ちまちま | ナノ
×
約束の時間は、午後3時。

折角のクリスマスを、折角彼がいるのだから、好きな人と過ごしたいと思って思い切って誘ってみた。もちろんクリスマス当日のデートだ。午後3時。私としてはもっとはやくに彼に会って、色んなところをまわりたかったのだが、生憎テニスのことで頭いっぱいの彼は午前中はテニスの自主練に励むと申し出た。よって午後3時まで私の願望は引き伸ばしにされたのである。こんな時くらい彼女を優先させてくれてもいいんじゃないか。おまけに宍戸は約束の時間を1時間以上も破っている。大遅刻だ。しかも約束の時間を過ぎてから10分した頃から携帯に電話をかけているのだが一向に出る気配はない。何度かけても、何度かけても。最初の内は留守番サービスセンターに繋がっていたものの、今では数回のコールの後、プツっと切れるのだ。おかげで、3つあった電池は1つ減って2つになった。
イライラする。連絡くれてもいいじゃないの。何かあったんじゃないか、とか、もしかして忘れてるんじゃないか、とか色んな心配事が浮上しては目頭を押さえたくなる。何で私宍戸と付き合ってるんだろ。告白してきたのは向こうだし、宍戸になら振り回されるのも愛情でなんとかできると思った。思ったのだけれど、現実はそう甘くなかった。
実際付き合ってみたらテニステニスで忙しそうだし。テニスが好きなくせに私に告白するとか何考えてんの宍戸の奴。わからないよ。宍戸の好きって何?宍戸が私に対する好きって何?そう思ったら心配よりも怒りが湧いてきた。ギリギリと携帯を握り締めると、メキリと携帯が軋んだ。


トゥルルルル…
 
      トゥルルル…

   トゥルルルル…

 
――ブチ


コール音がブチリと無残にも切れる。私の中にもブチリと何かが切れる音がした。私は勢い任せにそのばで携帯を地面にたたきつけた。周りを過ぎ行く人の視線が私に向けられる。どうしたのかしらー、喧嘩ー?勝手な憶測から吐き出される他人の言葉を耳にしながら、画面が割れて真っ黒(液体のようなものが画面の中に浮き出ていた)ディスプレイを見詰める。何よ何よ何よ何なのよ。ドタキャンかよ。逆パカしたときのように折りたたむ所からコードが延びている。イライライライライライライライラ…。携帯と同じように私達も壊れていくのだろうか、携帯画面のように私の世界は黒に支配されていくのだろうか、伸びて上下にぶらりと垂れるように、私達も放れて言ってしまうんだろうか。壊れてしまった携帯を見詰めながら後悔した。もしかしたら、次は電話に出てくれたかもしれない。淡い期待に、後悔した。なんだ、結局 私が宍戸を好きなだけじゃないか。振り回されててもやっぱり好きなんじゃないか。

足元で転がっている携帯を拾う。叩き付けた衝動で電池パックがどこかへ飛んでしまった。電池パックの入っていない携帯はとても軽かった。人間もそうだ。電池パックはいわば心で、今の携帯の本体は身体だけで大事な物がかけている。


「ほんと…宍戸とかありえないんだけど」

そう言いつつ、そんな宍戸が好きな自分がありえないと思った。携帯を上のほうだけ持って頭上から垂らしてみる。コードにつながっている片方がゆらゆらと揺れた。
音こそ鳴りはしないものの、どこか風鈴を思い出させた。

「何だその携帯?!大丈夫かよ?」
「…え、」


カツーン…またしても携帯が地面と対面した。

「遅れちまって、わりぃ」
「しし、ど…遅いよ」

もう一度わりぃと眉を八の字にして謝って、吃驚して落としてしまった携帯を拾い上げる。


「電池パック入ってねーの?」
「………どっか飛んでった。」

この辺だよな、そう言って彼は辺りを見回す。あった、そう呟いて数メートル先にあった小さい薄くて小さい箱に向かって歩き出した。それを拾い上げて戻ってきた彼は、携帯でも買いに行くか、と拾った電池パックをポケットに入れながら提案した。


流されちゃ、いけない


「ふ、ざけないでよ。宍戸っていつもそう!いつも私の事ほったらかし、今だって、私の事なんてみてない!」
「な、オイ…!」
「遅刻してきてさ、連絡も何も無いし…私のことなんて何もわかってないんでしょ?!私、そんな、付き合いがしてくて宍戸と一緒にいるわけじゃないんだよ」
「………」
「私が宍戸のこと心配しないとでも思ってるの?」
「ごめん、」
「もういいよ、」
「ごめん。」


悪かったよ、と小さく呟いて、ふわりと抱きしめられた。宍戸が、人目を気にしないでこんなことをしたことは無かったので(人目なくてもしないけど)かなり、吃驚した。不器用に抱きしめる宍戸の耳が頬にあたる。熱い、宍戸の手よりもそれはずっと熱い。小刻みに震える手に、全てを許してしまいそう。

「俺、そうゆーの、鈍くて…言われるまで気付かなかった…わかったつもりで、いた」
「うん、」


続き思いつかなかった/^^\宍戸むずいな