S×R 外科医連載 | ナノ


14


ハートの海賊団の船を降りたごんべは、既に日が傾き始めている中この島唯一の町を歩いていた。
船は町の港から離れた島の入り江に停泊していたため、ここまで来るのにも結構歩いた気がする。
よっこらせ、と鞄を背負い直して、ごんべは宿を探すべく道行く人に尋ね歩いた。
ここまでに得た情報を総合すると、町の5丁目にある宿が船からも遠くて良い感じだ。
1、2丁目に集中している問屋街や市場からもそれなりに距離があるから丁度いいだろう。
とりあえずそこに向かうことに決めて、コーヒーショップの店員に宿の詳しい場所を教えてもらったごんべは再び歩き出した。

「(ここ、海軍の駐屯地でもあるのかな…)」

ここまで歩いてきてそれらしき建物は見当たらなかったが、そういえばやたらと海兵が多いような。
ようやっと3丁目に入ったところで、ごんべはこの町に海兵の制服姿が目立つことに気がついた。
ハートの海賊団は、大丈夫なんだろうか。
ふとそんな考えが浮かんで、ごんべは慌てて頭を振る。
もう、あの船は降りたのだ。
自分は海賊でも何でもない、この先の海へ向かう彼らと自分とに、もう関係はないのだ。
けれどどんなに自分に言い聞かせても、どうしても気になってしまって。

「あの、すみません」

それとなく、探ってみようと思ってしまった。
聞くだけ聞いて、何でもないならそれでいい。
そうして海賊には見えない自信があるからと(なんせ何もしなければ見た目だけはか弱い女の子なのだ)、たまたま擦れ違おうとした海兵に声を掛けてしまったのが間違いだった…のかもしれない。

「ん?この町の子かい?」
「いえ、親戚に会いに来たんですけど道に迷ってしまって。5丁目ってどっちですか?」
「5丁目…確かあっちだったかな?悪いね、この島は支部の管轄内だけどおれも来るのは初めてで」
「そうですか…何かあったんですか?」
「ただの巡察だったんだけどね…君も気をつけた方がいい」

凶悪な海賊がやって来ているから。
海兵の言葉で、おそらくハートの海賊団が来ていることがばれているんだろうと察する。
もしかしたら他の海賊団かもしれないけれど、ハートのクルー達はそんなことは言っていなかったし、おそらくは。
出来れば何事もなく出航して欲しい…考えはしたけれど、自分には彼らの無事を祈る以外どうすることもできない。
だから恐いですね、早いとこ親戚の家を見つけて閉じこもっときますと告げて、その場から立ち去ろうとした。
したのだけれど。

「おい、待て!!」
「え!?」
「何事ですか?」

先程とは別の海兵が急ぎ足で近付いてきて、険しい形相でごんべの右腕を掴んだのだ。
ごんべと話していた海兵も、突然の出来事に目を見開いている。
ギリギリと締めあげられる腕の痛みに力ずくで振り解いて逃げようかと迷いはしたものの、次に海兵の口から発せられた言葉でごんべの思考は完全に静止した。

「間違いない、報告にあった女と特徴が一致する」
「一体何があったんです?」
「島の住人から、ハートの海賊団の船から女が一人降りるのを見たという情報が入った」
「この子が…」
「軍艦にて尋問する。中佐より命令だ」

尋、問……?

「ちょ、ちょっと待って下さい!!」
「黙れ、海賊風情が口答えをするな!!」
「そん…っ私は海賊じゃ…!!」

そんな馬鹿な。
ごんべの主張も空しく、容赦ない力で引っ張られる右腕が悲鳴を上げる。
海賊船から降りてきたから海賊だと、そう決めてかかっている海兵は聞く耳を持とうともしない。
人の良さそうだったもう一人の海兵も、話を聞いてからはごんべに刺すような視線を向けていた。
逃げるべきか、このまま連れていかれて事情を説明するべきか。
逃げれば自分が海賊だと認めるようなものだし、付いて行ったところで自分の言い分を信じてもらえる保証はない…それどころか、相手はあのトラファルガー・ローなのだ、とある事情で助けてもらって怪我を治療してもらっただけですと言ったところで信じてもらえる可能性は限りなく低いだろう。
それならば、どちらを選ぶべきか。

「(こうなったら…!!)」

けれどそれ以上考えることはやめて、ごんべはすぐさま行動に移した。
とにかく、逃げよう。
傷跡が痛みだしたのには目を瞑って、自分の右腕を拘束している海兵を渾身の力を込めて引き倒す。
倒れた拍子に腕が自由になったのを確認したごんべは、強かに背中を打ち付けて息を詰めた海兵と驚いて動きを止めた海兵を一瞥することなく、一目散に港とは反対の方向に向かって駆け出した。

「くそッ、応援を呼べ!!」

背後で、悔しそうな海兵の声が木霊する。
逃げ出すことを決意した時もこうして走っている今も、“このまま付いて行って情報を売る”という考えは露ほども浮かんでは来なかった。



(20110506)

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