ちまちま | ナノ
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存在なんだと私は生まれてきて、彼とであった14年間という月日の中で知っていた。友達よりも近い。それは事実ではあるけれど、捉え方を別とするなら遠い存在にもなるのだ。結局、幼馴染なんて肩書きは役に立たなかったりする。とくに、恋愛という面では。小さいときから知っているわけだから、お互いのことをお互いがよくわかっている。だから、信頼関係なんてその周りの誰よりも篤いのだ。だから、軽口だって、言い合える。それもきっとお互いがお互いを理解しているからなんだろう。

「あれ、光今日彼女さんとデートなんちゃうん?」
「は?彼女?デートってなんやねん」
「この前一緒におった子、彼女なんやろ?」
「いやちゃうし。…まぁ約束はしてたけど」
「じゃあ何でまだここにおるんかな光君は」

今思い出しましたとでも言いたげな顔で私と目を合わせる。私の部屋で雑誌を悠長に捲っている光は、確かに昨日、明日(今はもう“今日”になるが)出かけるといっていた。クラスで割りと仲のいい子らしい。謙也先輩が教えてくれた(ニヤニヤしてたなあ、あの時の先輩)
雑誌をその辺に放り投げてポケットから携帯を取り出す。彼女さん(正しくは女友達)にメールを入れているようだ。どうやら光は本当に約束を忘れていたらしい。私との約束は忘れた事が無いのに、そこは幼馴染の特権というやつか。

「めんどいし。ちゅうか約束いうてもあっちが勝手に決めただけや」

テーブルの上においてあったオレンジジュースを一口飲んで、「なんや思い出したら行く気失せたわ」、何事も無いような口調で言いのけた。行く気失せたというか、端からその気なんて無かったんじゃないのか?だから忘れたんじゃないか、とは口にせず、私もテーブルに置いてあったオレンジジュースを口に含んだ(勿論私の分のもの)

「うわ、それめっちゃ失礼」
「どっちがやねん。俺が行く前提で話し進めとる方が失礼やろ」
「ドタキャンとかないわー」
「俺やっぱ自分とおんのがいっちゃん好きや」

この一言に内心私の胸は躍った。だけど決して表には出さない。彼は私を好きという意味で言ったんじゃない。私といるのは気を遣わなくて楽だ…という意味、だから。だから、変に期待をしちゃいけない。傷付くのは目に見えている。そして傷付くのが私だと言う事も私は知っている。幼馴染とはそんなもんだ。一方はただの幼馴染としか見ていないパターンがほとんどなのだ。もちろんそのパターンで言う“ただの幼馴染としか”のくだりに当てはまるのは光だ。私は逆で、ただの幼馴染なんかじゃなくて、彼が、好きなのだ。きっと彼は私を好きだろう。それはあくまで幼馴染としてのすきで、私がいう好きじゃあない。悲しいことに。 幼馴染、その肩書きと、距離に満たされていたのは光を好きと自覚するまでで、好きだと解ってからは疎ましい肩書きだった。簡単に言ってしまえば私の片思いだった。しかもこれよく漫画であるパターン。近いから、言えない。この距離に結局は満たされているのだ。この関係を壊したくない。誰よりも近いこのポジションを退きたくない。だから、

「私も光がいっちゃん好きやで」
「俺もー」

軽口以外では絶対に好きだなんて言えない。誰かにこの距離を奪われたくない。みんな知らない光の一面なんて私だけが知っていればいいんだ。誰も彼を理解しなくていい。私が彼を理解してるんだから。光はチラリと私を見たけれど、また携帯を弄りだした。(「返事きた?」「んー。きても別にどうもせえへんしええねんけど」)

「なーんか、最近そんなんばっかだよねぇ」
「同じこと言い合ってるよな」

折りたたみ式の携帯をパカっと閉じるとそのまま無造作にテーブルの上へ置いた。

「だって光が、いつも同じこと言いよるからやん」
「自分かていつも同じ答え返すやろ」

それは、他にいい返事が見つからないからだ。ボキャブラリーが少ないんだ私は。残念な事に。

「せやかて…しゃあないし」

だって、本当のことを言えないのだから。


「お前さ、俺といて楽しい?」
「は?」
「最近のお前、俺といても楽しそうな顔せえへんやんな」

キツそうな顔ばっかしとる、そう指摘されてドクンと背中が大きく脈打った。

「いつまでも茶化せると思うな」

テニスしてるときの真剣な目が、私を射抜く。打ち返されたボールを睨んでいるときの彼の目に私が映し出されていた。そういう時のコイツは本当に、熱い。気持ちとか目とか、オーラとか。

「…光は、私と一緒に居たないん?私の隣好きなんやろ、…どうして、」

そんな自分から離れるような事言うの?
期待なんてしたくない。もしかしたら光も自分と同じなのかも、だなんて考えたりしない。だって、光は私の幼馴染。友人よりも近くて家族より遠くて、親友でもない、幼馴染?…幼馴染だから、何?

「そうやって、自分の勝手な見解押し付けられんの俺もう充分や」
「………」
「俺かてお前のこと好きや。なんで自分と同じ気持ちやとか考えられへんねん。アホか!」
「光君、それ告ってんの怒ってんのバカにしてんの、どれ」
「全部やアホ!何で俺からこないな事いわなあかんねや」
「(えええ!)」
「もう俺が一番アホやわ…」
「(更にえええええ!)」
「お前の考えなんて、丸分かりやっちゅうねん。何年一緒におる思てんねん」
「(えええ!光君意味解らん)」

やっぱお前が一番アホや。とか溜息吐きながら言って、ふわりと抱きしめられる。何やコレ、私めっちゃアホアホ言われてるんやけど。私、ほんまアホやなぁ…なんてどこか冷静に考えながら、背中に腕を回した。(わー筋肉ついとる)

「光、私のこと好きなん」
「こんな予定ちゃうかってんけど。自分が俺に好き言うまで待ってよおもてたのに。いつまでも言わへんし」
「自分それただのヘタレやん」
「それ次言ったらベッド行きやで」
「スンマセン」


友達以上恋人同等

なんも解ってなかった私と解らせた君



この後部屋に入ってきたオカンに抱き合ってる所を見られ、両家のオカン'sに赤飯を炊かれるのであった。


/とある日のとある空