ちまちま | ナノ
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まず、私は好きでこの場に留まって、彼等の会話を聞いていたわけではないと宣言しておく。次に、私の席は仁王の隣であり、さらには丸井の席とも近かったのだ。そうなると必然的に彼等の会話が嫌でも耳に入ってきてしまうのだ。私は自席にて静かに読書の世界と誘われていただけであって、決して仁王や丸井の話に興味があって、自分の席を離れなかったわけではない。
丸井の愚痴とも言える会話が繰り広げられてしまっても自分の席を立たなかったのは、わざわざこいつらのために私が動くのがなんとなく癪だったからだ。奴が彼女と別れたと切り出したあたりから私の一人トリップは終わったのだけれど。ちょっと興味深い話を耳にしてしまった。だけれど、決してこの2人に興味があったわけじゃない。会話だって耳にしないならしないでよかったし。たとえイケメンモテモテ我がテニス部レギュラー様の会話だったとしても興味があったわけじゃないんだから!こ、今後の参考までにと思っただけだ。何の参考かはきかないでいただけると嬉しい。

「そこで俺は思ったわけよ!」
「俺も思ったわそれ」
「まだなんも言ってねーよ!」
「あれじゃろ?国語教師の不倫ネタ…」
「ぜんっぜんちげーし!それ初耳だし!」
「まじでー」
「そうじゃなくて!女はやっぱ」
「あー、うん、相手は多分この学校にいると…」
「その話題引っ張ってんじゃねえよ。俺の話させろぃ」
「どうぞ」
「胸は形が重要だと思うんだよ」
「おお!巨乳好きの丸井が!」
「でかいだけじゃだめね、揉めないのもやだけど」
「なん、彼女とそれで別れたん」
「は?ちげーし。彼女なんていねーし」
「あれ、この前いるって…」
「ちょっと見栄張ってみただけだし!」
「そか…(…………)」
「何その目」
「別に」
「つーかさあ、俺やっぱこう、普通くらいの大きさがいいと思う。掌に収まるくらいの?」
「あー…」

読書をしている振りを続けながら二人の会話を聞いていると、なんとも男子!な話が展開されていた。
どうやら丸井は彼女と別れたっぽかった。ていうか彼女否定してるけど、まさに今見栄張ってますって感じなんだけど。そこからどんどん彼女さん(正確には元彼女)の愚痴から下ネタへと流れていった。やっぱこの2人も一般の男子と変わりないのね…。
パタンと眺めているだけだった本を閉じると、首筋を捕まれ引っ張られて右側に大きく私の体が傾いた。

「コイツなんてどうじゃ」
「うごご…!」

犯人は勿論 仁王だ。私のバランスは仁王の左手にかかってると言っても過言ではないだろう。ちょ、腰痛い…!

「はあ?揉むほどねーよ!」
「なっ!」
「あらー残念」
「今の発言は聞き捨てならない」
「事実だから仕方ない」
「失敬な!あんたの2人前の彼女よかある!」
「見栄張んなって、わかってるから」
「てか、え。きいとったん?」
「…うーわ、盗み聞きとか…」

しまった…!仁王が頭上でニヤニヤ笑っているのを確認すると急に顔に熱が集まった。
目の前の丸井が半目で「うわー引くー趣味悪ー」などと言ってるが(冗談だと信じたい)お前の女の趣味の方が悪いと反論したい。私が悪いみたいな言われ様だが、不可抗力である。勝手に話を始めたのはそっちじゃないか!悪意を込めて丸井を睨むと仁王と同じくニヤニヤした笑いを返された。く、悔しい!私は被害者だ。

首根っこを掴んでいた仁王の手が急に離され、そのまま仁王の膝に流れ込んだ。ひいいいいいい恐ろしい!
机に手をついて体勢を戻すと、反論する間も与えず丸井が「お前ってさあ」と切り出した。

「絶対Aでしょ」
「いやBですよ」
「は?見栄張んなって!俺らの仲じゃん!」
「乳くりあった仲じゃん!」
「そんな仲あってたまるか」
「だってほら、ないじゃん、全然ないじゃん」
「2回も言うな」

丸井が胸板辺りで、胸の膨らみを手で表現する。てめえ私がまったいらだって言いてえのか。少なくともあんたらよりはある!…男子と比べても仕方ないか。

「着やせするタイプなんですー」
「腹がヤバイと…」
「いやあのね、」
「そっかパッド…」
「しばくぞお前ら」

手元にあった本で丸井の頭を叩いてやった。

「俺なら、お前さんの胸でもじゅーぶん楽しめるぜよ」
「マジで?何仁王って小さい方が好きだったの」
「女の子がここに居ること君ら知ってるよね?」
「………」「………」
「胸を見るな!そんな哀れんだ目で見るな!」
「だって…」
「大きさより形って言ったの丸井じゃん!」
「そーだけどよ。なんかさ、形も見えないような…」
「お前の眼球は腐っている!」

丸井の頭をもう1度叩いてからそのまま胸の前で構える。本日2度目の丸井の悲鳴が聞こえた。そ、そんなに小さくない、ぞ!くそう…これから毎日牛乳飲んでやるかコノヤロウ!

「で、何が楽しめるって?コイツ相手じゃさすがの俺も…」
「幸村君呼んできていい?」
「ごめん嘘マジ冗談だって本当ごめんなさい」
「うん」
「ほら、自分の手で大きくしてくのも結構楽しいナリ」
「おお〜!」
「おお〜、じゃねえよ!」
「…でかくしてやろうか?」
「心底遠慮したいです。」
「じゃあ俺が…。丸井よりうまいぜよ」
「丁重にお断りします。」
「んだと仁王どーゆー意味だよ最後の!」
「ブンちゃんはコイツの胸成長日記を書く係で」
「ないからね、そんな係!」
「お前の胸がもうちょっとでかかったら付き合ってやってもいいよ?」
「じゃあ一生小さくていいや」
「どーゆーイミ」
「俺はありのままの…今のままのお前さんで十分ナリ」
「…え、…」
「いや何この空気。なにこのフラグ立ちそうな空気」
「あ、そういや私 次当たるじゃん!やばー」
「俺さり気無くスルーされとる…」
「一生されてろぃ!」
「ねー、宿題やってきたー?」
「数学だろぃ?やってくるわけねーじゃん」
「ですよねー。丸井君ですもんねぇー」
「俺やってきたぜよ」
「さっすが!ねっ、お願い仁王…」
「うっわ何 お前、えっろ!」
「そこまでお願いされたら…」
「いや、脱がなくていいし。」




破廉恥

グダグダと駄弁っている時間が愛しいと思える時は来るのか否や