ちまちま | ナノ
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放課後の屋上は、冬ということもあって寒い。手が悴んで、肌が乾燥するみたいな。寒い寒い。風が通り過ぎる。私は屋上の真ん中で座っていた。寒い寒い。このまま死んでしまいそう。だけど私はここを動かない。動きたくないわけじゃなかった。動けないわけでもなかった。ただ、気分じゃなかった。ここに長く居たい、そんな気分だった。風が強くて。もしここで涙を流したとしても風が連れ去ってくれるんじゃないかと思っていた。馬鹿げた空想。妄想。そうか。全ては妄想だったのかもしれない。
彼が好きだった。その好きさえ妄想の一部だったのかもしれない。嫌い。それも妄想で、好きといわれた時間は本当は夢の中で、振られたのも夢のなか。全ては妄想の中のことだったのだ。起きているにも拘らずみていた夢。…なんてそんなわけないのに。

好きだったのに。好きだったのに。私はまだ好きだったのに。私はまだ、好きなのに。どうしてあいつは好きじゃないの。私じゃだめだったの。どうしてどうして私を好きだと言ったの。今は、好きじゃないの?どうして私以外の女の子が好きなの?私はあいつが一番好きで。私は今もあいつが好きで。どうして好きじゃなくなったの?どうして一番じゃないの?どうしてどうして。好き好き。好きなのに。私を好きじゃないの?ねぇどうして?
冷たくなった身体に暖かい一筋の道が出来る。泣かないで。泣かないで。泣いたって好きだった気持ちを戻す事は出来ない。泣いたって彼の気持ちは返ってこない。いっそう強く風が私を包んだ。このままとばされてったらいいのに。涙も気持ちも私も。

ガチャリとドアが開く。馬鹿。馬鹿。どうしてあいつがきたとか思ってんの。あいつは私なんか好きじゃない。あいつはもう私を好きじゃないと言った。だったら私だって好きじゃなくなってやる。まだ好き。あいつが好き。好きだった。好き。過去形にしたいのに。現在進行形で気持ちが止まらない。

青が覗いた。


「あれ、部活は?」

風で乾いたのか涙は止まってた。好きも止まれ。

「終わったッス」
「…そう」
「先輩どうせだし一緒に帰りません?」
「…私、ここから動ける気分じゃないの」
「なんすかそれ。」
「傷心ちゅーなのー」

突如現れた越前君は、私の顔を見ると驚いたように目を見開いた。そして、少し何かを考えた後、言いにくそうに、というかちょっと照れたように

「…あの、」
「なにー」
「俺の頭、撫でていいっすよ…」

言った。微かに顔に赤みが掛かっている。可愛いなぁ。なのに目は真剣そのものだった。眉間に皺を寄せてるとこなんて普段クールな振る舞いをする彼にしては比較的珍しかった。つーか、なんでよりによって…。

「‥‥ぶっ‥どんな慰め方!」
「だっていつも俺の頭撫でるじゃん」
「だって撫でるの好きなんだもん、ふふ」
「撫でられるのもね。ホラ、もう動けるでしょ」
「はー、笑った笑った!動きたい気分かなー」

「一緒に帰りましょっか」

いやみったらしく笑ってわしゃわしゃと頭を撫でられた。こんなスキンシップ激しい越前君めずらしいぞ。私の髪の毛をすり抜けて頬に伸ばされた掌がとてもとても熱くて、「冷たい」呟く声に耳から脳みその奥、子宮にまで届いた気がした。脳の奥が疼く。私に映った彼はまるで救世主。王子様。この気持ちを、私は知ってる。もう悲しくなんてないよ。もう、寂しくなんてないよ。だって越前君の目が私を映してる。好きが、生まれた気がした。



きっと私は君を好きになる。彼も私を好きと言うの。
そんな予感に胸が高鳴った。