S×R 桃鳥連載 | ナノ


消えてなくなりたい


「…下ろしていただけませんか」
「断る」
「自分で歩けます」
「逃げるだろ」
「逃げません」
「聞こえねェな…フフッ」

さっきから同じような会話を何度繰り返しただろう。
店を(半ば無理矢理)後にして、今私は街中を闊歩している…のは七武海の男で、その小脇に抱えられたまま両手両足をぶらぶらと遊ばせている。

私はこの街で生まれ育った。
15の時に両親を亡くして、それからずっとマスターのとこで働かせてもらっていた。
時には親のように接してくれたマスターには言葉で言い表せないくらい大きな恩があったし、そんなものなくても私はあのマスターが大好きだったからあんな言葉が飛び出してしまったんだろうけど。

それにしたって、どうして拉致されたのだろう。
確かに何でもするとは言ったけれど、まさかまさかこのまま一生この男に…かかか飼われるとかそんな恐ろしい未来が待っているのだろうか。
流石にそれはいやだ。
いやでもたしかこの男、店を出るとき借りてくとか言ってたはず。
ということは私はそのうち解放してもらえるのだろうか。
…考えていても仕方がない。
だってこの男の考えていることは全く読めないから、私がどんなに考えたってそれは想像の域を出ないのだ。

「あのう…」
「ドフラミンゴ」
「……はい?」
「おめェ、さっきから話してりゃおれの名前知らねぇだろ」
「え…あ、はい」
「だからドフラミンゴだ」
「はぁ」



ドフラミンゴ…なんだかあの首の長い鳥を連想させる名前だ。
だからそれっぽいピンクのもっさりとした上着を着ているのだろうか…だとしたらちょっと面白い人じゃないか。

………って。しまった。
突然あまりにも普通に名前を教えてくれたもんだから、聞くタイミングを思いっきり逃してしまった。

「…ドフラミンゴ、さん」
「あァ」

名前を教えてもらうと、復唱したくなるのはなぜだろう。
例に漏れずポソリと反復すると、ドフラミンゴさんは怒るでもなく満足そうに返事をしてくれた。
案外いい人なのかもしれない。
いやいや、早まっちゃいけない。
ともかく、私は何処に連れていかれてどうなるのか知らなければ。
そして、いい加減この荷物みたいな状態から脱却しなければ。

「ドフラミンゴさん」
「なんだ」

よかった、普通に反応してくれた。

「何処に向かってるんでしょうか」
「港だなァ」

ここまでは、順調。

「…その後は」
「フッフッフッ、秘密だ」

やっぱりこうなるのか。
素直に教えてくれるとは思っていなかったけどやっぱりこうなるのか。
きっと今、私の身体にはずーんという効果音とともに青みがかった空気と沢山の縦線が纏わり付いていることだろう。
でもめげちゃいけない。
せめて、せめて第二の目的だけでも達成しなければ。

「あの、ドフラミンゴさん」
「今度はなんだ?」
「いい加減下ろしてください」
「断るっつったろ」
「でもこの体勢腰に負担が」
「何ジジくせぇこと言ってやがる」
「首にも負担が」
「………」
「手足の血流が」
「…わかったわかった」

やったよマスター!!
私やればできる子だったよ!!

小さくガッツポーズをして、ドフラミンゴさんの腕が動いたのを感じて地に足を付ける準備を整える。
さっきから視線が痛かったんだこの体勢は。



と、安堵したのもつかの間。


「…え?」
「これなら文句ねぇな」

ひょいと体勢が変わって、遠ざかるはずだったドフラミンゴさんの顔がさっきより近くなっている。
アホほど身長の高いこの人の隣に立てば、小脇に抱えられている状態より遠くなるはずだったのに。
おかしいな。
あれ、そういえば私の足、まだブラブラしてる。

「………は、」

気付けば私はドフラミンゴさんの肩に手を置いていて、ドフラミンゴさんの折り曲げた左腕に座っていて、ドフラミンゴさんの左手は私の膝の辺りを抱えていた。



そんなばかな。


「………下ろしてください」
「フフフッ、やなこった」



さっきより数段高くなった視線で、さっきの数倍回りの視線が痛くなったことを知る。
何度も言うが、私はこの街で生まれ育ったのだ。
つまりは、見知った顔だらけ。





あぁもう。

えてなくなりたい





あまりにもあんまりな羞恥プレイに耐え兼ねてドフラミンゴさんの肩口に顔を埋めれば、
聞こえてきたのは満足そうに笑う声。

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