夕闇の街中で憂鬱
島を目前にして受けた襲撃は、ドフラミンゴさんが一瞬にして終わらせてしまった。
彼は既に1隻沈めていて(やっぱりそんな音がしたのは気のせいじゃなかったようだ)、その後はマストの上で傍観していたらしいけれど、私を助けてくれてからはもうあっという間だった。
「フッフッフッ!!あっけねェな」
笑いながら船を沈めちゃうあなたはおっかねェです、なんて。
この船にはそんなことを言える人は乗っていなかったようで、船の残骸には見向きもせずさっさと私を連れて船室へ戻ってしまうドフラミンゴさんを呼び止める声はなかった。
「怪我はねェかよ」
生まれて初めて味わった死の恐怖から解放されて、腰が抜けてしまった。
そんな私を横抱きにしていたドフラミンゴさんは、私を下ろすことなくそのままソファに座った。
「……」
「…おいおい、泣くほど怖かったか?」
私はさっきからずっとこの調子だ。
助けてくれたドフラミンゴさんの上着を握り締めて、ただ謝って。
最初こそお仕置きが必要か?と笑っていたドフラミンゴさんも私の謝り方がおかしいことに気付いたのか、それ以降は何も言わなくなった。
そうしてこの部屋に辿り着いて今度は怪我をしていないかと聞いてくる。
思わず、堪えていた涙が頬を伝ってしまった。
「ちが、います」
「ならどうして泣く?」
言えない。言えるわけがない。
私は気付いてしまったのだ、死を覚悟したその時、自分の気持ちというものに。
信じたくて、でも信じきれなくて、最後の最後で疑ってしまって、だけど結局それが間違いだったと分かって、頭の中はぐちゃぐちゃだった。
私はこの人のことを好きになってしまったのだ。
神様というものがいるなら、きっと馬鹿な小娘だと嗤うんだろう。
最初はあんなに怖がっていたのに、意外すぎるほど優しい手付きと態度に絆されて。
まんまと嵌ってしまったわけだ。
もがけばもがくほどに逃げ出せなくなる、深みに。
それから1時間もしないうちに、船は島に辿り着いた。
大きな島だった。
道には人が溢れ、所狭しと店が立ち並ぶ賑やかな街。
私は、ドフラミンゴさんから逃げ出した。
隙をみて、人ごみに紛れて。
成功する確信はなかったけれど、やるしかなかった。
これ以上一緒にいたら、離れられなくなってしまうような気がして。
私はただの一般人で、ドフラミンゴさんは海賊で王下七武海だから。
いつか必ずやってくる別れが、怖かった。
どのくらい走っただろう。
人ごみをかき分けて、暫く走って、後ろを振り返ってもあの大きな人影が見えなくなった所で細い路地に入りこんだ。
大通りから見えないように、そこら辺に積んであった木箱の陰に座りこむ。
建物の間を見上げた先にあるのは、夕方でもなく夜にもなりきれない、そんな薄暗い空だった。
夕闇の街中で憂鬱
「…フフフッ、こんなところにいたのかよ」
見つけて欲しくなかった。
…違う、見つけて欲しかった。
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