ちまちま | ナノ
×
毎週みているドラマが終わったあと、お風呂に入り、歯を磨いて、部屋に戻った時だ。ベッドの上に置いた携帯が点滅しているのに気付いたのは。ピカピカ点滅している携帯を開けば1件のメールが届いていた。特に何も考えずにメール画面を開けば、仁王からのメールだった。送信された時間を見れば36分…ちょうど私が歯を磨きに部屋を開けていた時だ。件名に“大至急”と書いてある。何かあったのかな? なんだろうと思うのはごく自然な感情であるに違いない。気になる事は多々あったけど、とりあえず本文を開いてみる。

09/05/12 22:36
[差出人]仁王
[件名]大至急

[本文]
10時半までにコンビニ来て

--- END ---

「……は?」

簡潔に用件だけ書かれたメールには22時半と指定してある。動きを止め思わずディスプレイを睨む。
ていうか、コンビニ? 大至急というからにはもっと重大な内容だと思ったんだけど。いや待て、絵文字を使ってる所からして結構やばいのかそうでないのか…。仁王が絵文字…やばい似合わない。これは、どう捉えるべきなんだろう。大至急だから絵文字なのか、大至急だけど絵文字なのか。後者だった場合、そこまで困ってないのかもしれないという考えになる。前者ならば、てんぱるくらいにやばいから絵文字という考えになる。‥‥‥まあ仁王のことだし平気かなあ。
彼への扱いはあまりよくなかった。彼の日ごろの行いというものだろう。信頼はされても信用されないタイプだ仁王はきっと。得してるような雰囲気あるけど実は結構損してるよね。世渡り上手ともいえるけど、裏を返せばそこまででもないような気がする。可哀想な奴め。そうは言っても本気でそう思ってない。やっぱ信頼されても信用はされないんだなと思った。奴の扱いはどちらかというと悪い。ほっといても大丈夫そうなイメージ。でもたまに寂しがりやになる仁王。マジ天邪鬼。
ていうか、指定された時刻が半…送信されたのが約5分後。あいつ、実はバカ?いや頭よさそうにも見えないけど。呆れつつ、本当に何か困ってるのか心配になり(心配:4、好奇心:5、暇:1)
Tシャツの上からスウェットを着て適当に机の上に転がっていた小銭と携帯をポケットにつっこんだ。私ってなんて友人思いなんだろう。感動!まず女の子をこんな時間に呼び出す事がおかしいのだ。これは肉まんだけじゃ許せませんな。私が奴の元へ向かう理由は食への意欲からなのかもしれない。じゃあ割合は心配:3、好奇心:3、暇:2、食:2になるかな。あれ心配が減ってる。まあいいや。

何を奢らせようか考えながらの一人歩きは意外と楽しかった。暗くてちょっと怖かったけどね、スリルを楽しんだような気分だから このことも含めて楽しかった。

「遅いんじゃけど」

コンビニの前で仁王が携帯片手につっ立っていた。自分から呼び出しといて、しかも指定の時間おかしい奴に言われる筋合いないんだけど。ていうか何、何なのコイツ。大至急っていうか、もっとゆっくりきてもよかったんじゃないの!全然余裕そうなんだけど!

「送信メールをよく見て見る事をおすすめするね」

軽く飄々としてるこのバカを睨んでから、ドアの前にいる仁王を押しのけて中に入る。仁王もその後に続いた。

「仁王おま、遅い!」
「おー、悪い悪い」

悪びれた様子もなく形だけ謝ると、レジにいる丸井の方まで歩いて行った。ぶっちゃけレジなんて気にしないでお菓子コーナーを見ていた私はこの時初めて丸井の存在を確認したのだ。えええ、丸井がレジ打ってる!丸井バイトしてる!超ウケるんだけど。丸井がバイト!コンビニでレジ打ち!なんか学生っぽくて爽やかっぽいんだけど!あの丸井がねえ…へえ…ふーん。

「丸井ってバイトしてたんだー」
「まあ最近から?」
「まあまあそんなことより、100円かしてくれん?」
「は?」

丸井との会話に割り込んできた仁王がポケットに手をつっこんだまま私に要求して来た。100、円?

「いやあ、超恥ずかしいんじゃけど。100円たりなかったとか」
「コイツさあ、100円と50円玉間違えてたのね」
「よくあるよくある」
「それで私が呼び出されたと…」
「よくあるよくある」
「そ、それだけのために私を…私を利用したのね…!」
「この辺で一番近いのお前さんしかおらんし」
「私を弄んだのね…!」
「そのことは…本当に悪いと思っちょる」
「そんな、今更信じられないわ!」
「でも、今はお前だけだから」
「それ、あの女にも言ったんでしょ!」
「落ち着いて、話し合おう…。そし」
「あああーもー!お前らさあ、やめてくんない!?営業妨害!」
「あの女さえいなければ…!」
「バカな事は考えるな…!」
「マジでやめて!勝手に昼ドラやんないで!ここどこかわかってんのお前ら」
「コンビニ」
「しかも思いっきりレジの前な!邪魔だから!」

ノリノリで小芝居を打っていた私達に丸井が仁王が買おうとしているエロ本(ビニール入り)を丸めて叩いてきた。もちろん喰らったのは仁王だけ。ていうか…私はたかがエロ本1冊のために呼ばれたの。か、かなしい…!
てかなんか、モヤモヤする。エロ本…男子なら、健全な男子なら普通なのかもしれないけど。目の前で買おうとしている友人をこう目の当たりにしてしまうと、少なからずショックだ。しかも私からエロ本のための金を借りようとしている…複雑以外の何者でもない。しかもしかも女の子に…!許せない。

「なんじゃここの店員は客を商品で叩くんか。てんちょー」
「嫌な客だよね」
「マジさあ、俺そんな暇じゃねーんだけど。仁王に構ってる暇なんてねーんだけど。バイト中なんだけど」
「え、なん。ブンちゃんリア充気取り?」
「あれ、でも最近ブンちゃん、か…なんでもない」
「マジでか。俺わかっちゃった。察しちゃった。ま、頑張りんしゃい」
「お前に言われるとむかつくんだけど」
「女心って複雑だけどさ、ちゃんと話し合えばうまくいくもんだよ…きっと」
「だあああもおー!うっせーよお前ら!はやく金払えよ!そして出てけ!帰れ!」
「店長ー」
「店長ー」
「誰か助けて」

その後も3人でぐだぐだ騒いでいたわけだけども。時計を見れば0時をすぎたあたりでさすがに眠気が襲ってきた。てか私らどんだけ居座ってんの。いや仁王が悪い。だって仁王がちょっかい出すのやめないし。そろそろ目の前にあるエロ本をどうにかしてほしい。仁王は巨乳好きなのかそうかそうかわかったから棚に戻してきてきてくれないかなあ。
丸井がついにキレて終いには2人仲良く追い出された。しかも箒で。私達はなにか、埃か、ゴミですか。…そうですね。挙句の果てには肉まんとあんまんとからあげくんを買わされた。勿論仁王の金だ。エロ本は諦めさせた。無理矢理買わされた食料は私を呼び出した手間賃として有難くいただくことにしました。

「俺にも一口ちょーだい」
「んー」

私が半分まで食べた肉まんを口元まで持っていくと仁王はなんの躊躇いも無しに肉まんを頬張った。奴の一口はでかかった。

「あづー」
「きゃー仁王その顔すっごいやばい!」

肉まんが思いのほか熱かったのか、口を金魚のようにパクパクさせばがら酸素を送り込もうとしてる仁王の顔があまりにもマヌケで声に出して笑うと「うふ、さひ」と日本語なのかそうじゃないのかそんな声がきこえた。多分うるさいって言ったんだろう。一通り笑った後、口を開けたままの仁王の口にふーふーと呼気を送り込んでやった。あ、写メっとけばよかったな、失敗した。

「口ん中やばかった」
「あの顔傑作だったよ」
「うわー忘れてください」

返事をしないで大きな一口のせいで小さくなった残りの半分を口に押し込んだ。隣を歩いている仁王が情けない声で「エロ本」と呟いた。まだ根に持ってるのか。

「そんなにエロ本買いたかったの」 
「健全な男子のバイブルじゃ」
「聖書を汚さないでくれる」
「今夜どうしたらいいん」
「しらねーよ」
「お前さん…」
「さあーて、帰ったらもっかい歯磨きして寝るかな」
「俺の相手」
「ん?あ、丸井おつり間違えてんじゃーん!50円得しちゃったんだけど」
「それ俺のつりじゃろ」
「いーじゃん手間賃」
「肉まんとからあげ奢ってやったのに…」
「あんまんは?」
「半分個な」
「仁王大好き!えへっ!」
「…なあ、ちゅーしてええ?」
「えー、ダメー」
「えー、ケチー」




真夜中

数日後、丸井が彼女さんと別れてさらにバイトをクビになるというダブルパンチを喰らったのはまた別のお話である。


「お前らのせいだから!」
「いや、ブンちゃんのレジ打ちのせいじゃない」
「そらクビにもなるわな」
「お前らが騒いだからだろぃ!」
「人はそれを、当て付けと呼ぶ」
「俺達がラブラブじゃからやきもちやいてんのか」
「仁王たちなんかみててもやけねーし!」