S×R 不死鳥連載 | ナノ


貴方が近くまた遠いのは何故でしょう


オリヴィアさん達の部屋に寝泊まりするようになって1週間。
昼間は相変わらずマルコさんを追いかけて、エースさんと遊んで、サッチさんから美味しいご飯をもらって。
夜だけ人の姿に戻ってオリヴィアさん達と話をしたり、着せ替え人形になってみたり。
何事もなく、平穏で、それでいて今までとは少し違った日々。

私はこのたった一週間で、長い間捨て去っていた“人”でいることの感覚を取り戻し始めていた。

初めは寝る直前にオリヴィアさん達の部屋にお邪魔して、ほんのちょっとお喋りをしてすぐに眠りについていた。
けれど次の日にはお喋りの時間が長くなって、また次の日には部屋にお邪魔する時間が早くなって。
少しずつ人として過ごす時間が長くなって、昨日は夕御飯を貰ってすぐ、秘密の寝床に移動してしまった。

そして今日、私はオリヴィアさん達の部屋に向かう途中で、あろうことかマルコさんに捕まってしまったのだ。

「いつも夜はどこにいるのかと思ったら……ナース達の部屋に行ってたのかよい?」

このまま真っ直ぐ進めば、この先にはクルー達のいる空間とナース達の居住空間を隔てる扉がある。
更に言うなら、この先にはそれだけしかない。
つまりその方向に向かって歩いていた私を後ろから呼びとめたマルコさんが私の行き先を推測することはとっても簡単で、それ以外に正解はないのだ。

「……ワン」
「怒っちゃいねェよい」

首の後ろに手をやりながら苦笑いしたマルコさんの姿を見て、後ろめたい筈なのに尻尾がパサパサと揺れてしまう。
こんな時でも嬉しいのは、犬である私の仕草や表情を見てマルコさんが私の言いたいことを分かってくれるってことだ。

「ちょっと付いて来い」

本当はこのままオリヴィアさん達の所へ向かうつもりでいたけれど、やっぱりマルコさんは私にとって特別で、そんなマルコさんに手招かれてしまったら付いて行く以外に選択肢はない。
素直に尻尾を振りながらUターンして隣に並んだ私を満足げに見下ろして、マルコさんはゆっくりと歩き出した。



昼間何度も入ったことのある部屋は、初めて足を踏み入れる夜も相変わらずだった。
違うところと言えば、自然光が入らない代わりにランプの明かりが頼りなく部屋を照らしているということだけ。
こんな時間にマルコさんの部屋に入るのは、初めてだった。

ちょっと待ってろよい、そう言って机の方に向かったマルコさんを横目に、私はこの部屋に来た時の定位置についた。
ここはベッドの脇で、この部屋にいる時は机に座っていることの多いマルコさんの背中を眺めていられる特等席なのだ。
いつも昼間そうしているように、特等席に前足を組んで伏せる。
そうしてマルコさんの背中を見上げたら、彼はすぐにこちらを向いて近付いてきた。

マルコさんは右手に何かを持ったまま、ベッドの縁に腰かける。
そのまま左手をちょいちょいと動かして私を呼んだから、私はマルコさんのすぐ足もとにお座りをした。

「本当はこんなもんいらないかもしれねェけどよい……」

私の首に回ったマルコさんの大きな手、に、握られたもの。
視界の端に映ったそれは海の色をしていて、何やら模様が描いてあるみたいだった。

これで、お前が何処の犬か一目でわかるだろい。
その一言で、さっきチラリと見えた模様が白ひげのマークだと分かる。
マルコさんの手で私の首に付けられたのは、とても綺麗な青い首輪だった。

オリヴィアさん達の前で、“人”である感覚を取り戻し始めた矢先。
首輪なんて飼い犬の象徴でしかないようなものだけれど、それでもやっぱりマルコさんから与えられたもの、というだけで私はどうしようもなく嬉しかった。

尻尾をパタパタと振って、マルコさんの膝の上に顎を乗せる。
そうすればマルコさんはわしわしと頭を撫ぜてくれて、暫くの間、私はその幸せに浸ることができた。



貴方が近くまた遠いのは何故でしょう

深夜、マルコさんが眠るベッドの足もとで横になっていた私はなるべく音をたてないようにドアを開けて、静かに部屋を出た。

暗闇の中に一人で起きていると、余計なことを考えてしまうからいけない。
ここ最近人として過ごしていた時間帯に、犬としてマルコさんの一番近くにいたこと。
貰った首輪が海の色で、それが過去に一度だけ見たマルコさんの炎の色を連想させること。

嬉しい筈なのに、部屋を出るときに一瞬だけ見えたマルコさんの寝顔が頭の中にチラつくたび、どうしてか胸の奥がツキリと痛んだ。

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