起きやした」とちょっと不機嫌そうに言った。

「安心しろ。そんな怒ってねーから」

起きあがり吐き出された言葉に胸を撫で下ろす。

「まぁ、吃驚したけど」

いつもの隊長で…よかった。

「でも、この俺にゲロぶちまけるなんて全くもって前代未聞でィ」    
「全くもって怒ってるんですね」

アイマスクをずらしてこちらを見る隊長は怒ってるというより、からかっているみたいだ。それはそれでイヤなんだけど。

「怒っちゃいねーよ、」

そこまで言うと襟元に手が伸びてきてぐっと引き寄せられて、頭を隊長の肩に預ける形になる。横髪を掬って耳に掛けると、わざと息が耳に掛かるように

「イイモンも見れたし?」

そう愉しそうに紡いだ。私が理解に苦しんでいると(この体制で頭がうまく働かない)

「女物の浴衣って男物と違ーんですね」

戸惑っちまった、シレッと言う隊長とは逆にわなわなと、恥ずかしさと怒りとやっぱ恥ずかしさが込み上げてきて体温が上がった。「エッロイのな」ニヤリ、私の心臓はドキリ。


惚れる切っ掛けなんて何でもアリ
(随分と貧相な身体で)(うるっ、うるさい!)


「嫁入り前なのに…グスン」
「あんなモン俺に掛けたんでィ。貰われる覚悟くらいあんだろーな」
「あ…あります!万歳玉の輿!」