S×R 鷹連載 | ナノ


039


遠くに、島が見えた。
船の先端で目を凝らしてやっと肉眼で確認できる程度の距離だけれど、そこは靄がかかったように霞んで見える。
海軍大将と遭遇した島を出たあとは結局何事もなく2つの島を経由して、次に辿り着くのはミホークさんが拠点にしている島の筈、なのだけれど。
もしやアレがそうなのだろうか。

「ミホークさん、島ってあれですか?」
「…どれだ」

椅子に座っているミホークさんを振り返って尋ねてみれば、一拍遅れて返事が返ってきた。
きっといつものように座ったまま昼寝でもしていたんだろう。
相変わらず寝起きだというのに緩むことのない表情がこっちに向いて、私は島の方向を指差してもう一度確認した。

「あっちに見える島です」
「あぁ…間違いない」

凄く今更だけれど、現代っ子の私と違ってミホークさんは視力がとても良さそうだ。
今までも何度かこういうことがあったけど、私には目を細めてもおぼろげにしか見えないものを一瞥しただけで確認できてしまうとは少し羨ましい。
一度、あのCの字の表を使って視力測定をしてもらいたい…と脱線しかけた思考を元に戻して、私はもう一度目を瞑ってしまったミホークさんに声を掛けてから荷物を纏めるべく船室に向かった。
今日中に着くことが分かった以上、さっさと準備をしておかなければ。
元々必要最低限の荷物で済ませていたとはいえ、前の島で殆どサイズだけでミホークさんがお買い上げになった大量の洋服達(料理の駄賃として受け取れと言われたけれど、明らかに多すぎる)が、纏められるのを今か今かと待っているのだ。



* * * * * * * *

「こ、れは…」
「かつての王国の跡地だ」

夕刻になって辿り着いたその島には、大きな墓標があった。
ミホークさんは特に気にする様子もなく進んでいくけれど、霧の立ち込めるそこには明らかに戦の痕が残っている。
崩れ落ちた建物に、そこらじゅうに散乱している武器や防具。
ずっと前に観た中世の時代を描いた洋画で、こんなシーンを見たことがあるような気がした。
スクリーンに映ったものと実物とでは、感じるものも随分と違うのだけれど。
それだけでも不安を煽られるというのに、近くもなく遠くもなく、そんな距離でガサガサと動物の気配がしたうえにキラリと光る幾対もの目が見えてしまったものだから、背筋がぞっとしてしまった。

「あれはヒューマンドリルだ」
「ヒューマンドリル?」

チラリと、視線だけを夕闇の中に投げかけたミホークさんが歩調を緩めて、少しだけ距離が近くなる。

「ここで起きた戦争を見て武器を扱うことを学んだ知能の高い動物だ。おれといれば襲ってはこない…安心しろ」
「わ、分かりました」

確かに近からずも遠からずと言った距離で物音は聞こえても、それ以上こちらに寄って来る気配はない。
むしろ、よくよく見てみれば時折見える対の瞳は畏怖や恐怖を映しているようにすら見える。

戦争の跡地、武器を扱う事を学ぶ動物、それを存在だけで退けるミホークさん。
それだけでも驚くには充分なのに、私はこの後目の前に聳え立つ城を目の前にして「これが住処だ」と宣言されて、更に驚愕することになるのだった。


(城……これ、お城ですよねミホークさん)
(そうだが)
(似合いすぎて洒落になりません)
(冗談ではない)


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