ちまちま | ナノ
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僕ってさあ、いつも孤独と一緒にいると思わない?そう言いながら、笑ってるのかそうでないのかよくわからない いつもの顔をしながら、いかにも困ったなあという空気を一層醸し出しながら溜息をついた。なんにせよ奴の表情は穏やかだった。ていうか孤独?え、なに、天才特有とかそういう孤独?

「いやいや不二さん何言ってんの」

彼が孤独だなんて、ないでしょ。ないない。ないよ。あんたにはテニス部のみんながいるなじゃいの。

「テニス部でしょ?テニス部じゃん」
「わかんないよ」

テニス部の何が駄目なんだよ。テニス部じゃんってひどいな。テニス部も涙目だよ。

「なんかさあ、仲間だけどさあ?僕の悩みを打ち明けられそうなやついないじゃない」
「どんだけ信用してないんすか」
「してるよ。でもなんか、僕って悩みないとかみんな思ってるのかな。そういう雰囲気にならない」
「手塚君とか真面目に聞いてくれそうだけど…」
「手塚?だめだよ手塚は。恋愛なんてした事ないタイプ」
「え、不二恋してるの?」
「そうそう、してるの。今その子の事ですっごく悩んでるんだけどね?」
「あー、そういうことなら結構人気あるの菊丸とかさ…」
「英二もだめだよ。僕とは根本的にタイプが違うし」
「女の子の?」
「性格とか。この際君でいいからきいてくれない?」
「えええ!やだよ、いや、やじゃないけど男の子の気持ちとかわからないし…」
「いいじゃない、女の子の意見って気になるし、ね?」
「ね、って言われても…私も恋愛経験とか少ないし…」

一体孤独ってなんだったんだよ。お前ただ恋バナしたかっただけなんじゃねーの。
部活が終わり部室で不二と残っていたら(だるいと言って一向に出て行こうとしないのだ。なんか私付き合わされてるし) 孤独だのなんだのと相談をしてきたと思ったらこんどは恋愛の悩みをきいてくれだなんて。この人本当に天才なの?そう言えば不二はまた困ったような顔をして「それだよ」と指摘して来た。どれだよ。お前のどこが孤独だよ。

「みんな僕を天才天才って言うせいで悩みとか全て自分で解決したり何とか出来るって信じてるんじゃない」
「ああ」
「誰にも理解されない僕…なんて可哀想なんだろう。てことで相談乗ってよ」
「そんなに恋バナしたいんですか」
「したいよ。あのね、僕だって年頃の男の子だよ?恋くらいしたいじゃん」
「テニスへの情熱は何処ですか」
「情熱はあるつもりだよ。でも恋へ欲情を注いだっていいじゃないか」
「欲情とか…」
「ねえどうしたらいいのかな。僕が告白とか似合わないじゃん。天才だし」
「天才が告白似合わないって型から抜け出さない限りだめだと思う」
「あ、でも僕の告白断る子なんていないよね?」
「ねえ何その自信。あんま悩んでないっぽいんですけど」

んー?と声を出して曖昧に答える不二には失礼だが私は早く帰りたいなあと思った。君なら自分で解決できるよ。だってなんかもう一人でずんずん道を切り開いてっちゃってるしさ。ぶっちゃけ私ツッコミくらいしかしてないし。ていうかツッコミもいらなくね?

「あ、今めんどくさいって顔した」
「してないけど正直帰りたい」
「ひどい」
「で、不二の好きな子って誰ですか」
「え、言うの。言わせるのそれ」
「いや、協力してあげてもいいなあと」
「あ、もうやだ君。もういいから気にしないで」
「何コイツめんどくせっ!」
「あーもういいよもう、僕は君が好きなの」
「えええええ」
「マネージャーに恋してるなんて相談、できないじゃない。相談自体した事ない気がしなくもないけど」
「どっちだよ。ていうかマネって私だよね」
「そういう事だから付き合って欲しいな」
「茶番に?」
「そう。僕との恋愛に」

にこり、と微笑まれたと思えば次の瞬間、不二の手が頬に伸びてきた。それを振り払う間もなく彼の整った顔が近づいてくる。ので、私は黙って目を閉じました。軽く唇が振れた後に、もう一度さっきよりも長くて深いキスが降りてきた。ドキドキする中で私って不二が好きだったのか!と一人慌てていた。キスを拒まない辺り私は不二を好きらしい。うん。あ、やばい好きかも、じゃなくて不二好き、好きっぽいんだけど。
上唇にちろりと不二の舌が這う。更に目を閉じた。うひゃああ!そんな感じです。ドキドキでもうなんも考えられない。恥ずかしい事してるに違いない。恥ずかしい。どうなんのこれ、どうすればいいの。どのタイミングで息したらいいですか!上唇を挟むような軽いキスに、もう無理だと思った。

「い、息っていつしたらいいかな」
「鼻からすればいいんじゃない」

しらっと答えた不二は余裕の表情でした。なんかムカいたので、もう一度キスしてこようとする不二の身体を押し離してやった。

「空気壊れたよね」
「も、勘弁してください…!いきなり過ぎて、」

付いていけないと言えば彼はクスリと笑って僕もと笑った。どこがだよ。お前絶対初めてじゃないだろ。そう言えば不二は初めてだよと笑った。それはもう嬉しそうに。何が嬉しいってんだよ言ってみろ。あん?私のファーストキス?そんなんもう忘れていいし!お前だから初めてはないだろ!「しつこいなあ、初めてだってば」もう信じらんない!頬にあった手がいつの間にか腰に移動してるし!なんか不二が好きだって思ったら急に不二がかっこよく見えてきたし!ていうかもとからかっこよかったけどさあ!なんか私喜んでるんだけど!

「ところで、キスしてからで悪いんだけど、返事をききたいな」
「まあ、うん付き合ってもいいよ」
「付き合う前に好きがほしいな、僕としては」
「その言い方はズルイ気がする」
「僕は君が好きだよ、だから返事が欲しい」
「好きだから付き合ってください」
「そうそうそんな感じ」

良く出来ましたとでもいわんばかりに頭を撫でられる。それはもう愛しそうに。不二の目に私が映っている、それだけでもう心臓が破裂しそうだ。キスした後に言うもんでもない気がするけど。いやキスの後だからなのか。もういいなんか不二好き。

「あー!恥ずかしい」
「僕も」
「平気で嘘つくのやめてよ」
「嘘じゃないし。ほんとだし」

彼曰く白鳥なんだそうだ。バタ足しながら平然を装ってるらしい。なんとも信じがたい話である。まあ素直じゃないことだけ認めておく。事実かれは照れているような仕草を見せた。うん、まあ少しくらい信じてあげよう。なんなら心臓の音聞いてみると提案してきた不二に断って、帰る支度を始めた。つれないなあ なんて呟きを背にドアを開ければ、菊丸と桃と海堂がドアの前で顔を真っ赤にしながら硬直していた。
顔赤くしたいのはこっちだっつーの!


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