S×R 不死鳥連載 | ナノ


私はもう貴方以外は想えません


私を拾ってくれた人は、ゆっくりゆっくり、まだ元気に歩けない私に合わせて歩いてくれた。
横を歩きながらちらちらと顔を見上げるようにしていれば時々目を合わせてくれて、私は尻尾から元気を取り戻し始めたみたいな気分だった。

そして今、私はとてつもなく大きなクジラの上に立っている。

このまま行くと海に出るな、なんて考えていたら男の人が足を止めたのはやっぱり海岸で、あれがお前の新しい家だよい、なんて言われた方向を見てみれば沖の方に大きな大きな船が泊まっていたのだ。
そのすぐ後に隣で火が燃える音がして、びっくりして見上げたら男の人が真っ青な炎に包まれてて。
ぎょっとして身を強張らせた瞬間に大きな鳥の足で首根っこを掴まれて、あっという間に船の上。
痛くはなかったけど、自分が空を飛んだことが信じられなくて暫く動けなかった私は、今度は沢山の人に囲まれてもっと動けなくなってしまった。

けれどそこにいる人達を見て、あぁきっとこれは海賊の船なんだなってことが分かった。
前に一回乗ったことがあるから何となく、だけど。
お酒の匂いがして、海から香るのとはまた別に、ここにいる人達の体に染みついた潮の香りがして。

「おぉマルコ、おかえり」

他には何か特別な匂いはするかな、と縮こまりながらもスンスンと鼻を利かせていたら、私達を囲んだ人達の中から頭に何か大きなもの(あれは髪の毛なのかな)をくっつけた男の人が出てきた。
その人は明らかに私の隣にいる人のことを見ながら声を掛けていて、私はここでやっと、私を拾ってくれた人の名前が“マルコ”だということを知った。

「サッチか」
「どうだったよ?」
「ひでェ有様だったよい」
「やっぱりか……」

頭上で交わされる言葉に耳を傾ける。
どうやらこの人たちは、この島を襲った海賊船と海で出くわして(船は沈めちゃったみたいだ)、様子を見に来たらしい。
私が最初に出会った海賊は良い人達だったけど、この島を襲ったのも海賊だった。
そして私を拾ってくれた人もまた、海賊。

「……ん?こいつは?」

海賊と一括りにしても色んな人がいるんだな、って思っていたら、今度はマルコさんにサッチと呼ばれた人が私に気付いたみたいで、しゃがみ込んで私の顔を覗き込んできた。

「あぁ、拾った」
「拾った!!?」

ハァ!?お前が!!??
いきなり顔の近くで大声を上げられて、びっくりした。
そしてサッチさんの大声で周りに集まっていた人達皆の視線が私に突き刺さって、思わずマルコさんの足の後ろに隠れるように小さくなった(生憎私は大きな犬だから、いくらマルコさんが大きいとはいえ全く隠れられていないのはこの際気にしない)。

「唯一の生き残り、だよい」
「生き残りっつったってなァ……マルコが犬を拾うなんてこりゃ……そうか!!皆気を付けろ嵐が来るぞビョッ「うるせェよい!!」

そうこうしている間に、マルコさんがサッチさんを蹴り飛ばしてしまった。
周りの人達は空気が震えるくらいに大爆笑しているけど、あぁぁ、今のは痛そうだ。
恐る恐る近付いて、項垂れているサッチさんの頬っぺたにフンフンと鼻先をくっつける。
そうするとサッチさんは嬉しそうに、私の頭を撫ぜてくれた。

「なんて良い子……!!マルコ、この子女の子だよなおれが飼ってもグフォッ「お前が言うと危ねェよい!!」」
「マルコが戻ってきたってー?」
「エ、エース……サッチ君もう駄目かもしれない……」
「何言ってんだお前リーゼントピンピンしてんじゃねェか」
「リーゼントはおれのアイデンティティであっておれ本体ではない!!」
「マルコ、オヤジが呼んでるぞ」
「あぁ、今行くよい」
「無視!?無視なわけ!!?」

一人、また一人、マルコさんの周りに人が集まる。
マルコさんが私を拾ってきたというのはもう耳に入っているみたいで、皆よろしくな、とかあんまりやんちゃするなよ、とか言いながらぐりぐりと頭を撫ぜたり、耳の付け根を掻いてくれたり。
優しい思い出ばかりが詰まった島を離れるのは寂しいけれど、ここの人達もとてもとてもあったかいみたいだ。



皆が持ち場に戻って、船が動き出す。
そうしてやっと解放された私は今船長室に向かって歩いていて、もちろん隣にはマルコさんがいる。

「やっていけそうかい?」

ふと、立ち止ったマルコさんが小さく口角を持ち上げて私を見下ろす。
きっと話が通じると思って話しかけている訳ではないのだろうけど、それでも私はパタパタと尻尾を振って、元気に一度だけ吼えて見せた。
驚いたように、マルコさんの両目が見開かれる。
でも次の瞬間にはマルコさんの顔は私の目の前にあって、最初に出会った時のように目線を合わせてしゃがんでくれたマルコさんはまた、とびっきりの笑顔を一つ、くれたのだ。

きっと、もう。
私はもう貴方以外は想えません

皆優しくてあったかかったけれど、貴方は私にとって特別なのです。


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