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おかしい。沖田総悟が、おかしい。変だ。元からという問題じゃない。あの、沖田、総悟が! こんな日に限って、正直だ。いや正直というか…嘘を吐かない。嘘を吐くという行為が日常茶飯事ってわけじゃないけど。エイプリルフール大好き沖田総悟が、今日に限って、嘘を吐いていない。異常だ。時刻は19時30分。いわずもがな4月1日である。因みに水曜日。嘘を吐いていい日から半日以上もたっている。仮にエイプリルフールは午前中までというルールを沖田隊長が知っていたとしよう。それを踏まえても彼は今日1日嘘を吐いていないのだ。沖田隊長の言動、行動には十二分に気を付けていた。ありえない。別に嘘を吐いてほしいわけじゃないけれど、毎年恒例だっただけに病気なんじゃ、と逆に心配になってくる。決して嘘を吐いてほしいわけじゃないんですよ。断じて。ここは安心すべき所なのだけれど…。4月2日まで5時間もない。 今日という日を振り返ってみる。鳥肌が立つくらいに何もない。沖田隊長に限って、だ。マジでどうしたのあの人。まず私はエイプリルフールに備えて作戦をあれこれ練っていたのである(沖田隊長に毎年カモにされるため)折角の作戦も日の目を拝む事もなく私の中のゴミ箱にポイされるはめになったのだけど。 朝、あれは9時頃だったか…。私は若干寝坊しながら快適に起床したのである。この時点でおかしい。9時、寝坊、快適…この日並ぶはずもないキーワードが3拍子で揃っている。まず4月1日にはありえない単語だ。 普段の…ていうか去年、一昨年の沖田さんだったなら、早朝人の安眠もお構い無しにスピーカーを私の耳元に宛て「火事だ」「攘夷浪士が攻めてきた」だのなんだのって私を叩き起こしては、腹を抱えて笑っているのに。 「今日も可愛いですねィ」 「‥‥はあ‥」 「マジだって」 「おーい、スカートめくれてっぞ」 「そんな嘘に騙されませんからね」 「へぇ…赤ですか。こりゃまた情熱的だねィ」 「!!!」 「そういや土方さんが呼んでやしたぜ」 「またそうやって、」 「ほらあそこに…」 「……!!」 「あ、団子でも食いに行くか」 「へぇー、行ってらっしゃい」 「いやお前も一緒に」 「いやですよ、どうせ私に奢らせる気でしょ」 「俺のおごりでさァ」 「うそ!」 「人をあからさまに疑うのはよくねェな」 とまあこんな感じで、彼は嘘どころか、普段の数倍優しいのだ。そのことがまさに嘘のようだ。一応嘘を吐いているということになるのだろうけど、なんかこうもっと人を嘲笑うような嘘を吐くのが沖田隊長というものだから納得いかない。何か企んでる? そう見えるようで見えない、ような。とにもかくにも怪しすぎる。まるで、沖田隊長じゃないみたい。 「……おかしい」 ここまで普通にしてるなんて、おかしすぎる。普段よりも数倍優しいというところが怖い。おそろしい。正直といえばそれも嘘になるけど、嘘という嘘は吐いていない。ややこしいけど、中途半端を保っているような感じがした。 「沖田さん!今日なんの日か知ってますか?」 「4月1日…あーっと…」 「そうです、エイプリルフールですよ!エイプリール!エイプリールフゥゥゥッ! ですよ!」 「それくらい知ってるけど。つか連呼すんなムカつく」 「いやいや、知ってるのに、とか、超ありえないしぃー」 「何が言いたいんでさァ」 「きょ、うは…沖田さんの大好きな、嘘吐いてもいい日なんですよ?」 「え、何そのいい方。超別の意味で捉えられそう」 「だからぁ!」 叫ぶと、ふいに沖田隊長の表情が真剣なものへと変わる。そのまま俯いて、何かを決心するような素振りを見せてから、自嘲気味に私に目を向ける。…背筋が、ぞっとした。え、な、なに…? ―― 沖田隊長…? 「‥なァ、お前‥‥本当はもう気付いてんだろ?」 「な、なにがです?」 「…俺が、沖田総悟じゃないってこと」 「っ…!」 「なぁんてな。嘘でさァ」 「ほ、ほんとに…?まさかとは思ってたけど…」 「は? ちょ」 「マジで、え、でも…嘘……ニセモノ?」 「いやだから嘘だって」 「うそ…?」 「ほんとだって」 「う、そ…?え、ほんと?うそ?」 「あれ、何お前マジになってんの?」 「いや…でも…うわ、アンタ誰」 「アンタ誰って」 「いや違う。お前は沖田さんじゃない」 「なんだと」 「沖田さんは、もっと胡散臭くてひねくれてて、めんどくさがり屋で私には絶対一銭も出さないケチな人で嘘つきでろくでなしなんです!お前は誰だ!」 「……(ひでぇ…!)」 四月馬鹿 4月2日 00時00分00秒 「エイプリルフールに告白ってベタですかね」 「え、えっと…そんなこと…」 「ふーん…今好きって言ったら信じる?」 「はい?!いや、あの、」 「‥キョドりすぎでさァ」 |