S×R 外科医連載 | ナノ


19


「つまらねぇ」
「そ、そう…ですか…ッ!?」

ローの目の前で地に伏せてピクリとも動かなくなったのは、コートを地に落とした中佐。
大分向こうの方でベッドの下敷きになって重なっているのは、数人の海兵。
ローは静かに刀を鞘に戻すと、そのまま肩に持っていきトントン、と退屈そうに動かしている。
そんなローの隣でただ一人ぜぇはぁと息を荒げているのは、ごんべだった。

「私は…結構、疲れ、ました…」

ほぼ半日緊張したまま走り続けて、その疲れが完全に癒えぬまま海兵に思いっきりベッドを投げて、ついでと言わんばかりに小屋の中にあったものを手当たり次第に身体がごちゃごちゃになって喚いている海兵たちにまで投げ飛ばしていたものだから、発する言葉は途切れ途切れだ。
なるべく大きく呼吸をしながら、膝に手を置いて息を整える。

「このくらいでへばるな」
「無茶言わないで、下さいよ…」

これでも足手纏いにだけはならないように必死だったのだ、と抗議の視線を向ければ、ローは意地悪そうにニヤリと笑うとぐしゃりとごんべの頭を掻き混ぜた。

「船に戻るぞ」
「…はい!!」

船に、戻る。
自分で歩けよ、なんて言葉はちょっと辛辣だけれど、それでもその言葉が凄く嬉しくて。
ごんべは疲れ切っていることなんて忘れてかのように、さっさと歩きだしたローの背中を追いかけた。

「「「元に戻せぇぇぇぇ!!!」」」

背後に、ブツ切りにされた身体をどうにか元に戻そうと必死になっている海兵たちの涙声を聞きながら。



* * * * * * *

「遅かったねキャプテン」
「こっちは問題…なかったようだな」

ゆっくりと、のんびりと。
何を話すでもなく、それでも“仲間”という形に関係の変わった二人の時間を楽しむかのように時間を掛けて船に戻ると、二人を真っ先に出迎えたのはベポだった。
他のクルー達も、甲板から身を乗り出して待っていたようだが、ベポだけは待ちきれないとでも言うように船から降りていたらしい。

「海軍が来たけど、もう全部片付けたよ」
「奴らおれ達を舐めてるとしか思えなかったっすよ、全く」
「下っ端が何人集まったところで敵じゃないからなぁ!!」

甲板からも、クルー達の声が響く。
海軍に襲われたというのに、どうしてこうも元気なんだろう。
その姿はどこか楽しそうで、ごんべは彼らを見上げて思わず苦笑してしまった。

けれどペンギン達数人が甲板から降りて来てローと話をしている間、ごんべは一歩下がったところでどうしようかと迷っていた。
一度は船を降りたのに、こうしてまた戻って来てしまった。
皆が受け入れてくれるかどうか、分からない。
受け入れてもらえる自信が、ない。

「ごんべ!!」
「ぅわぷッ」

そうして徐々に下がる視線が、自分の爪先を捉えた時。
突然の衝撃がごんべを襲った。

「べ、ベポ…!?」

ばふっと目の前がオレンジ色に覆われて、異様なまでの温かさに包み込まれる。
ぎゅうぎゅうと締めつけてくるそれは、間違いなくベポだった。

「無事だったんだねごんべ!!良かった!!」
「ベポ、く、苦し…ッッ」

思いっきり抱き締められて、ぐりぐりと頭を擦り付けられる。
余りにも激しいその抱擁でついにはごんべの足が宙に浮いて、嬉しいけれど息が詰まる、そう呻いた時にようやく解放された。

「良く逃げ切ったな、お前」

うわぁ、思わず力が…すいません…と落ち込むベポに大丈夫大丈夫と声を掛ければ、すぐ傍から、ついさっきまでローと話していた筈の声。
顔を上げたごんべの目には穏やかな表情を浮かべたペンギンが立っていて、それと同時に聞こえた声に船を見上げれば甲板のクルー達がごんべを呼んでいた。

「よく戻ったな、ごんべ!!」
「ハートの海賊団にようこそ!!…ってアレ?違う?」
「馬鹿、違くはねェけどなんか違うだろ」

じんわりと、目頭が熱くなってくる。
受け入れてもらえるのかな、なんて、心配していた自分が馬鹿らしく思えてきた。

「おかえりごんべ!!」

立ち直ったベポが、そう言ってもう一度ごんべに抱きつく。
次に解放されたときに目に入ったのは、少し離れたところからごんべをみているローの姿だった。
“早く、来い”
声は聞こえなかったけれど、ローの口が動く。
その表情は、いつもみたいにニヤリと笑っているけれどいつもみたいに意地悪ではなくて。

「これから、よろしくお願いします!!……ただいま!!」

ごんべは溢れそうになる涙を堪えて、今の自分にできる精一杯の笑顔を浮かべた。



(今日から私、海賊になります!!)




(20110802)

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