S×R 鷹連載 | ナノ


038


天の助けとは、まさにこの事を言うのかもしれない。

「…こんな所で何をしている」
「ミホークさん…!!」

今、私の顔はこの上ないほど綻んでいることだろう。
いきなり寝始めてしまった自称海軍大将さんを目の前に動けなくなっていた私の隣に人の立つ気配がして見上げてみれば、そこには心の中で呼んでいたミホークさんの姿があったのだ。

「やっとお出ましか」
「……」
「そんな怖い顔で睨むなって」
「ミホークさん…お知り合いですか?」
「それは大将だ、海軍の」
「おいおい、いくらなんでも“それ”はないでしょうよ」

自称じゃなくて、本当に海軍大将だったのか…
ミホークさんの登場にアイマスクをずらしたクザンさんは(結局寝てなかったってことだろうか)、よっこらせと言いながら椅子から立ち上がった。

「何も捕って食おうとしたわけじゃないんだから」
「回りくどい真似を…」
「こうでもしなきゃ会わせてくれないだろ、話聞く限り」

ミホークさんは立ち上がったクザンさんと私の間を遮る様に立って、こちらに背中を向けている。
腕を組んでクザンさんを睨み上げている(と思われる)その後ろ姿は、少々機嫌が悪そうだ。

「まァそういうわけだから、またな」
「へ?あの、え…っと」
「そのうち会うことになる…たぶんだけど」
「はぁ…」

最後までのらりくらりとした口調のまま、クザンさんはミホークさんの陰からひょっこりと顔を出して私に手を振ってきた。
思わず手を振り返してしまったら、もう一度クザンさんの視界から私を隠し直したミホークさんに後ろ手で制されてしまった。

「……油断できん」
「ミホークさん、あの人…」

クザンさんが完全に店の外に出てから、やっとミホークさんはこっちに向き直った。
そうして一つ、小さな溜息を溢すと、さっきまでクザンさんの座っていた私の向かいの席にどっかりと腰を下ろした。

「この町にいることは分かっていたが」
「私がミホークさんの“連れ”だって、知ってたんですね」
「情報が回っていたか」

ミホークさんは、クザンさんが手を付けずに置いて行ったカップをチラリと見て眉を寄せながら(たぶんあの人が飲みもしないのに相当な量の砂糖とミルクを混ぜていたからだろう)、もう一度吐息のような溜息を溢した。

「これでは別行動をした意味がなかったな」
「…というと?」
「……」

私の前に置いてあるコーヒーも、きっと冷めていることだろう。
ミホークさんは背もたれに体重を預けて足を組んだかと思うと、聞き返した私の目をじっと見据えてきた。

「…おれが行ったのは海軍支部だ」

一瞬、言い淀んでいたようだけれど。
私が視線で問いかけていたからだろうか、ミホークさんは観念したように話してくれた。

「極力、お前を海軍の目に触れさせたくはない」

余計なマークをされるのは避けたかった、と。
ただでさえ厄介な人物(言わずもがな、それはあのピンクの七武海だ)に目を付けられているのに、普段誰とも行動を共にしない自分が一緒にいることで海軍にまで無用な手出しをされては面倒だろうと。

「…無駄なことだったがな」

腕を組んで、ミホークさんは何かを考えているようだった。
ゆっくりと伏せられた金の瞳は、どこか遠くを見ているような。

ちょっとポジティブすぎるかもしれないけれど、私は嬉しいなんて思ってしまった。
深読みとかそんなのをしなくても、今のミホークさんの言葉からは私のことを考えてくれている、それがしっかりと伝わってきたから。

「そんなことないです」
「…?」
「ありがとうございます、ミホークさん」
「…そうか」

なんだか、海軍大将とご対面したことが遠い過去の出来事のようにすら感じてしまう。
私が笑えばミホークさんもフッと目を細めて笑ってくれて、なんだかもう、それだけで十分だった。



(一度宿に戻りますか?)
(うむ)
(あ、お会計…(クザンさん、奢りとか言っときながらスルーしてったのか))
(……あやつ、)
(…折角だからミホークさんもコーヒー飲んでいきますか?)
(…一気に疲れたな)
(あはは…おっしゃる通りで)


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