S×R 外科医連載 | ナノ


07


ゆらりゆらり、まるで雲の上にでもいるかのような感覚。
瞼は重くて開かないけれど、ピ、ピ、という機械音がなんとなく耳に入ってくるような気がする。
目の前は真っ暗だった。

「……くれぐれも…頼むよ」
「キャプテンに任せておけば…だよ!!」
「…で全部…いいのか?」
「あぁ…」

微かに聞こえるのは、マスターとベポと…あと誰だろうか。
一体彼らは何を話しているのだろう。
自分は、一体どうしたのだろう。
しかしごんべはこれ以上何も考えられなくて、瞼を持ち上げることのないままもう一度、戻りかけた意識を手放した。



* * * * *

ごんべが目を覚ましたのは、それから3日後のことだった。

「………」

重たい瞼を無理矢理持ち上げて最初に見えたのは、見たことのない天井だった。
身体は動かない。
けれどなんだかフワフワと揺れている気がする。
仕方なしに起き上がることは諦めて、眼球だけ動かして辺りの様子を窺ってみれば、どうやら自分の体にはたくさんの管が繋がっているらしい。何故だか脇には刀の柄らしきものもあるようだ。
ピ、ピ、という機械音は夢の中で聞いたような気がしたけれど、目を覚ました今もはっきりと聞こえている。
ということは、あれは夢ではなかったのだろうか。

もう一度、今度はどうにか首だけ動かして周りを見てみる。
ここはどうやら病室のようで、けれど町の小さな病院では見たこともないような機械が沢山置かれていた。
どれもこれも、何に使うのか全く分からないものばかりだ。
そしてもう一度目にとまった、刀の柄。
よくよく見れば、それはトラファルガー・ローがいつも担いでいたあの特徴的な刀に似ているような、いないような。

自分の置かれている状況を今一判断できなくて、ごんべは首を元の角度に戻した。
口に被せてあるマスクのようなものから繋がる管が首を圧迫して、横を向くと少し苦しかったのだ。
もう一度天井を眺めて、目を瞑る。
海賊に追いかけられて、そしてどうなったのか…思い出してしまったそれはあまりにも恐ろしくて、管とは関係なしに息が苦しくなった。
誰かに助けを求めたくて、誰もいないと分かっていながら目を開ける。
しかしごんべの視界に映ったのは、予想していた天井だけではなかった。

「ごんべ!!」
「……、(ベポ?)」

見覚えのあるその白い毛むくじゃらは、ハートの海賊団の白熊の筈だ。
どうして彼がここに、彼らは出航したのでは…と、そうこう考えているうちにベポは何かを叫びながら部屋を飛び出してしまって、一人残されたごんべは動かない頭を働かせようと必死になった。
けれど次に部屋の扉が開いた時に現れた人物の口から発せられた言葉によって、ごんべは自分の置かれた状況を理解することになった。

「ようやく目を覚ましたか」
「(トラファルガー・ロー…)」

丸3日だな、と言って近付いてきたローは、暫くじっとごんべの様子を見たあと部屋中に置いてある機械を逐一チェックしているようだった。

「何があったのかは、覚えているな」
「……は、い」

何とか絞り出した声は掠れていて、よく聞き取れなかったのか機械を弄りながら視線だけ寄越してきたローに向かって小さく頷く。
正直思い出したくはなくて眉間に皺が寄ったが、ローはそんなこと気にしてはいないようだった。

「お前はアレで瀕死の重傷を負った」
「……」
「町の病院じゃ処置しきれねェ上に、別の町に移送したとしてもその途中でお前は死んでた」

正直なところ、今こうして生きているのに一番驚いたのは自分なのだから彼の言い分には納得だった。
あれだけの怪我を負わされて、きっとたくさん血も流して、実際一度は死を覚悟した。
怖くて恐くて泣き叫びたかったけれど、それすら出来ないほど苦しかったのだ。
だから、彼の言い分には納得だった、のだけれど。

「お前を助けるにはこの船の設備を使うしかなかった。だがおれ達はログが溜まる前に出航しなきゃならねェ。ついでにあの騒ぎで町に海軍が近付いて来やがった」

ここまで言えば、もう分かるだろ。
ローのその言葉に、ごんべは目を見開いた。
目が覚めたばかりで霞んだ頭でも、考えなくとも分かるくらい簡単な話だった。
それはつまり、微かに感じるこの揺れは気のせいなんかじゃないということ。

「ここは、海の上だ」

助かったことを喜ぶべきなのか、感謝するべきなのか、海賊船に乗ってしまったことを憂うべきなのか。
ニヤリと口端を持ち上げたローの顔を見て、どれが正解なのかさっぱり分からなくなってしまった。



……あぁ、なんだか頭痛が。



(20110416)

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