S×R 鷹連載 | ナノ


004


『おれと共に来い』

そう言ってくれたミホークさんの後に付いて暫く歩くと、密林(と言うほどでもないかもしれないけど)が続くと思っていたそこには多くの店が軒を連ねていた。
無人島だと思っていたここはどうやらちゃんと人が住んでいる島だったらしい。
自然ばかりの海岸から木々の間を抜けて島の中心に向かえば、そこには普通に栄えている町があった。驚きだ。

「無人島じゃなかったんだ…」
「何を言っている?」
「私が住んでいたのも島国だったけど、もっと規模が大きいというか…こういう島は身近ではなかったので」

聞いておいてミホークさんの反応はなるほどな、と頷くだけで、ちょっと拍子抜けしてしまう。
ここに来るまでに分かった事だけれど、この人はどうやら相当マイペースな人物らしい。
自分の名前を教えてくれたと思ったら突然何も言わずに歩きだして、反応が遅れた私に「なんだ来ないのか」とか平然と言ってみたり(そういえばこの時、初めてミホークさんの背中にあるものがただの十字架でないことに気付いた。雰囲気からしてただ者じゃないとは思っていたけどあれには驚いた)。
それからずっと無言で歩いていたかと思えば唐突に「名は」とだけ聞いてきて、ななしの ごんべですと答えれば「そうか」の一言。
それになにより驚いたのは、失礼を承知で参考までに尋ねた“助けてくれる理由”だ。

「退屈しなくて済みそうだからな」

暇つぶしだ、と。
そりゃもうビックリした。人助けの理由が暇つぶしって一体なんぞと。
右も左もわからない私を助けてくれるんだから文句は一切ないのだけど、そう言われるとなんというか…こう、何か面白いことをして楽しませるべきなのかと考えてしまうではないか。
大道芸的な特技は持ってないぞ、と項垂れた私に、ミホークさんは「そんなに深く考える必要はない」とフォローしてくれたけれど、最初に付いてくればいいと言ってもらった時から恩返しをしなければと考えていた私は、その手段に頭を悩ませることになったのだ。
そう言えばあの時、項垂れる私を見てミホークさんが笑った気配がしたのは何故だったんだろう…

「…おい、聞いているのか?」
「え、ぁ、はい!?」

考え出した私は、現在進行形でミホークさんが何かを言っているのを聞き逃していたらしい。
でも立ち止まって私の顔を覗き込んだまま、考え事かと尋ねてくるミホークさんに怒っている気配は微塵も感じられない。
…マイペースなだけじゃなく、器が大きい人なんだ、きっと。
我に返った私が聞き返すと、ミホークさんはゆっくりと曲げていた背を戻して腕を組んだ。

「まずはその恰好をどうにかするか、と言ったんだが」

そういえば、と。
言われて、私はやっと自分がどんな格好でいるかを思い出した。
暖かい気候であるにもかかわらず、ブーツにコートにマフラーに…服装は完全に冬物だ。
それに加えて海水によって全身くまなくずぶ濡れ、かつ、至る所に砂が付いている。
乾き始めてはいるけれど、それでも街中では完全に浮いている。
ひとまずコートを脱いでみるも、濡れていることに変わりはないし全体的にこう…ベタベタとしている(海水だから当たり前か)。
確かに、まずはこの恰好を何とかしなければならないかもしれない。
意識してみれば、行き交う人の視線が痛いではないか。
…だけども。

「…ここの通貨って何ですかね」
「?ベリーだが」
「やっぱり…」

だけども、私はまだこの世界での通貨を手にしていないのだ。
ほんの僅かな希望は聞き慣れない単語によってたった今見事に粉砕された。
つまり、私は無一文なのだ。
一度自分の身体を見下ろしてみて、今更になって鞄を持っていないことに気付く。
あれだけ大きな波に攫われたのだから当たり前かと諦めて何かないかとポケットを漁ってはみても、貧乏大学生の自分がお金になりそうなものなんて持っているわけがない。
せいぜい使い物にならないケータイと、同じく濡れて使い物にならなくなったデジカメくらいのものだ。

再び溜息と共に項垂れる。
この世界で生きていくと言って、初っ端から躓いているではないか。

「どうした、行くぞ」

そんな私の撃沈っぷりを余所に、ミホークさんはくるりと方向転換してしまう。
どうするつもりなのかととりあえず後を追ってみれば、彼が入って行ったのは女性物の服がディスプレイされた…私のような庶民には明らかに敷居の高そうな大きなショップだった。

「ちょ、ちょ、待って下さいミホークさんてば」

無理だ、そんな高そうな店は色々な意味で無理がある。
どうやって止めればいいのか分からずに店の前で固まっていると、彼は何やら店員さんに手渡しながら話を進めているように見える(ちょっと待て、今のアレ札束じゃなかったか)。
そしてくるりとこちらを振り返ったミホークさんは、そんなところで何をしているとでも言いたげな顔をして私を呼び寄せた。

「後は任せる」
「か、かしこまりました」

え、え、とミホークさんと店員さんの顔を交互に見比べるも、早く行けと視線で言われこちらへどうぞと手を引かれてしまえば従うしかない。
店員さんに店の奥へと導かれながらミホークさんを振り返れば、彼は暫くしたら戻るとだけ言って立ち去ってしまった。

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