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「‥‥‥」 それでも、ふと、思い出す彼と、彼との思い出を想うとやっぱり好きだと思うんだ。 一人で学校の帰り道歩いてても、ここでイキナリ奴が大阪から遊びきたで!とか現れたんだっけ、とか、ここで話した事、笑った事を思い出す度、好きが溢れるみたいに、彼で一杯に包まれる。随分ロマンチックから離れた言葉を送られたな、と思い出して笑った後に出てきそうになる涙も、全て、"好き"な気持ちだと思う。それは嬉しい事なんだと思う。寂しくないって言ったら嘘だけど、声が私を包むから、恐くないよ。声が気持ちを運んでくれるから。信じてるから。あ、でも、これも嘘になってしまうかも…本当は、優しい彼の声の中に、抱く恐怖がある。離れてる私よりも、近くに居る女の子を好きになってしまったら…気持ちも離れていってしまったら…恐い。信じてる。でも、不安を完全に消し去る事なんて出来ないよ。 はぁ、何だか馬鹿みたいな自分に深く息を吐いた。携帯を取り出して、ディスプレイを眺める。部活、もう終わったかな。たまには私から電話してみようかな。何だか照れるなー…。皆元気にしてるかなー。…会いたいな…。電話帳から蔵ノ介の名前を呼び出す…前に、まさに電話を掛けようとしていた本人からの着信。ディスプレイに出る彼の名前。ワンコール置いて通話ボタンを押して、もしもしと明るい声で出る。寂しさ半減。 「こんばんは。今、話せる?」 「うん!」 蔵ノ介の話の大体は部活の事。疲れてるんだろうなー…。疲れてるのに、私に電話してくれるのが、嬉しい。それに、悲しい。ねぇ、蔵ノ介も不安なの? 「疲れてるでしょ」 「え?…疲れてそうな声してた?」 「だって、部活大変でしょ?」 「そら全国大会に向けて練習は厳しいけど、」 「あのね、だから…無理して私に時間作ってくれなくてもいいんだよ…?」 「イヤやった?」 「嬉しいけど…無理してもらってもウチ嬉ないで?」 「………」 「………」 「………」 「…もしもーし?なんか言うてやー」 「………アカン、可愛いわ」 「はっ? 何が?…今何かしてんの?」 「自分と電話してる。…今ごっつ会いたい」 「え…」 「そんで、力いっぱい抱きしめたいなぁ」 「うん、え?何?どうしたの?」 携帯を両手で抱えて、思わず構える。 「なんや…自分の事好きや思たら嬉しくなってん」 「……?」 すぅ、と息を吸う音がする。 「好ぅーきぃーやぁー」 「っ!、解ったから!」 ニヤケながら叫んだら、伝わったってしまったようで、元気でたみたいで安心したと笑いながら言った彼にまた好きを感じた。安堵の溜息が聞こえて、何だか全部見透かしてたみたいな彼が今本当に近くに居るんじゃないかってくらい自然で、笑った。私よりもずっと、蔵ノ介は大人なのもしれない。 |