S×R 鷹連載 | ナノ


035


島に到着したのは、その翌日だった。

「あの島だ」
「でっかい…」

ミホークさんに声を掛けられて島の全貌を見てみれば、それは私が今までに見た中で一番大きいものだった。
遠くから見ても大きかった島は、当り前だけど近付くにつれて更に大きくなっていく。
徐々に鮮明になって行く島には町の姿も見えてきて、ついには島の端を確認できなくなってしまった。
私がその光景に目を奪われている間に、ミホークさんは慣れた動作で船を小さな港に泊める。
この島にはいくつか町があるようだけれど、今回はこの港町に上陸するらしい。
この町の主要部分であろう大きな港をスルーしてしまったミホークさんにどうしてか尋ねてみたら、見知った海軍の軍艦が停泊していたから相手するのが面倒くさい、という答えが至極真面目に返ってきた。
実にミホークさんらしい。
ただ、ミホークさんは色んな意味で目立つから気付かれちゃうと思います、ということはきっと本人も分かっている筈だと思うことにして、その台詞は私の心にしまっておくことにした。


「おれは少し寄るところがある」
「私はここで待っていればいいですか?」
「いや…この町は治安も悪くない。出歩いても問題ないだろう」
「わ、本当ですか?それじゃ、商店街の辺りをブラブラしてきます」

今回は数日滞在するとのことで、町に入ってまず向かったのは宿屋だった。
そこで荷物を置いてから町に出ることになったのだけど、ミホークさんには何やら用事があるらしく。
いつも一緒に行動していた分隣にミホークさんがいないのは物足りなく感じてしまう気がするけれど、逆にここで待っていることで気を遣わせてしまうよりはいいだろうと思って、お言葉に甘えて一人歩きをさせてもらうことにした。
この機会に、今まで入らなかったようなお店も覗いてみよう。

「迷子にはなるな」
「え、ちょっとミホークさんそれって…」
「行ってくる」
「迷子になんかならないですよ!!」

二人一緒に宿屋を出て、そこから各々別の方向へ。
けれど別れ際に迷子になるなと言われた揚句に頭を撫ぜられて、何とも言えない気持ちになった。
最後にくしゃくしゃになった髪を撫でつけながら目を細めて小さく笑っていたということは、あれでミホークさんは冗談を言っているつもりらしい。
なんとまぁ性質の悪い、なんて思いながらも、満更でもないと思ってしまう辺り我ながら困ったものである。

「さて、何処に行こうかな…」

とにかく、ここからは一人だ。
別れ際にミホークさんに押しつけられてしまった小さな袋(中身は確認するまでもなくお金だ)を無くさないようにポケットに入れて、私はウインドウショッピングを楽しむべく商店街へと向かうことにした。



* * * * *

商店街は多くの人で賑わっていて、洋服や雑貨のお店に若い女の子が集まっている光景は元の世界と同じだな、なんて思う。
奥様方が一緒に夕飯の買い出しをしていたり、カフェにはカップルが向かい合って座っていたり、小さな子どもたちがお菓子を見ていたり。
けれど、こういう光景を何度見ても思うのは、元の世界と同じだけれどこっちの方が活気があるな、ということだ。
お店の人とお客さんが、店員と客という垣根を越えて、“人と人”と言う関係で触れ合っているように見える、というか。
高級なお店では少し違うようだけれど、こういう庶民で賑わう商店街を歩くとなんだか心が温かくなるような。

自然と頬が緩むのを感じながら、何を買うでもなくきょろきょろとお店を覗きながら歩いた。
元々買うことよりも見ることの方が好きな性質だったので、ウインドウショッピングは好きだ。
ここには見たことのないような、何に使うかさっぱり分からないものも沢山あって非常に楽しい。
あのS字のような5の字のような、何とも言えない形をしている物は一体何なんだろう。

「あ、すみませ…ん」
「あらら、悪いな」

そんなことを考えながら歩いていたら、前を向いた瞬間に前方から歩いて来ていた人にぶつかってしまった。
思いっきり鼻面を強打して、少し涙目になっている自覚がある。
けれどこれは私の過失だと謝りながら相手を見て、驚いた。




「(お、おっきい…!!)」

視線の高さにあったのは、白いベストのボタン。
目の前に、物凄く背の高い男の人が立っていた。

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