S×R 外科医連載 | ナノ


03


海賊と追いかけっこをした日から2週間ほどが経っただろうか。
もともとこの島は、海賊船と言えば何らかの理由で航路を逸れた船しかやってこないような場所にあるからこの2週間は平和そのものだった。
今日も穏やかな日で、しかしもう冬はすぐそこまで来ているため、少しだけ肌寒い。
そんな晴れた午後のことだった。町と山の際にある、島の入り江に大きな海賊船が姿を現したのは。

「へぇ…珍しいな、この島に億越えの賞金首が来るとは」
「マスター、あの海賊って有名なの?」
「有名といえば有名なんじゃないか?」

食材の買い出しに来ていた港通りの魚屋で、遠くに見える海賊船のジョリーロジャーを見たごんべとマスター。
あのジョリーロジャーは、ついこの間も新聞を賑わせたルーキーのもんだろう。
マスターの言葉に、肩に担いだ尋常ではない量の食材を落とさないよう気を配りながら遠くに揺らめく海賊船のマークに目を凝らす。
なるほどそれはつい先日新聞で見たような見なかったような、少し覚えのあるマークだった。

「あれって…」
「“死の外科医”だと思うぞ」

あぁそういえばそんなのもいたっけか、と、朧気な記憶を辿る。
確か“死の外科医”といえば、顔こそ浮かばないが残忍残酷で知られるルーキーの一人だ。
新聞を読む限り順調に航路を進んでいるように思えたが、その海賊船がなんでまたこんな辺鄙なところにやってきたのだろう。
しかし素人がいくら考えてもその答えは出るものではないから、まぁそういうこともあるだろうと深くは考えずに、ごんべはマスターと共に買い出しに専念することにした。



その日の夜のことだった。
ハートの海賊団が、ごんべの職場に姿を現したのは。

「(まぁ…うん、そりゃ来るよね)」

ここはこの町唯一の酒場、彼らは海賊。
となればその二つが図らずも結びつくのは容易に想像できたことで、ごんべは特に驚きもせず彼らを迎え入れた。
むしろ、驚いていたのは彼らの方かもしれない。

「「「えぇ!!?」」」
「うそ、女の子!?」

それもその筈。
補充の酒樽を店内に運ぼうとしていたごんべとクルー達が、入口の前ではち合わせたのだ。
しかもただ運んでいるのではなく、大の男が台車に乗せて運ぶような大樽を女の子が一人で(しかも何の苦もなく素手で肩に)担いでいるのだからそりゃ誰が見ても驚くだろう。
ハートの海賊団のクルー達も例外ではなく、一度は「邪魔するぜー」とスルーしたかのように見えたがそれはもう見事なノリツッコミを入れて下さった。

「いらっしゃいませー」
「あぁ、え?いや、それ…」
「安心して下さいねーまだまだありますから」
「そりゃ良かった…じゃなくでだな」
「お、女の子が酒樽担いでるよ…」
「……」
「な、何?どうしたの?」
「…熊!!!」
「熊が喋ってすいません…」

まるでコントのようだと内心思ったが、何故か落ち込んでしまった熊を流れで慰めつつ店に入る。
今日は海賊が来ているとあって町の人は店内には誰一人としていなくて、完全に彼らの貸し切り状態だ。
お好きな席にどうぞと案内もそこそこに、既に忙しく動いているマスターに指示された通り、ごんべはさらに酒樽を補充するため店の裏に向かった。

「……あ、」
「……」

そうして次の酒樽を担ぎ上げてもう一度店内に入ろうとした時だった、もう集まりきったと思っていた海賊団の一員と思しき青年がやってきたのは。
他の皆は揃いのつなぎを着ていたけれど、その青年だけはパーカーにジーンズ、そしてふわふわした帽子という出で立ちで、けれどそのパーカーの胸にあるマークが同じだったから仲間の一人だと分かったのだが。

「皆さんもう中にいますよ」
「……」
「?どうぞ?」
「……あぁ」

青年はしばし、異常なまでに濃い隈のある目を見開いてごんべを凝視していたが、空いている方の手で店の扉を開けるとようやく気がついたように頷いて店内に足を踏み入れた。
きっと、彼もまた見慣れない光景に驚いただけだろうと特に気にすることもなく、ごんべも続いて店に入り扉を閉めて今度はカウンターの中へ向かった。

「御苦労さま」
「他に運ぶものはないですか?」
「今の所は大丈夫だよ」
「じゃこっち手伝います」

最後にやってきた青年は、先程の熊達のいるカウンター席に腰を落ち着けたようだ。
マスターの手伝いで料理の仕上げをしながらそこで繰り広げられる会話を耳にしてようやく、ごんべは彼の正体に気付くことになる。

「遅かったねキャプテン」
「あぁ、途中に珍しいもんがあったからな」
「キャプテンのことだからどうせ本か薬草だろ?」
「…帰りの荷物持ちは決定したな」
「そんな殺生な!!!」

どうやら彼が、このハートの海賊団の船長らしい。
手配書で顔を確認したわけではなかったから気付かなかったが、言われてみれば何処となく漂うオーラが違う、様な気がする。
だからといって、こうして普通に酒を飲みに来ている分にはどうこうしようという気はないごんべは、海賊たちの会話を楽しむマスターの横でただ黙々と料理の仕上げに取り組んでいた。



(20110412)

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