S×R 鷹連載 | ナノ


036


でかい。
非常に、でかい。
というより、異常に縦に長い。

「大丈夫か?鼻、赤くなってるじゃない」
「え、あ、大丈夫です!!私が余所見していたのがいけなかったので…すみませんでした」

私がぶつかったのは、物凄く背の高い、全体的に白っぽい格好をした男の人だった。
ちょんちょん、と自分の鼻を指差しながら私の心配をしてくれているこの人は、悪い人ではなさそうだけれど。
如何せん見上げっぱなしでいると首が痛くなりそうな程度には、背が高い。
こんなに背の高い人を見たのは、これで二人目だろうか…あぁぁ、嫌な人を思い出してしまった。

「何、どうしたの急に」
「っなんでもありません!!」

もう一度、今度は頭を下げて謝ったのだけれど。
その瞬間頭に浮かんだピンク色のあの人の姿を振り払うためにそのままの体勢で頭を振ってしまって、ちょっと変な人に思われてしまったかもしれない。
慌てて頭を上げて何でもない何ともないと繰り返せば、その男の人は何故か笑っていた。

「面白いな」
「…はい?」
「いや、面白い子だな」
「私がですか?」
「君に決まってるじゃない…と、ちょっと悪いな」
「え、」

かと思ったら急に真剣な顔つきになって、今度は何故か腕を引かれてしまう。
自分に危害を加える様子を見せない以上こんな町中で変に抵抗する訳にもいかず、訳も分からず男の人と一緒に近くにあったコーヒーショップに入ってしまった。

「…あの」
「コーヒーで大丈夫?」
「あ、はい…じゃなくてですね」
「じゃコーヒー二つ。あ、奢るから気にしないでね。ところでキミ名前は?」
「あ、ご馳走様です…ごんべです。ってそうじゃなくて」
「おれはクザンね」

この人、ミホークさんとはまた違ったタイプのマイペースだ。
相手が上手いこと流されて、完全に巻き込まれてしまうタイプの。
男の人はコーヒーを二つ注文すると私に名前を尋ねて来て、ついつい反射的に答えてしまった私に聞いてもいないのに名乗ってくれた。
やっぱり、悪い人ではなさそうなんだけども。

「いや、悪いな急に」
「一体何なんですか?」
「んー…まぁ、いいじゃないのとりあえず。ほらコーヒー飲んで」
「あ、いただきます」

…いやいやいや、流されてどうする私。
完全にペースに呑まれてしまった。
言われるがままにコーヒーを一口飲んで、その苦みで我に返る。
慌ててカップをソーサーに戻して、男の人…クザンさんにもう一度向き直った。

「クザンさんは一体何者ですか?」
「これまた随分と直球だな」
「これ以外に質問のしようがないといいますか…」
「そうだな」

するとクザンさんは、うーん、どうしようかねぇなんて呟きながらグダッと、それはもうだらしなく頬杖をついた。
何もそこまでテーブルにへばり付かなくても、と言いたくなるくらいにはだらけている。
ミホークさんはよくテーブルに足を上げて座るけれど、あれは不思議と優雅に見える…のだがしかし、目の前のこの人は本当にだらけているようにしか見えない。

「あの、クザンさん…?」
「クザン」
「はい?」
「クザンって呼んでくれたら教えてあげようじゃないの」

…一体何なんだこの人は。
そのだらけきった体勢のままでニヤリと笑って訳の分からないことを言い出したクザンさんに思わず溜息が零れた。

「…クザン」
「おれね、海軍大将」

見るからに目上の人に対して呼び捨てにするのは非常に気が引けたけれど、この状況から脱出するにはこれしかない。
このまま席を立っても良いのだけど、最初にぶつかったのは自分の方だしコーヒーをご馳走になっている以上それは失礼すぎる気がした。
だから仕方なく、大事なことなので2回言うけど仕方なく名前を呼んでみたらあまりにもあっさり質問に答えてくれた。
でも待って、え?それって、ちょっと。

「大将青雉って、おれのこと」
「……は、…え?」
「今ちょっと仕事でこの町に来てるんだが面倒臭いから抜け出してきたのがばれたみたいでねー」
「あの、」
「見つかりそうだったから逃げたのよ」
「……」
「ついつい連れて来ちゃった」

連れて来ちゃった、って。
面倒臭いから抜け出したって。
大将、って……

「た、大将…ですか……」
「ちなみにおれの海兵としてのモットーはダラけきった正義だから」

あぁ、それには納得。
けれど、開いた口が塞がらないとは、まさにこの事を言うんだろう。
そのくらい、私は呆けきった顔をしているに違いない。

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