S×R 桃鳥連載 | ナノ


脳内ブルー


もふもふと暖かい羽毛の感触が、頬に当たって心地好い。
そんな温もりを離したくなくて無意識に握り締めていた指の力を抜いて、私は小さな欠伸をひとつ。
そうしてもそりと寝返りをうとうとした時、私はようやく異変に気がついた。

腰に回された固い腕。
布団と思っていたそれはどピンクの羽の塊で、ソファかなにかだと思っていたそこはそれ自体が熱を帯びている。
そして、

「フフフッ、やっとお目ざめかよ」

寝起きに硬直した私の頭上からかけられた声。
ようやっと状況を飲み込んで慌てて飛びのこうとするものの、腰にがっちりと回されたままの腕はそれを許してはくれなかった。

「あ、ああああのあのわわわ私まさかずっとここで寝て…!!!!」
「ベッドに運んでやろうかと思ったけどな、権兵衛チャンが離してくれなかったもんで。フフフフフッ」

私はなんてことを。
片腕で私の体を拘束したまま、芝居がかった仕草で上着の衿元をひらひらとはためかすのは紛れも無くドフラミンゴさんだ。
泣く子も黙る王下七武海の一人で、昨日初めて会って、私を拉致した張本人だ。
その人の腕の中で一夜を明かしてしまったというのか、私は。

「…あの」
「別に怒っちゃいねぇよ」

フフフッ、と笑うドフラミンゴさんは、どうやら私の心を読んだらしい。
眠った私を膝に乗せていては動くこともままならなかっただろうに、上着を掴んでいたからってそのまま寝かせてくれていたと。
この人ならきっと、私の指を解いてベッドに放り投げることくらいたやすいだろうに。
それでいいのだろうか王下七武海。

そもそも私はこの人を怒らせたから拉致されたんだとばかり思っていたけれど、実際どうなんだろう。
そういえば、こうして考えるのも今更ではあるけれど昨日から不思議だったんだ。
部下を海軍に突き出した私に、怒ったようなそぶりを全く見せないのだ、この人は。

「…本当に、怒ってないんですか」
「怒ってねェよ」
「傘下の海賊を海軍に突き出した私を怒ってないんですか?」
「寝起きの割に随分と饒舌だな権兵衛チャン」

フッフッフッ、と。
ドフラミンゴさんは心底楽しそうに笑いながら、距離をおこうと動いた私の体を抱え直した。
私はただ一晩眠って少しだけ冷静になっただけで決して饒舌になっているわけではないのだけど…まぁそんなことはきっとどうでもいいんだろう。
どちらかと言えば私が冷静でいることよりも腕の中から逃れようとしていることの方が問題だとでも言いたげな反応だ。

「あれしきのことでお縄になるような奴ァ部下にはいらねぇんだよ、殺すつもりで出てきたんだからな」
「こ、殺…!!?」
「フッフッフッ!!とにかくだ、権兵衛を見付けた今となっちゃ奴らのことなんざどーだっていいのさ。気にすんな」

気にすんな、と言われても。

今の言葉によって、今更ながらこの人が海賊であることを痛感させられてしまった。
いくら優しく私の名前を呼んでも、どんなに優しくしてくれても。
この人は海賊なのだ。
その気になれば人だってその手にかける、海賊なのだ。

「むしろ権兵衛に会えて感謝してるくらいだぜ、フフフッ!!」
「そう…ですか」

私は知らないんだ。
拉致した女になんだかんだで優しく接する、この人のそんな一面しか知らないんだ。

一体、ドフラミンゴという男はどんな人なんだろう。
私に見せてくれた優しさがこの人の全てなのか、一部なのか、それとも偽りなのか。
なんとなく、なんとなくだけれど偽りではないと思いたくて、気付いたら私はドフラミンゴさんの上着を握りしめていた。
目を合わせることができなくて、俯いて、眠っていた時のように。

きっと、ドフラミンゴさんは私が何を考えているか察してしまったんだろう。
何も言わずに私を拘束する腕に力が込められて、頭上からは小さな溜息が聞こえてきた。


脳内ルー

分からないけれど、信じたい。
誘拐犯と同調して恋に落ちてしまう被害者がいると聞いたことがあるけれど、もしかしたら私も同じなのかもしれない。



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ギャグ甘のつもりがなんだかシリアス気味に…こりゃいかん。

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