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「あ、あの、‥‥?」 奴の睨むような視線に耐え切れなくなり(それから周りの視線も)勇気を出して声を出してみた。のだけど、彼は一向に口をもごもごさせているだけだった。いつもなら、「財前じゃん、おはよー」「ん、」「今日も無愛想だねー」「うっさいわ」「もっと笑えよー」「大きなお世話やっちゅーねん」‥‥なんて軽口言い合ってたのに。どうも話しかけづらい。 何か言いたいのはわかったんだけど、わかったんだけど! 何をいわんとしているのかわからない。そもそも何でネズミの耳なんか装着してるんだ。さっきも言ったけど、それが気になってしかたない。なんだ、ネズミの国にでも行く気か。そこで私はようやく気付いた。彼は、私に、「一緒に、ディズニ○ランド行かへん?」と言いたいのだと! で、デートに誘いたいんやな、そうなんやな財前! でもシャイやから中々言い出せへんねんな! かわええなあ財前!ってアホかーい! 財前がそんな初々しいやつなものか。キャラが違ってるじゃないか。それは忍足先輩のキャラであって財前のキャラじゃあない、ない。 「お前、」 「は、はい!」 「俺が、何でこないアホみたいなかっこしとるかわかっとるよな」 「え、う、うん、うん! でも、私なんかでいいの?!」 「おん、お前くらいしかおらんし」 「や、いっぱいおるやん!」 「もう行ってきたわ」 「(財前が振られたー?!)」 照れ隠しのつもりかなんなのか知らないけど、ぎろりと睨むのはやめていただきたい。普段の数倍怖い。彼の口元の筋肉がピクピクと震えるように動く様がものっそい怖い。しかも頭には○ッキーの耳ですよ? パレード帰りかっちゅー話や! おかしいやろ! 学校にしてくるもんとちゃうやん! そんなに見せびらかしたいんか! ネズミさん見て来ました〜アピールか!? それともやっぱこれから行くのか? それで私を誘おうとしていると‥‥! 数秒前にかわした会話から言って、やっぱり私を誘おうとしていることが伺える。で、でも私でいいのか、っていうかデートになるんじゃないか? 財前とデート? いやいやいや! 財前人ごみとか行列とか苦手じゃん! ていうかていうか、誘った子みんなに言ってきたの?! 断られたから私のとこにきた、とか。 「嘘や」 「う、うそかい!」 「こんな耳つけて行けるか!」 「いやいやここ廊下なのわかってる?」 「せやから、はよ、察せや!」 「察するって何を?!」 「しゃーから!」 「う、うん」 「と、」 「と?」 「トリックオアトリートっちゅー話や!」 顔面凶器のままの財前はそう叫ぶなり、コンビニなんかで売ってるぜんざいのカップを押し付けるように渡して、そのままネズミの耳を私に被せてから、廊下を忍足先輩のごとく走り去って行った。あ、デートのお誘いじゃなかったのね。ハロウィンなのね。あれ、今日ってハロウィンだったの。そうかそうか、それでネズミさんね、仮装ね。乱暴に被せられたネズミの耳が、目の所までずれ落ちて視界を黒く染めたのと、顔が赤く染まったのはほぼ同時だった。 「どないしろっちゅーんや」 魔法のバトン 渡されたぜんざいのカップを大事に手のひらで包んで、見えなくなった財前の後を追いかけた。 「今の逆やろ、普通。お菓子ねだる方やん!」 憐ちゃんへ/ネズミの耳を着けた財前を書いてみたかったんだ |