取り返しのつかない事実
この羞恥プレイが開始されてからどのくらい移動しただろう。
あの店は港からそんなに遠いわけではないから、ドフラミンゴさんがそこを目指しているならそろそろ到着してもいい頃だ。
あぁそれにしても、人間が諦めという感情をもって生まれたことには、創造主というものが本当にいるならば大感謝したい。
もう逃げられない、どうすることもできないと思えばこの羞恥プレイに甘んじることも…なんとか、なんとか諦めてしまえた。
この際、普通は味わえない視線の高さから見る景色を楽しんでおこう。
そうだそれがいい。
そう思うことにして、恥ずかしくてドフラミンゴさんの肩口に伏せっぱなしだった(これはこれで随分こっぱずかしい事をしていたもんだと今更ながらに後悔した)顔を上げてみる。
…おぉ、遠くの方まで良く見える。絶景かな。
進行方向を向けば、いつの間にやら港は目の前にあった。
そして否応なしに目に入ってしまった、それ。
「あのー…」
「フフフッ、今度はなんだ」
港に停泊する船の中でも一際目立つ立派な船…
「まさか、アレで?」
それを指差して恐る恐る聞いてみれば、私を抱き抱える男の口はこれでもかというほど盛大に釣り上がった。
「正解だ、フフッフフフッ」
アレに、ではない。
私はアレで、と聞いた。
それが正解ということはあれだ、要するに。
…あれ、私ってばこれ本当に帰してもらえるの?
口を半開きにしたまま固まる私を他所に、ドフラミンゴさんはずんずんと船に近付いていく。
ちょっと待ってよ、心の準備というかなんかもう色んなものが追い付けてない。
港に向かうと言われればそりゃ最もベーシックかつノーマルな目的は船に乗ることなんだろうけど、最後の最後までそんなこと認めたくなかった。
だって私は生まれてこの方一度もこの島からでたことなんてない。
ここはグランドライン上にある島だ、外海に出ればどんな危険があるかなんて子供でも知っている。
だから私は島から出ようとはしなかったし、これから先も出る事はないと思っていたのだ。
つまり、つまりは、だ。
「わた、私、船に乗ったこと…な……ゔッ」
そうこう考えているうちにドフラミンゴさんに抱えられたまま船に乗せられてしまって、その瞬間を待っていたかのように船が動き出してしまえば、
ここにきてようやっと降ろされた私が船特有の揺れを感じてこうなることは明白なわけだ。
「フフッ、なんだもう酔ったのか?早ぇな」
面白そうに私の顔を覗き込むドフラミンゴさんは、それでもさりげなく背中をさすってくれていたりして。
半分涙目で恨めしげに睨んではみるものの、怒るに怒れなくなってしまった。
取り返しのつかない事実
あの時なんでもしますなんて言っちゃった事実を、取り消すことはもはや叶わないようだ。
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