13
「ごんべ、本当に降りるの?」
甲板から降ろされた梯子の前に立つ。
後ろにはすっかり仲良くなったベポにシャチ、ペンギンをはじめとしたクルー達が揃っていて、けれどそこに船長の姿はなかった。
「うん。今までありがとう」
目が覚めた時ごんべは船長室のベッドに寝かされていたが、そこにローはいなかった。
その後すぐに荷造りをして、ここにいる。
話を聞き付けたクルー達は眉を下げて声を掛けてくれたけれど、結局ローと顔を合わせることはなかった。
重たい(あくまで常人には重たいはずの、である)鞄を背負い直して、世話になった人達に感謝を伝える。
一緒に過ごした時間がそれなりに長かった分、別れは辛いし名残惜しい。
けれど海賊になる覚悟が出来ていない自分が、ここに残ることはできない。
なんとなく海賊船に乗り続けるくらいなら、このまま放浪の旅に出た方がマシだ。
零れそうになる涙を堪えて、ごんべはもう一度クルーに手を振って梯子に手を掛けた。
「…まずは、宿を探さないと」
なるべく、海賊団の船が停泊している場所から遠い方がいい。
ごんべは梯子を降りてからは、一度も振り返らなかった。
小さく、「ごんべ…」と自分の名前を呼ぶベポの声が聞こえたけれど、それでも振り返らなかった。
* * * * *
「船長、ついさっきごんべが船を降りましたよ」
「知ってる」
ペンギンはごんべを見送った後、一人船の後甲板にやってきた。
予想通りそこにはローの姿があって、木箱を背もたれに座るその表情からは相変わらず感情は読み取れなった。
「最後、あいつのこと捌いてないでしょう」
「さァな」
くつくつと喉の奥で笑って、ローが立ち上がる。
しかし、ペンギンにはこれが肯定の意を表していることは分かった。
「ログは」
「明日の朝には」
「なら今日中に物資の補給を済ませろ。朝一で出航する」
「…了解」
全く、この人は。
出かかった言葉を飲み込んで、ペンギンもまた先に船内への扉をくぐったローに続いて後甲板をあとにする。
ローの指示を、クルー達に伝えなければ。
「あぁそういえば」
「あ?」
でもその前に、と。思い出したようにペンギンは声を発した。
「この島に、海軍本部の軍艦が停泊してるとか何とか」
あと半日くらいなら、この船は問題ない。
相手は一隻なのだから最悪潜れば逃げ切れる自信はあるし、中佐大佐程度ならよっぽど相性が悪くない限りこの船長なら戦っても勝てるだろう。
いつもならば、不敵に笑って即座に「問題ねェな」と返ってくるところだ。
「……そうか」
しかし、ローから返ってきたのは一瞬の沈黙といつもとは違った言葉で。
全く、この人は。
もう一度出かかった言葉を飲み込んで、船長室ではなく甲板に向かおうとするローの後姿を見たペンギンは今度こそ苦笑した。
(20110503)
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