S×R 外科医連載 | ナノ


16


ごんべは、ぐるりと町を囲むように広がっていた森の中を走り、海兵の目にとまることなく海の近くに出ることに成功していた。

「(ここ、船を泊めたのとは…町の反対側かな)」

町の影を見失わないよう、森と町との境界線から付かず離れずの距離を走り続けた。
ようやく差し掛かった森の端には、今は使われていない小屋があった。
昔、漁師か誰かが使っていた小屋だろうか。

「(もうすぐ、夜かぁ…)」

完全に夜が更けても、海兵の探索は続くのだろうか。
海ならばいざ知らず、ここは陸地だ。
諦めずに今でも探し続けている可能性は否定できない。

けれどとりあえず、この廃れた小屋にお邪魔させてもらうことにしようとごんべは蝶番の錆ついた扉を少々無理矢理開けてみた。
途端、鼻をつくのは黴臭い匂いだ。
けれどここなら完全に開けた場所にあるわけでもなし、最悪森の中で夜を明かすことまで考えていたのだからそれよりは幾分マシだろうと、ギシリと不穏な音を立てる床を踏みしめて中に入った。

「このまま見つからなければ、諦めてくれたり…しないかなぁ」

既に森の中を走り回って汚れていたから、床の埃を気にすることもなく小屋の隅に座り込んで縮こまる。
もしここにいて見つかってしまったら、なんて考えることはしなかった。
ここまできたら、その時はその時。
今は走り続けて消耗した体力を、少しでも回復させなければ。

「(流石に、眠れないけど…)」

抱え込んだ膝に、額を押し当てて小さくなる。
そういえば、なんでこんなに必死になって逃げているんだろうと。
乾いた笑いが零れた、その時だった。

……―ザ、

ごんべは微かに聞こえた足音に勢いよく顔を上げた。

「(…やばい)」

いつでも走り出せるよう、体勢を整えて耳を澄ます。
やっぱり海兵は、諦めていなかったのか。
本当に微かにしか聞こえない足音が、段々と近付いてくる。
ごんべは自分の心臓がバクバクと脈打つのを感じた。
呼吸も、極度の緊張から僅かに荒くなる。

出入り口は、一つ。
囲まれていたら、終わりかもしれない。
けれど一瞬でも不意をつければあるいは、そう思って、ごんべはすぐにでも飛び出せる体勢のままなるべく小さく身を潜めた。

ざっ……――

足音が、小屋の前で止まった。
心臓の音がやけに五月蠅い。
でもそんな時でも、頭をよぎるのは何故か。降りた船のクルー達のことだった。

「(…皆は、大丈夫なんだよね…)」

彼らは、強い。
なんたって彼らは、新聞を賑わすハートの海賊団なのだ。
そしてその船には、あの人がいる。

「(結局、最後に挨拶もできなかったなぁ…)」

ギギ、と。
ごんべが無理矢理開けた時と同じような悲鳴を上げて、錆ついた扉が開く。
けれど月明かりを背に立っていたのは、揃いの制服を着た海兵たちではなくて。

「……なん、で」
「こんな所に居やがったか…随分と船から離れやがって」

いつものように長い刀を肩にひっかけて、気だるそうにしている。
トラファルガー・ローその人だった。



(20110511)

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