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聖なる夜に乾杯!!


恋人と過ごす理想のクリスマスは?

煌びやかなイルミネーションに彩られた街でデート。
夜景の綺麗なレストランでディナー。
手作りのケーキを食べて内緒で準備していたプレゼントを交換し合って、のんびりお家デート。






「…どれも結局は理想だよなぁ」

二人掛けのソファのひじ掛けを枕に仰向けに寝転がり、ごんべはそんな記事が見開き6ページにわたって書かれている巷で話題の情報誌を手に溜息をついた。
どれもこれも“ロマンチック”を絵に描いたような話だ。
恋人は…いるにはいるが、とてもじゃないがこんな風に過ごせるような雰囲気ではない。
なんせクリスマスイブは明日に迫っているというのに、その恋人は絶賛お仕事中で一週間後にさえ終わる気配がないのだ。

「ちょっとちょっと、なんの話?」

ちなみにその恋人とはこの執務室の主でありごんべの直属の上司でもある大将青雉…クザンなわけだが、さっきからごんべはデスクに向かっている彼をほったらかして寛ぎきっているのである。

「職業柄仕方ないか…休みなんて貰えそうもないし」
「あららら、ごんべちゃん無視?」

ばふ、と顔の上に開いたままの雑誌を落とし、目を閉じる。

「叶わぬ夢は見ないほうがいいってことかなぁ」
「こら、人を無視して達観しないの」

そうして先程まで雑誌を掴んでいた両手を頭の下に組んでもう一度大きく溜息をついたところで、ごんべの視界を塞いでいた雑誌が大きな手によって取り払われてしまった。

「あ、ちょっと返して下さい」
「…ふーん、クリスマスね」
「……なんですかその顔は」

もちろん雑誌を持ち上げたのはごんべが無視し続けていたクザンその人で、記事(というよりでかでかと書かれた見出し)を見てその意味を理解した彼は眉間にシワを寄せていた。
ごんべはごんべで雑誌を取り返そうと躍起になるものの、ただでさえ背の高いクザンが雑誌を持った手を上に挙げていたのではソファに立ち上がったところで届く訳がない。
2、3度悔し紛れに跳びはねてすぐに諦めた。

「珍しく雑誌なんか読んでると思えば…なるほどね」
「私がイベント気にしちゃ悪いですか」

クザンの反応になんとなく居心地が悪くなって、ごんべはクザンに背を向けるようにソファの背もたれに顎を載せて座り込んだ。
別にクザンに何か言ってほしくて独りごちていたわけではないのだ。
雑誌に熱中するあまり、部屋にクザンがいることを忘れかけていただけで(それはそれでどうかと思うが)。

「あらららら、怒んないでよ」

そんな心中も他所に、クザンは彼より一回りも二回りも華奢なごんべに覆いかぶさるように背もたれに手をつき、ぶーたれた顔を覗き込む。
もともとごんべがどんな表情でいるのか予測がついていたのだろう、ごんべの視界に入ってきたクザンは困ったような、けれどどこか楽しそうな笑みを浮かべていた。

「こー見えておれはマメな男よ?」
「何が…」
「まぁまぁ、明日楽しみにしときなさいよ」
「だからなんの話…Σ!?」

わかった?と耳元で囁いて、色々と置いていかれている感の否めないごんべの頬にキスが落とされる。
それに驚いて振り向くも、立ち上がったクザンはすでにデスクに足を向けようとしていて、ポカンとしているごんべに向かって手を振っていた。

「今日のところは帰んなさい」

もうとっくに終業時間過ぎてるし、と言われて初めて見た時計の針は、19:40を指している。
時計の後に見遣った恋人は既にデスクに座っていて、新たな書類の束を積み重なったファイルの山から抜き出していた。

「そ、れじゃあ…クザンさん、慣れないことしてるんだからあんまり無理はしないでくださいよ」
「あらら、随分な言われようじゃないの…おやすみ、ごんべ」
「はい、おやすみなさいクザンさん」

ごんべは穏やかに笑ったクザンのせいで再び変に心拍数が上がったのをごまかすように、ペこりと頭を下げてそのまま部屋を後にした。

雑誌がクザンの手の中にあることを、すっかり忘れたまま。








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「おはよう、ごんべ」
「……………は?」

翌朝、目が覚めたごんべの目の前にはあるはずのないクザンの顔。

「今日はごんべとおれ非番だから」
「……………へ?」

だから、理想のクリスマスってやつを満喫しようじゃないの、と。

「メリークリスマス、ごんべ」


そう言って呆けたままのごんべにキスを落としたクザンは、言われるがままに支度を済ませたごんべを自転車の後ろに乗せて。
煌びやかなイルミネーションに彩られた街にある夜景の綺麗なレストランで、豪華なディナーをご馳走してくれた。





聖なるに乾杯!!




「クザンさん、こんな時になんですがお仕事は…」
「あー…まぁほら、ね、いいじゃないの今は」
「サボったんですね(でもまぁ、いっか)」
「んん?聞こえねェなー」
「のわ、ちょ、だから膝の上は嫌だって…!!」
「あったかくていいでしょ」
「Σひゃ!!どこ触ってんですか!!」
「何を今更」

そんな二人の夜は、のんびり(?)お家デート。




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