S×R 外科医連載 | ナノ


02


ごんべ一人に見事にやられた海賊団にしては些か堂々としすぎたと思うのだが、港に辿り着いて真っ先に目に入ったのは見たことのない船…男達が乗ってきたであろう海賊船だった。
その甲板に狙いを定めて、首根っこを掴んでいた大の男二人をぽいと投げ入れる。
ゴスッ、という鈍い音とともに「うゲッ」と唸るような声が聞こえたような気もするがさして気に留めることもなく、何事もなかったかのようにスタスタと来た道を戻ってきた。
彼等も暫くは動けないだろうし、あとはそのうちやってくる海軍に任せておけばいい。

「御苦労さま、ごんべ」
「そう思うんなら早いとこ海軍に連絡取ってくれればいいのに」
「ははは、必要なかっただろう?」
「…む」

職場でもある酒場に戻ってくれば、マスターが一息入れなよ、とジュースを差し出してくれた。
走りっぱなしで喉も渇いていたしありがたく受け取って、一気に煽る。
冷たいそれが身体の中に流れ込んでくる感覚に、なんだか生き返る様な気分だった。

そもそも何故真っ昼間から海賊と追いかけっこをする羽目になったかと言えば、海賊たちがまだ開店もしていないこの店に押し掛けてくるなり、やれ酒を出せやれ相手しろよお嬢ちゃんだのと突っかかってきたのが始まりだった。
グランドラインにある島なのだから海賊がくることを想定していないわけではないが、皆が皆良心的に節度を弁えた海賊であればどんなにか良いだろう。
実際この店にやってくる海賊も半分以上は普通に金を払って酒を飲みに来るだけなので(少々賑やかではあるが)、そんな時は普通に接客するだけなのだ。大量にお酒を飲むぶん、たいそうな金額を落としてくれる“お客さん”として。
けれどたまーにやってくるのが、今回のような店を壊す勢いで乗り込んでくる輩。
そんな時は、相手の実力を見極めてごんべが追い払うか島の反対側の町にある海軍支部に連絡を取って応援を呼ぶか、それがこの町の常だった。
ごんべ自身、好き好んでこうなった訳ではないのだがこの町が大好きだったから、我が物顔で町を荒らす海賊はどうしても許せなかった。
幸い見た目だけはごく普通のか弱い女の子(自分で言うのも鳥肌ものだが)だから、相手の油断を誘えば簡単に伸すことができる。
この島は7つの航路からほんの少し逸れた場所にあって、山を挟んで2つある町のうち、大きな島から見て山を挟んだ反対側にあるこの町は酒場もここ一つしかないような小さな町だから、やってくる海賊もそれほど凶悪なものはいない。
ついでに下衆なことをする海賊なんて、大したことないのが殆どだ。
だからこその、行動なのだ。

「大した首じゃなかっただろう?」
「ちょっとは手伝ってくれてもいいのに」
「それじゃつまらないだろう」
「面白くする意味もないと思います!!」

ついでにこの酒場のマスターはそこそこ名の知れた元海賊だから(しかしどういうトリックを使っているのか、この人が海軍に追い掛けられるところは見たことがない)、少し安心して暴れられる、というのもあった。
後ろ盾があるのとないのとでは、暴れる側としては心持が随分変わってくるものだ。

「はは、まぁ良いじゃないか」
「またそうやって!!」
「さて、そろそろ開店しようか」
「話を逸らさないでくださいってば」

今日もまたひと騒動あって、それでもいつもと同じように酒場は営業を始める。
ジュースを飲み終わったごんべもカウンターの中に入り、いそいそと準備を始めるのだった。



(20110412)

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