S×R 外科医連載 | ナノ


01


魚人は通常生まれながらにして、人間の10倍の腕力を持っているという。
しかし時には、それに匹敵する力を持っている人間もいるものだ。
鍛錬してその力を得た者、悪魔の実の能力によってそれを可能とする者。
…そして、何の因果か生まれつきそんな馬鹿力を持ってしまった者。



「だぁぁぁぁああぁあっもう!!しつっこい!!!」
「へぶぅッ!!!」

ここはグランドライン上のとある春島、季節は秋だ。清々しい青空に涼やかな風は非常に心地がいい。
けれど現在進行形でその大通りを猛ダッシュするごんべには、そんな好条件にのんびりと深呼吸をしている余裕はなかった。
後ろから、いかにも柄の悪い海賊ですよーといった風体の男達が追いかけてきているのだ。
しかもただアハハウフフな追いかけっこをしているわけではない。
たった今、思いっきり振り被った拳によって、その追っ手の人数を一人減らしたところだ。

「テメェよくも!!」
「うるさい!!アンタ達がちょっかい掛けてきたのが悪い!!!」
「ぐおぉッッ」
「「ジョニィィィイ!!!!!」」

振り向きざまに、また一人。
こうして最初は7人ほどいた追っ手も今や2人になったわけである。
彼らが走り去った後には、身体のどこかしらを抑えて呻く男がぽつりぽつりと転がっているのだ。

「よぉごんべちゃん、またやってるのかい?」
「こんにちはおじさん!!今忙しいから後でね!!!」
「今日も元気ねぇ」
「お姉さんは今日も色っぽいね!!」
「あらやだごんべちゃんたら」

物騒な男達に追いかけられながら走る大通りに面した店や家から、次々に声がかかる。
そのどれもが非常にのんびりとしていて、一人の女の子の後ろから刃物を振り回した男たち(といってももう2人しかいないが)が追いかけてきているのを全く気にしていない様子だった。
ごんべはごんべで、声をかけてくる町の人達に悠長に手を振りながら駆け抜ける。
のんびりと深呼吸をしている余裕こそないが、笑顔を振りまく余裕くらいはあるのだ。
それでも流石に、延々と走り続けるのに成人しきっていない体力では限界があって、ここにきて走るスピードが微かに落ちてしまう。
それを好機と見たのか、後ろの二人組はニタリと笑ってスピードを上げてきた。

「ここまでのようだな!!」
「海賊ナメてっと痛い目に合うぜこのガキ!!」

男達は勝ち誇ったような笑みを浮かべながら、もうすぐで剣が届く距離まで追いついてきた。
追いかけっこもここまでかと観念し、仕方なしに足を止めて振り返る。
そのことで勝利を確信した男たちは、したり顔のまま同時に大きく剣を振りかぶった。

「おれ達に逆らったこと後悔させてや…え?」

しかしその剣が振り下ろされる瞬間、地を蹴ったごんべの姿は男たちの視界から消えた。
剣は空しく空を切って地面に当たる。
そして男たちが体勢を立て直そうと腕を持ち上げた、その瞬間。

「うごっ!!」
「ぐはっ!!!」
「油断は禁物だよ、オニーサン」

ひゅん、と風を切る音をたてて、ごんべは男たちの腹部に渾身の力を込めた拳を食い込ませた。
その勢いに、大の男の身体が後方に吹っ飛ぶのは圧巻である。

「相変わらず見事なもんだねぇ」
「ごんべがいる限りこの町じゃ海軍も用無しだな!!」

町の人々の陽気に笑う声を背に受け、ふぅ、と一つ溜息を吐きパンパンと手を叩いてから、白目を剥いて倒れる男2人に歩み寄った。

「これからは人を見かけで判断しちゃだめだよ、お兄さん達」

そしてそのまま、気絶して動かなくなった二人の男の首根っこを掴んで何の苦もなく…軽々と、港まで引き摺って行った。



彼女の名はごんべ。
この町で生まれこの町で育った、ごく普通の人間の女の子。
職場は町の酒場、両親はいない。
得意なのは泳ぐことと走ることと、喧嘩(無論、肉弾戦)。



そして彼女は、超がつくほどの怪力の持ち主である。




(20110412)
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実はずっと書きたかった外科医連載。
ちなみにジョニィは語呂が良かったから選んだだけで、某賞金稼ぎさんとは何の関係もございません(笑)

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