ちまちま | ナノ
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9月25日。今日は切原赤也の誕生日です。朝から教室には女の子達や赤也くんのお友達で賑っています。私が下駄箱に着いた時に、赤也くんはまだ登校していないようだったのですが、彼の下駄箱の中には溢れんばかりのプレゼントが詰め込まれていました。朝練がまだ終わってなかったのかもしれません。テニス部の練習は毎日ハードだと前に赤也くんが言っていました。真田先輩の悪口もたくさん言っていました。あの人副部長なのに目立ちすぎ!とことあるごとに言っていたのを思い出します。よもや口癖のようなものでした。
教室に着いても、赤也くんはやっぱりまだいませんでした。だけれど、彼の机の上や中には、たくさんのプレゼント達が赤也くんの到着を待っていました。プレゼントだけではなく、彼のお友達や、ファンらしい女の子達も彼の到着をまだかまだかと待っていました。赤也くんってみんなから好かれてていいなあ、と思いました。羨ましい反面、私の中が冷めていくような気がしたのです。私の隣が赤也くんの席だからなんでしょうが、赤也くん宛てのプレゼントが私の机にまで置かれているので困りました。迷惑というわけではないのですが、このままでは私が座れないのでやっぱり困ります。早く赤也くん来ないかなあ。
赤也くんは私が(数分の葛藤の末)席に着いた数分後に教室に入ってきました。両手には抱えきれないほどのプレゼントを抱えて。机の上に置かれたプレゼントを見て、彼は一瞬だけ眉を顰めました。それから小さく溜息を吐いて「またかよ」と呟いたのです。嬉しいというよりも、疲れているようでした。私はそんな赤也くんを見ながら、ほんの少しだけ悲しくなりました。
赤也くんは私の机の上に置いてあるプレゼント達を見て、「お前も誕生日なの?」と聞いてきました。本気で言ってるんでしょうか。全部赤也くんのだよ、とプレゼントを赤也くんに渡しました。
「わりーな」と口だけ謝った赤也くんは、どこからか紙袋を取り出して、乱暴にプレゼント達をその中に詰め込みました。どうやら仁王先輩からのプレゼントのようでした。プレゼントが紙袋なのもどうかと思いましたが、役に立っているようなので、ある意味で一番嬉しいプレゼントだったかもしれません。安上がりだけど、お役立ちアイテムといった感じでしょうか。

「すごいプレゼントだね」
「おう」
「朝から大量だねえ」
「まあ悪い気はしねえな」

「持って帰る時大変だろうなぁ」と呟いた先にまた女の子が赤也くんの目の前にやってきました。教室までの間、数人の女の子達からプレゼントなどを渡されたと赤也くんが言っていたので、彼女もまた彼にプレゼントを渡しにきたんだろうなあと頭の隅で考えていました。まるで、9月25日は切原赤也にプレゼントを渡すのが常識のようでした。それくらい当たり前のことのようだったのです。

「これ、切原くんに! もらってください!」

そう言って、押し付けるようにプレゼントを赤也くんに渡して、その女の子は赤也くんの言葉も待たずに走って教室から出て行ってしまいました。

「今の‥誰?」
「‥知らない」

確かなのは、あの子はうちのクラスではないことと、赤也くんを好きだということだけです。

「知らないやつにもらってもな」

複雑そうに、受け取ったプレゼントを見た赤也くんに、共感するものがありました。

「毒とか入ってねえだろうな」

冗談なのか本気なのかわかりませんが、そんなことを呟きながら今しがた受け取ったそれも紙袋の中へと放り込まれていきました。なんとなく、もやもやし始めて、私は今すぐ別の話題にうつりたいと思いました。

「もらってください、ってばっかで俺の誕生日祝う気あるんかね」
「みんな必死なんだよ。赤也くんに見てもらいたくてさ」
「だったら何ですぐに走ってくわけ? 俺だって礼くらい言うぜ?」
「そんなこと私に言われても」

返答に困ってる間に、また新しい女の子が赤也くんにプレゼントを持ってやってきました。
「切原くんお誕生日おめでとう! あの、これ、もらってくれる?」
顔を真っ赤にさせながら早口でそう言った女の子は、私から見てもすごく可愛い子でした。恋してる、っていうオーラが彼女の周りを満たしています。

「アンタ誰?」
「あ、え、あ‥と、隣のクラスの鈴木っていいます」
「ふーん。アリガトね」

口だけで笑ってもらったプレゼントを彼女の目の前であの紙袋の中へ押し込んだ赤也くんに、何を思ったのか彼女(鈴木さん)は更に顔を真っ赤にして笑顔になりました。私だったら、悲しくなると思います。好きな人に存在も知ってもらえてなくて、上辺だけのお礼に他の物と一緒にされて嬉しいはずがありません。彼女は気付かないのでしょうか?

「今のはちょっとひどいと思う」
「なんで?」
「折角くれたのにそんな態度はあんまりだよ」
「どこが? そもそも俺アイツのこと知らねーし、貰ってやっただけマシじゃねえ?」
「それ、本気で言ってる?」
「普通そう考えねえ? だって知らないやつからのものだぜ」
「それでも、赤也くんの生まれてきた日を喜んでるんだよ」
「はあ? 何それ。何が言いたいわけ」

本当に、私は何を言いたいんでしょうか。赤也くんの意見は正しいものなのに、否定したくなる。

「誕生日おめでとうってさ、その人が生まれてきてくれてよかったって、思ってくれるってことでしょ? それだけ、自分がその人から必要とされてるってことでしょ? だから、もっと、自分が生まれてきてよかったなあって思わなきゃ、寂しいよ」

赤也くんは私の言葉に黙ってしまいました。怒ってしまったのでしょうか。

「‥‥‥ごめん」

なんだか悲しくなってきて、俯きながら謝った私を赤也くんは無理矢立たせて、教室の外まで着いて来るように促しました。ひとけのない所まで来るとやっと赤也くんは足を止めました。

「お前、俺が喜んでないって言いたいわけ」
「‥‥‥‥」
「ちげーからな」
「え‥‥?」
「ちゃんと嬉しいって思ってる。ただちょっと、」

ちゃんと俺が生まれてきてくれてよかった、って思ってるやついんのかなって思ってただけ。そう言って、赤也くんは寂しそうに笑いました。

「女の子たちが、赤也くんを好きなのってさ、生まれてきてくれて嬉しいってことなんじゃないかな」
「は?」
「赤也くんがいなかったら、みんな、あんな風に恋しないよ」
「お前さ、」
「ん?」

目が、合う。力なく笑った赤也くんはどこか大人っぽかった。

「お前は、俺がいてよかった?」
「うん」

そっか、といつものように白い歯を見せながら笑った赤也くんに、精一杯の好きを込めて「お誕生日おめでとう」の言葉を贈らせていただきました。


Buon compleanno


「プレゼントはないんですかー?」
「物より気持ちで勝負するんです」


(方向性がつかめん!)